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33章 交渉あれこれ  08

 さて、とりあえず技術者イグナ嬢を確保したので、研究開発を始めてもらうことにする。


『ウロボロス』の貨物室に『次元環』発生装置を設置、それから『ウロボちゃん』に頼んで猫耳アンドロイド助手2人をイグナ嬢に預け、さらに『ウロボロス』の汎用工作システムの使用許可を出しておく。


「あと材料として希少金属が必要なんですけど……」


「ミスリル、オリハルコン、アダマンタイト、ヒヒイロカネはまだ在庫があると思うから使ってくれ」


「ひえぇ……。じゃあ『特Ⅱ型』の『雫』をできれば2個お願いします~」


「了解。足りないものがあったら助手か『ウロボちゃん』に言ってくれ。大抵のものは用意できると思う」


「わかりました~、なるはやで頑張ります!」


 世界の危機だからとは伝えてあるし、研究開発の環境としてはおそらくこれ以上のものは望めない感じなので、イグナ嬢は非常にやる気を出してくれているようだ。所属していた組織が内部分裂して人身売買組織に誘拐されたと思ったら勇者に連行されて宇宙戦艦の中で研究とか頭おかしくなるレベルの話なんだが、彼女は順応性が異様に高いらしい。というか単に研究できればいいだけのタイプなのかも知れないが。


 ともあれ一日二日でできるようなものでもないし、完全に任せるしかない案件なので、俺は翌週から日常に戻ることにした。


 


「少し目を離したすきにとんでもなく事態が動いてますね。さすが先生、後先とか考えてないですねっ」


 放課後『総合武術同好会』が終わってから、アメリカの『クリムゾントワイライト』とのやりとりからイグナ嬢の話までをメンバー相手に一通りすると、双党がそんなことを言った。


 青奥寺や新良、そして絢斗はもはやあまり反応はなく、三留間さんは微妙に話についてこられない感じで、雨乃嬢は「寝取り要員がまた一人……」と別の世界を見ている感じである。


 むしろマトモに反応してくれるのは双党だけなんだが、それもちょっとどうかと思わなくもない。


「後先考えてるからやってるんだろ。むしろここまでスムーズに話が進んだのは俺のおかげだぞ」


「えっでもかなり『ウロボちゃん』頼みになってませんか?」


「あ~それは否定できんな」


 言われてみれば今回の件、『ウロボロス』なしだったら普通に詰んでたな。さすが『銀河連邦』の科学力、もしかしたら『ウロボロス』と『ヴリトラ』に勇者させたらうまくいくんじゃないか?


 なんて思ってたら、


「それは過去何度も行って失敗しています」


 と新良が光のない目で言ってきた。


「俺の思考を読んだの?」


「いえ。ですがAIに人間を管理、統制させるというのは大抵の人間は一度考えることですので」


「そうかもな。それで失敗ってのは?」


「言った通りです。過去何度も人工知能ベースの管理システムによる政治の運営は試みられましたが、すべて短期間で失敗しています」


「理由は?」


「ひとえに人間の相手は人間にしかできない、ということのようです」


「深いようなそうでないような。やっぱりAI勇者は無理か」


「ああ、そちらですか。でもそれも無理だと思います。先生がおやりになるのが一番でしょう」


 お、新良の俺に対する信頼度はなかなかに高いみたいだ。


「個人であのような力を持って平気でいられるだけでも驚異的です。AIですら力を過剰に持たせると暴走しはじめることが確認されていますので」


「でも別の意味で暴走してない? むしろそっちでは歯止めがきかない状態だけど」


 新良がさらに褒めてくれたのに、それを双党が混ぜっ返すのはなぜなのか。


「誰も暴走なんてしていないだろ。それに前にも言ったけど、俺にはお前達がいるからな。そのおかげで自然と上手くやれてるっていうのもあるし」


 勇者活動していた時も、勇者パーティの連中が軌道修正してくれたってのはかなりあった気がする。やはり勇者には仲間が必要ということか。


 と、自分ではかなりいいことを言ったつもりでいたのだが、なんか全員の反応が微妙に俺の期待したものとは違っていた。


 青奥寺と新良と双党、それと絢斗は「うわ~」みたいな顔で、三留間さんとレアは顔を赤くしている。雨乃嬢は「お前達って……完全にもうお嫁さん扱い?」とかつぶやいていて、勇者的名言がまったく通じてない感じである。


 俺ががっかりしていると、青奥寺が呆れた顔から一転、鋭い目を向けてくる。


「それより先生、そのイグナって人は本当に大丈夫なんですか? 『クリムゾントワイライト』の人なんですよね?」


「どうも弟が『クリムゾントワイライト』に参加するから心配でついてきた人らしい。見た感じただの技術者で、ちょっと変わってるけど悪い人間ではなさそうだ」


「それならいいんですけど。でも『ウロボロス』を勝手に動かしたりはすることもあるんじゃないですか?」


「そこは『ウロボちゃん』にしっかり監視してもらってるから大丈夫」


「その人の弟さんは今どちらに? 無事なんですか?」


 と聞いてきたのは三留間さんだ。見ず知らずに人間の家族を気にするのが『聖女さん』らしい。


「例の『赤の牙』のレグサ少年が弟だったんだ。会いにも行かせたしそっちも問題ないよ」


「レグサさん? ということはイグナさんはやっぱり獣人の方なんですね」


「そうだね。猫タイプかな」


 と言うと、なぜか双党が食いついてきた。


「あっじゃあ耳とか触らせてもらえませんか? 女同士ならいけますよね」


「いやまあ頼めばいけるかもしれないが……。そんなに触りたいのか?」


「すごく!」


 双党の言葉に、何人かの女子がうなずいたりしている。


「どちらにしても、一度私たちもお会いしておいた方がいいと思うんですけど」


 という青奥寺の一言で、近日中に『ウロボロス』に関係者を集めることが決定してしまった。


 まあイグナ嬢が信用できるかどうかは他の人から見てもらってもいいのかもしれない。俺では気付かないこともあるしな。

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