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33章 交渉あれこれ  12

『侯爵位』が放った黒い液体が変化して現れたのは、なんと6体のモンスターだった。


 一見すると半裸の人間だ。ただその禿頭の頭部にはヤギのようなツノが生え、口には黄色い牙が並んでいる。背中にはコウモリの羽とネズミの尻尾。手足の先には鋭い爪が光り、血のように赤い瞳には、わずかに知性の光が宿る。


 俺が勇者時代嫌というほど相手をした『グレーターデーモン』に間違いなかった。


「なんでコイツがグレーターデーモンなんて生み出すんだよ……」


 いやいや、『応魔』とかいう未知の敵が俺の知ってるモンスターを生み出すのはさすがに想定外が過ぎる。しかもさっきのコールタールみたいなのも、『魔導廃棄物』にそっくりだったし……これは断然情報収集が必要になってきたな。


 

--------------------

グレーターデーモン Aランクモンスター


悪魔、魔族と呼ばれることもある上位モンスター。

飛行できることに加え魔法も使用し、特に氷の魔法を得意とする。

二刀による剣術の使い手でもあり、格闘戦にも長ける。

非常に好戦的、かつ戦闘好きで、強者を優先的に狙う特徴がある。


特性

打撃耐性 斬撃耐性 刺突耐性 魔法耐性


スキル

全属性魔法 双剣術 威圧 咆哮

--------------------



『アナライズ』してもそのままであった。


 6体のグレーターデーモンたちはひと羽ばたきで宙に飛び上がり、両手を突き出して氷の槍『アイスジャベリン』を高速連射してきた。


 俺は『アロープロテクト』の防御力に任せてそのまま飛んで突進し、聖剣『天之九星』でまず2体の首を刎ねた。


 左右から、氷の剣を二刀に構えてグレーターデーモン4体が飛翔してくる。だが合計8本の剣は俺の身体にかすることもなく、持ち主たちはすべて真っ二つになって消えていった。


「これで終わりか?」


 と声をかけると『侯爵位』はミチミチミチ、と吸盤みたいな口から声を出した。


『こやつは我が子のことを知る者か。よもや一瞬で屠られようとは思わなんだ。しかし「伯爵」が居らねば子が産めぬ。この世界は思うたよりも作り替えるに骨が折れそうよな』


 どうやらやはり上位の個体の方が知性が高そうだ。ちょっと話しかけてみるか。


『こちらは勇者、相羽走だ。お前は何者だ?』


『ほう? 我の言葉を解するとは、いったいどのようなからくりか』


『神様にそういう力をもらったんだよ。で、お前らは何者なんだ。なにが目的でこの世界に来た?』


『何者かなど考えたこともない。ただ世界を作り替え、我らの住む場所とし、我らの同胞を増やすのみ』


『要するに侵略が目的ってことか?』


『我らは我らの住処を作るだけよ。すべてを壊し、すべてを混ぜて、すべてを食らい、そこから生み出し、そして支配する』


『たとえば俺たちみたいな存在はどうするつもりなんだ?』


『すべてを壊し、すべてを混ぜて、すべてを食らい、そこから生み出し、そして支配する』


 あ~どうも話の通じない領域に意識が行ってしまったようだ。やはりわかり合えない存在ということのようだ。


『すべてを壊し、すべてを混ぜて、すべてを食らい、そこから生み出し、そして支配する』


『侯爵位』は同じ言葉を繰り返しつつ、三つ又の腕を俺に向けた。


 なにをしてくるのかと思っていたら、突然強烈に引っ張りこまれる力が俺の身体を襲った。どうやら『吸引波』とかいうスキルのようだ。対象を引き寄せて『吸収』するとかそんな感じだろうか。


 どちらにしろ戦闘能力はあまりなさそうだ。俺は引っ張られるままに接近し、目の前まで来たときにその首を刎ねた。たぶん本人(?)は再生するつもりだったんだろうが、残念ながら聖剣『天之九星』には強力な再生妨害効果がある。


『侯爵位』は崩れ落ち、そのまま魔法陣に吸い込まれて消えていった。


 振り返ると、青奥寺たちの戦いも決着するところだった。


 すでに1体の『子爵位』は、双頭やリーララたちの集中魔法射撃によって倒されていたようだ。


 残る2体も青奥寺・雨乃嬢組と、絢斗・宇佐さん組に翻弄され、全身を徐々に切り裂かれて動きを鈍らせていく。それぞれ青奥寺と絢斗に止めをさされると、その死骸は魔法陣の中に沈んで消えていった。


 一番派手に戦っていたルカラスが、微妙にドヤ顔をしながらやってくる。


「思ったより大したことはなかったのう。ハシルの相手はもしかしたら一番弱かったのではないか?」


「『侯爵位』は特殊な個体みたいだ。見ただろグレーターデーモンを生み出したのを」


「うむ、あれは我も少し驚いた。まさか『魔王』配下のモンスターを再現する者がいるとは思わなかったわ」


「再現……再現ね」


 俺が少し考え込んでいると、ルカラスが顔を覗き込んでくる。


「どうしたハシル、あれがそんなに気になるのか? 大方ハシルの記憶を探って、強敵を作りだすとかそんなところであろう」


「そんな能力を持ってる奴がいるのか?」


「うむ。ハシルが来る前にそのような者がいた。どこぞの騎士団に討伐されていたが」


「ふうむ……」


 なるほど、そんな奴が実際にいたなら可能性はあるかもしれない。


 たださっきのは、そういうものじゃない気もするんだよなあ。実は異世界にも『応魔』が現れていて、モンスターをばらまいたって歴史があったりしないだろうか。


 う~ん、これはなおさら『はざまの世界』には行かないといけないようだな。

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