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34章 インターバル 06

 週末、俺は猫耳アクセサリを取った『ウロボちゃん』と、3体のアンドロイド、ポニーテールのイチハ、ショートヘアのフタバ、おさげ頭のミツバを連れて明智校長の家を訪れた。


 イチハたちはもともと『深淵獣』を退治するための戦闘用アンドロイドなのだが、最近はその任を後輩アンドロイドに譲って、俺の世話をしたりイグナ嬢の手伝いをしたりと、『ウロボちゃん』直属の精鋭(?)アンドロイド娘となっている。


 ちなみにイチハたちは、もともと首から下はロボット的な感じだったのだが、今は完全に人間と同等の見た目である。なお『ウロボちゃん』を含め4体ともセーラー服姿だ。


「あらあら、相羽先生いらっしゃいませ。今日はウロボさん以外にも可愛い娘さんをお連れになっていらっしゃるのですね」


 明智校長の家の玄関で迎えてくれたのは、上品な老婦人の如月里子さんだ。本人は『明智家の小間使い』と言っていたが、もう少し重い役割がありそうな人ではある。


 家に上がってまず案内されたのは応接室だったが、そこにやってきた明智校長につれられて、そのまま奥の書庫へと向かうことになった。


 明智家の書庫は、個人の家のそれとしては目がくらむような規模のものだった。普通に町の図書館に匹敵するレベルである。


「こちらが我が家の書庫になります。祖父がとにかく各所から珍しい本を集めていて、それを十分に整理せずに並べてあります。それでも問題はありませんか?」


 明智校長がそう言うと、『ウロボちゃん』はコクンとうなずいた。


『問題ありません~。カテゴリー化などはデータベースにした後に行いまっす』


「そうですか。それではよろしくお願いします。相羽先生、私はこちらにいたほうがいいでしょうか?」


「いえ、ウロボたちだけでここは大丈夫だと思います。ウロボ、どれくらいかかりそうだ?」


『データの取り込みだけなら6時間ほどで終了すると思いまっす』


「わかった。ということですので、もしよければ彼女らに任せておいてください」


 俺が言うと、明智校長は溜息をついた。たしかに数万冊の本を6時間で処理するというのは、凄まじい話ではある。


「わかりました。よければ相羽先生もこちらに。お茶を飲みながらお話をしたいこともありますので」


 早速書物を手に取って、すさまじいスピードでページをめくり始めた『ウロボちゃん』たちを置いて、俺と明智校長は応接室に戻った。


 私服姿の女優系美人と一対一で差し向いになると、さすがの勇者も妙に緊張してしまう。


 里子さんが出してくれたお茶に口をつけていると、明智校長はわずかに微笑んだ。


「相羽先生には赴任以来本当に色々お世話になっていますが、先生が異世界でどのように勇者として活動していたのか、それをきちんと聞く機会がありませんでした。ですので、せっかくですから今日は少しお話を聞きたいのですけれど、いかがでしょうか?」


「あ~、ええ、もちろん構いません。といってもそこまで面白いものでもありませんが」


 そう言えば、俺が勇者だった時の話は青奥寺たちにもきちんとしていなかったな。進んで話すものでもないのだが、もしかしたら彼女らなりに気をつかって聞いてくるのを避けているんだろうか?


 それはともかく、俺は明蘭学園赴任直前にアパートから異世界に召喚されたところからはじまって、勇者としてのトレーニングや、勇者パーティ結成秘話、それから四天王との戦い、ルカラスとの出会い、魔王との最終決戦までをダイジェスト版で説明した。


 明智校長も興味深そうに聞いてくれる上に、ところどころでいい質問をしてくるので、話をする俺もつい盛り上がってしまい、気付いたら一時間半くらいしゃべっていた。少し恥ずかしい話だが、俺は誰かにこの話を聞いてもらいたかったのかもしれない。


「……相羽先生は本当に想像を絶するような経験をなさったのですね。それだけのことを成し遂げられて、その上で今のように一教員として生活をできるというのは、私には驚きしかありません」


「まあ元はただの日本人ですからね。向こうでは色々ありましたが、運よくいい仲間がいて自分を失わずに済んだというのもあります」


「そうですか……。しかしこちらの世界での先生の活動を聞くと、先生がいなければ様々な事件が起こっていたでしょう。しかもほとんどの人間はそのことにすら気付かないことになります。先生はそれで平気なのですか?」


「あ~、ええ。知られると面倒ですからね。やることはやりますけどそれで認められたいとかは特に。校長先生はじめ自分の周りに何人か理解してくれる人もいて、報酬ももらっていますから、それで十分ですよ」


「本当に先生は勇者と呼ぶにふさわしい人なのですね。先生が学園に来てくれたことに、本当に感謝をしなければいけません」


「それは大げさですよ。しかしこっちの世界が、実はここまで色々と危険に溢れているとは思いませんでしたね。それは自分も驚いています」


 ここ半年で本当に色々あったが、正直その内のいくつか……というかいくつもが、俺がいなかったら大事(おおごと)になっていたものばかりだ。


 青奥寺と雨乃嬢は『深淵獣』にやられていただろうし、新良は『フィーマクード』の軍相手に、双党と絢斗は『クリムゾントワイライト』相手に命を失っていただろう。九神も宇佐さんも、リーララも、恐らくは生きてなかったかもしれない。オマケにあの『応魔』なんて、俺があの場にいなければ大惨事になっていたはずだ。逆に言うと、俺がいなければ『クリムゾントワイライト』や『魔人衆』が台頭して、違う秩序が生まれていたのかもしれないが……。


「相羽先生、どうされましたか?」


 おっと、ちょっと思索の海に沈んでいたか。


「ああいえ、なんでもありません。こっちの世界で自分は恵まれてると考えていました。ところで校長先生、日本でも昔から超常的な現象というのは多くあるものなんですか?」


「ええ、祖父の話を聞くと、本当に色々とあるようです。ただそのほとんどは小さなものばかりで、相羽先生が扱っているような人間社会を大きく脅かすようなものはないようです。もちろんあの蔵書をすべて読んだわけでもありませんので、もしかしたら大きな事件が他にあった可能性もありますが」


「今自分が扱っているものも、よく考えると半分くらいは人間が相手なんですよ。勇者として活動していた時も実は三分の一くらいは人間が相手でした。そうすると結局は人間の方が怖い、なんて結論になるんですよね」


「なるほど、それは深いお話かもしれませんね。生徒にできないのが残念ですが」


「ははは……」


 そんな感じで、結局『ウロボちゃん』たちが書物を全部データ化するまで、昼食を挟んでほぼ一日明智校長と話をすることになってしまった。途中からは里子さんもやってきて、明智家のことについてもいくつか話を伺うことができた。


 しかし今日は自分のことを話すことで、俺としても自身を振り返るいい機会になった気がする。これからは時々青奥寺とかに話をしてみるのもいいかもしれない。


 とはいっても、教育的配慮とか考えると話せない内容も多いんだよなあ。勇者活動にエログロは付き物……いや、エロはまったくなかったけど。

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― 新着の感想 ―
エロは自分でスルーしてるんだけどな。少なくともJDとメイドや元敵さん辺りはいつでもOK出してる側や
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