34章 インターバル 03
というわけでその日の夜スマホのメッセージアプリで話をしたら、異世界旅行に行って新たに魔法を覚えた人間は全員参加したいということになった。
まあそりゃそうかということで、翌日の夜、全員を『ヴリトラ』へと招待した。
全員というのは、青奥寺、双党、新良、雨乃嬢、絢斗、三留間さん、リーララ、清音ちゃん、九神世海、宇佐さん、そしてレアの11人である。ちなみにリーララは清音ちゃんの付き添い、レアは新規で魔力トレーニングを始める予定である。
全員をまず『統合指揮所』に転送するが、ダークエルフ秘書の『ヴリトラちゃん』や、エルフ美女な宇宙戦艦クルーたちを見てやはり色々な反応をされた。
一応俺の知らないうちにこうなってたとは説明したが、本気で聞いてくれたのは三留間さんと清音ちゃんだけだった気がする。
お約束で青奥寺には微妙に睨まれ、新良には光のない目をじっと向けられ、それ以外にはもう慣れたといった雰囲気を醸し出された。いや彼女たちがなにに慣れたのかもよくわからないが。
ちなみにレアは「オウ、これがエルフでぇすか! まさにファンタジー映画の世界でぇす!」とか言ってアンドロイドエルフにやたらと反応していた。異世界旅行組はあっちの世界で一回見ているのでそこは無反応であった。
その中でちょっと違う反応をしたのは、九神家の眼鏡美人メイドの宇佐さんだった。
「相羽様、相羽様はやはりああいった秘書官のような人間を必要としていらっしゃるのでしょうか?」
「はい? いえ別にそういうわけではありませんが、いてくれるとありがたくはありますね」
「私はメイドを本業としておりますが、お嬢様の秘書のような役割も担っておりまして、相羽様さえよろしければお手伝いできるのですが」
「は、はあ? 自分はただの教員ですし、さすがに秘書を雇うとかそういうのは……」
「そこは問題ございません。相羽様はすでに九神家にとってもお嬢様にとっても大切な方。九神家からの出向という形で相羽様にお仕えできます」
「いやいやいや、今のところ秘書とかメイドさんとかが必要な仕事はしてませんし、お気遣いいただかなくて大丈夫ですよ。宇佐さんは九神のボディガードをお願いします」
「ですが……」
と言いかけたところで、宇佐さんは後ろから九神に肩をつかまれて連れていかれてしまった。それを見て、雨乃嬢が「ククク、宇佐朱鷺沙、奴は寝取り四天王最弱の女……」とか邪悪な笑みを漏らしている。
ともかくも、『統合指揮所』は『ウロボロス』のものと同じなので、すぐに貨物室へと移動する。
貨物室はほぼ昨日のままだったが、部屋の端にテーブルとソファや椅子が用意され、ジュースサーバーのようなものまでが設置されていた。
さらには奥の方に、大きな金属の箱に的のマークが付いたオブジェが10ほど並んでいる。おそらく魔法の的ということだろう。
「これはわざわざ用意したのか?」
『はい。必要かと思いまして』
「そりゃ助かる。ありがとさん」
う~ん、『ヴリトラちゃん』も有能すぎるなこれ。
宇佐さんが悔しそうな顔でこっちを見ているが、対抗心を燃やしているのかもしれない。
「よし、じゃあ的を用意してもらったみたいだから、各自あれに向かって自由に魔法を撃っていいぞ。ただし魔法を撃つ瞬間は絶対に集中を切らさないこと。間違っても人に向けて撃つなよ。魔力が切れたら俺が補給してやる」
「はい」「は~い」「やっと思い切り撃てるね」
と返事をして、嬉しそうに各自魔法射撃を始める。
基本的には真っすぐ立って、利き腕を前に出して、手のひらから撃つ感じである。
今のところ全員初級魔法の『ファイアボール』『ロックボルト』『ウォーターエッジ』『ウインドカッター』の練習だ。ちなみにそれぞれ火の玉、石の矢、強力水鉄砲、真空の刃を出す魔法だ。初級とはいえ拳銃などよりはよほど破壊力は高い。特にファイアボールは対象を火だるまにするので追加効果がかなりエグい。
その姿を見て興奮しているのはレアだ。まあ級友が魔法を使ってたらそりゃ驚くよな。
「アイバセンセイ、ワタシもあの魔法を使えるようになるのでぇすか!?」
「これからやるトレーニングを真面目にやって、それから異世界に行って儀式を受ければな」
「儀式、でぇすか? それは、させてもらえるのでぇすね?」
「ハリソンさんはもう仲間だからね。覚えたいなら、だけど」
「もちろん覚えたいでぇす! よろしくお願いしまぁす!」
「先生、私にもお願いできまして?」
レアがアメリカンなボディごと迫ってくる横で、金髪縦ロールお嬢様の九神もそう言ってくる。九神は異世界ですでに魔法神の儀式を受けているので、魔力発生器官さえできればすぐにでも魔法は使えるようになるだろう。
皆が嬉々として魔法を撃ちまくっている脇で、俺はレアと九神を相手に魔力トレーニングを行うのだった。