33章 交渉あれこれ 13
その後『ウロボロス』に戻った俺たちは、今の戦闘についての記録を見直してみた。
ちなみに『ラムダ空間封鎖』内の映像は、新良が持ち込んだ小型ドローンですべて撮影されていたので、三留間さんや清音ちゃん、さらには山城先生までしっかり観戦している。特に初めて戦闘を見る山城先生には刺激が強かったようで、俺たちが『ウロボロス』に戻ってからしきりに青奥寺たちのことを心配していた。
一通り記録を見たあと、皆で『応魔』について感じたことを話し合う。
「戦った感じだと、『深淵獣』とあまり変わらない感じはしました。ただ、多少『深淵獣』よりは知能が高い感じはしましたが、私としてはそれくらいです」
青奥寺が言うと、絢斗も同調する。
「ボクもほぼ同じ感想ですね。見た目は少しグロテスクというかキメラ的だけど、魔力の流れとかは見えたので、『深淵獣』や異世界のモンスターと大きく違うという感じは受けなかったかな」
「しかし私たちに力があって、その上先生という存在があるから対処できただけで、『応魔』が一体でも現れたら恐ろしい被害がでると思います」
と分析するのは新良だ。
たしかに俺たちがいたから被害ゼロで済んだが、放っておいたら恐らくこのあたり一帯は食いつくされてモンスターだらけになっていたはずだ。そう考えるととんでもない連中である。
ルカラスもうなずきながら、
「あの『伯爵位』というやつも、一瞬ではあるが我のブレスを吸収、というか食っておったからの。この世界の武器などはほとんど通用せぬであろうな」
とそれらしいことを言う。いやたしかにその通りで、あの『伯爵位』だけでも相当ヤバい。
少し場が重くなりかけたところで、双党が手をあげる。
「ところでもしあの『応魔』がこれからも現れるとして、『ウロボちゃんず』で対応できますか?」
『ウロボちゃんず』というのは、『ウロボロス』で製造されたアンドロイド兵のことだ。全員が『ウロボちゃん』と同じく女の子の姿をしているのだが、その能力は青奥寺たちに並ぶほどで、俺が与えた剣や槍などを装備して『深淵獣』退治する任務についている。
「『子爵位』までなら行けるだろうが、『伯爵位』はたぶん無理だな。あれは青奥寺たちが組んでギリギリ倒せるレベルだ」
「そうすると、先生が忙しくなる可能性がありますね」
「ん~、まあクウコと『ウロボロス』で出現場所を調べてもらって、『子爵位』までなら『ウロボちゃんず』に任せて、『伯爵位』と『侯爵位』はルカラスに行ってもらうか。よかったなルカラス、お前用の仕事が見つかったぞ」
「嬉しそうに言いおって。まあハシルがやれというならやるが」
「ルカラスさんって尽くすタイプですね」
双党が意味のわからない持ち上げ方をすると、ルカラスは胸を張って鼻息を荒くした。
「うむ、カガリはわかっておるな。我は認めた雄には尽くすぞ。古代竜ゆえな」
「古代竜は関係ないだろ」
「なにを言うか。ハシルを認めたからこそ、竜の力を使って『魔王』討伐でも尽くしたのではないか」
「まあそれはそうか……?」
たしかに『尽くす』と言われればそんな感じだった気もするが、でもドラゴンだったしなあ。
などと脱線しかかったところで、なにか言いたそうな顔のイグナ嬢と目があった。
「イグナ、なにか言いたいことがあるのか?」
「あっ、はい~。さっきの『応魔』とかいうのが出たり入ったりしていた魔法陣なんですけど、魔力の波形とか比較すると、やっぱり『次元環』に近いもののようなんです」
「ということは、あの魔法陣は『次元環』の中とつながってるってことか?」
「その可能性が高くなりました~。それと、あの魔法陣からはもう少しデータを取りたいんです。その方がハシルさんの求める技術の精度を高められますので」
「それなら『ウロボロス』に頼んでくれ。いつ現れるかはわからないけどな」
まあクウコの感知能力と『ウロボロス』の探査能力があれば当面はなんとかなりそうか。あとはイグナ嬢の頑張り次第だな。
しかし『応魔』といい、その前の『導師』といい、向こうの出を待つことが多いのは勇者的にはちょっと気持ちの悪いところだ。そう考えると、『魔王城』なんて最終目的地がわかっていた『魔王』討伐は気持ちが楽だった気がするな。