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4章 宇宙犯罪者再び  03

「オーケーなんとかしよう。新良、あの兵士たちは生かしておいた方がいいのか?」


「フィーマクードの兵はすべて監獄小惑星送りになります。監獄小惑星に入ったら生きて出ることはありません」


「つまりほぼ死刑確定ってことか? なら遠慮しないでいいか」


「先生、深淵獣相手なら私も戦います」


「あっ、私もこの銃撃ちたいから戦います」


 青奥寺と双党の目は真剣だった。いや双党は明らかに方向性が違うが。


「あ~、じゃあ二人は深淵獣を相手にしてくれ。新良は兵士をやれるか?」


「問題ありません」


「上にいる強襲揚陸艇とやらが援護してくるとマズいから、俺は少し暴れたら上に行って制圧してくる」


 言いながら、俺は3人に『アロープロテクション』の魔法をかけてやる。


「これは?」


「飛び道具用の防御魔法だ。勇者の守りだからミサイル1発分くらいは防いでくれるはずだ」


「個人用のシールドということですか?」


 新良の質問に「そんなもんかな」と答えてやり、俺は空間魔法から大剣『魔剣ディアブラ』を引き抜く。


「さて、じゃあ行ってくるから、3人は俺が空に飛んだら横から奇襲してくれ」


 そう言って俺は岩場から出るとゆっくりと兵士たちの方に歩いて行った。万が一の確率で話し合いに応じないとも限らないからな。最初に交渉をするのは対人戦前の儀式みたいなものだ。


「あ~、皆さん、地球に何かご用でしょうか?」


「ナンダコイツハ?」


「原住民カ? 独立判事ジャネエミタイダガ」


 兵士がそんなことを言っているのが聞こえる。


「もしそこの宇宙船が目的なら、すぐに持ち帰っていただいてこの星から退去していただきたいのですが」


「ヘンナ原住民ダナ。オイオマエ、オレタチハコノ船ニ乗ッテイタ奴ヲ探シテイル。知ッテイルナラ教エロ」


「ああ、彼ならすでに捕まって銀河連邦に送り返されました。探すだけ無駄ですよ」


「ナンダト。ソレヲ知ッテイルッテコトハ、オマエハ独立判事の現地協力者カ? ナラ丁度イイ、独立判事モ消セトイウ命令ダ。ソイツノイル所マデ案内シロ」


「消せという命令を受けている人間を案内するわけないでしょう?」


 そう言うと、兵士たちはゲフフ……みたいな感じの下卑た笑いを漏らした。


「ソウカイ。マア原住民ヲ殺シテ回レバ勝手ニ現レルダロウカラナ。オマエハソノ犠牲者第一号ニデモナットケヨ」


 そう言うと先頭の兵士が俺に銃を向けた。もちろんその指が引き金を引く前にそいつの首は落ちている。『魔剣ディアブラ』は振るだけで不可視の魔力の刃を飛ばせたりする。


「撃テッ! 『ヘルシザース』起動ッ!」


 その後の反応はなかなか早かった。『あの世界』の盗賊団より多少はマトモそうだ。


 俺はディアブラを振り回して、突っ込んでくる『ヘルシザース』(要するに装甲付き深淵獣)3体をなます斬りにした。ついでに魔力の刃で兵士20人くらいを監獄小惑星送りから永久に解放してやる。


「ナンダコイツ!? 『ヘルシザース』スラ簡単ニッ!」


 兵士の叫びは悲鳴に近い。やはり『深淵獣』は「普通には倒せない化物」扱いなんだろう。


 さて、ここで全滅させると上空の強襲揚陸艇が無差別射撃とか始めかねない。俺はディアブラを振るのを止め風魔法を発動、一気に身体を上空まで飛び上がらせる。


 『光学迷彩シールド』の内側に入ると、宙に浮く巨大な船体がいきなり目に飛び込んできた。多分海上自衛隊のヘリ空母型護衛艦くらいあるだろう。光沢のない黒の塗装がいかにも悪役の船っぽい。


 船底に四角いハッチが見える。俺はそこに取りつき『掘削』を発動、開いた穴から船内に飛び込む。


 船内にはやはり大勢の犯罪組織の構成員がいたが……まあ勇者相手では何かができる者などいるはずもない。後で船内を調べる時に血だらけだとアレなので『拘束』魔法で心臓だけ止めてやる。


 『直感』スキルと勇者の勘を全開にして歩いていくと程なく艦橋へとたどりついた。「統合指揮所」と表示のあるガッチリ閉まった扉を『掘削』で開け、銃を向けてきた兵士を永久に黙らせる。


 いかにも宇宙戦艦のブリッジといった部屋で、壁面にはいくつもの画像が映し出されている。


 その一つに地上で戦ってる新良たちの姿が映っていた。


 すでに兵士は3人に減っており、新良が飛び回りながら一人づつ倒して回っている。


『ヘルシザース』一体は青奥寺が相手をしているが、そちらももう決着がつきそうだ。貸した『ムラマサ』は『覇鐘(はがね)』よりはるかに強いし今の青奥寺なら相手にならないだろう。


 もう一体の『ヘルシザース』はバラバラになっていたが、どうやら双党が射撃で倒したようだ。そういえば深淵獣は魔法は効くんだよな。


「問題ないな。じゃ、後片付けをして回るか」


 俺は『感知』スキルを全開にし、生き残りの賊を探しに「統合指揮所」を後にした。





「さて、この強襲揚陸艇はどうする?」


 戦闘終了後、俺は新良をブリッジに呼んで調べてもらった。新良はいつものとおりハッキングして調べていたようだが、難しい顔をして首を横に振った。


「さすがにこのクラスの船は動かせません。本来なら徴収して連邦捜査局に引き渡したいのですが、さすがにそこまでは想定していないので……」


「まあそうだよなあ。完全に軍艦だしなこれ。わかった、俺の空間魔法に入れておくわ」


「できるのですか、この大きさの船を?」


「問題ない。情報の吸い上げは終わったか? ドローンの回収は?」


「はい、データはすべてフォルトゥナに転送しました。ドローンもこの船に収納済みです」


「じゃあ外に出るか」


 ハッチから地上に降りると、青奥寺と双党が待っていた。


 ちなみに周囲に死体などは残ってない。すべて新良が『ラムダ転送』とやらでどこかへ送ってしまった。『深淵獣』が落とした『深淵の雫』は回収済みだ。


「先生っ! 私もその強襲揚陸艇を見てみたいです!」


 双党が散歩をせがむ子犬みたいな目で見てくるが、俺は「後でな」と言って上空に空間魔法を発動する。光学迷彩シールドごと船体を穴に飲み込ませてしまうので、結局双党が実物を見ることはできなかった。


「うぅ~、後で絶対見せてくださいねっ!」


「かがり、さすがにあの船を地球上で見えるように出すわけにはいかないから」


 新良が諭すと双党はチッチッと言いながら指を振る。


「そこは先生の魔法で何とかなるでしょ。戦闘用の宇宙船とか、本物があるのに見ないで終わるなんて絶対できない。先生、約束ですよ!」


「作文を書き終わったらな」


「やった。そんなのすぐ終わらせますからっ。あっ、そういえばこの銃すごかったです。持ち帰って調べていいですか?」


「はい没収」


 俺は『魔導銃タネガシマ』を双党の手から取って空間魔法に放り込む。


「ああ~っ、私のゲイボルグが~」


「勝手に名前つけるな。あれは『魔導銃タネガシマ』だ」


「えっ、ダサ……いや、一周回ってアリかも……?」


「ないでしょ。先生、こちらもすごい刀でした。ありがとうございます」


 青奥寺が『ムラマサ』を手渡してくる。その顔色が少し優れないのは対人戦闘を見てしまったからだろうか。俺は剣を空間魔法に放り込むと、それを見ながら青奥寺は溜息をついた。


「さて、ちょっと音が漏れたから、もしかしたら誰かが様子を見に来るかもしれない。この場はすぐに撤収しよう。ただちょっと話をしたいんだが、いい場所はないか?」


「それは先ほどの『あの物質』に関する話ですか?」


 アームドスーツを解除した新良が質問を返す。


「そうだ」


「それならフォルトゥナで行いましょう。転送します。フォルトゥナ、ラムダ転送」


 返事をする間もなく視界が一瞬でホワイトアウトし、次の瞬間俺たちは未来的な内装の部屋……宇宙船の内部にいた。

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