33章 交渉あれこれ 05
さて、『クリムゾントワイライト』については現地の人間の間でひとまず決着がついた。こちらはこちらでやることをやろう。
俺が今解決すべき問題は『次元環』発生装置の技術者を探すことだ。俺は物陰に入って『ウロボロス』へと戻る。
「『ウロボロス』、どんな感じだ?」
艦長席に座ると、『ウロボちゃん』が飲み物を持ってやってくる。
『ドローンが配置について、探査を始めたところでっす。半径50キロの生体波をすべて調べるのに20分ほどかかりまっす』
「20分でできるってのがすごいな」
まったく『銀河連邦』の科学技術はとんでもない。
俺がリンゴジュース風飲み物をストローでチューチューやってると、地上が映し出されていたモニターの一点にアイコンがつき、そこを中心に画像が拡大された。
『見つかりました~。例の爆発地点の東19キロにある建物の地下にいまっす』
「地下? 穏やかじゃないな。建物を拡大して映してくれ」
『了解でっす』
モニターの画像がさらに拡大され、ドローンからの俯瞰映像に切り替わった。
郊外にある一軒家で、敷地内には大きな倉庫みたいな建物がある。なんと最寄りの隣家まで500メートル以上あるようで、その家の周囲には広大な畑と道路以外何もない。これぞアメリカ大陸といった感じの風景である。
反応はその倉庫の地下のようだが、どうも怪しい雰囲気がある。なんというか、明らかに堅気ではない人間が関わっている、そんなニオイのするロケーションだ。
「あの敷地内にはどのくらいの人間がいる?」
『住宅の方に12人、倉庫の方は1階部分に14人、地下には30人ほどがいまっす』
「いやに多いな。まさか地下は牢屋とかか?」
『30人は5、6人ずつに分けられて、それぞれ小さな部屋に入れられているみたいでっす』
「うげ、そんなオチか」
これも勇者の称号のなせる業か。他所の国に来てまで犯罪者の相手をしなきゃならないのも、ある意味勇者のお約束だしな。
「まあいいか。じゃああそこの倉庫の裏にでも転送してくれ」
『了解でっす。いってらっしゃいませ~』
首をかしげて手を振る『ウロボちゃん』。
なんかだんだん可愛さが増してくるな。『ウロボちゃん』がいれば嫁さんいなくてもいいんじゃないか……なんて言ったら、多分皆にすごくバカにされるんだろうなあ。
倉庫裏に転送された俺は、さっそく表に回って倉庫の中にお邪魔をすることにした。
倉庫が学校の体育館の屋根を低くした感じの大きさで、やはりアメリカ的なスケール感がある。両開きの扉は開放されていて、中に14人の人間が、椅子に座ってスマホをいじっていたり、木箱に寄りかかって煙草をふかしていたり、小さなテーブルの上でカードゲームをしていたり、思い思いのことをしていた。
問題は彼らが例外なく目つきの悪い男たちで、しかも手近なところに銃を置いているということだ。雰囲気としては、犯罪組織の構成員が現場で取引相手を待っている、みたいな感じである。
「あ~こんにちは。ちょっとお尋ねしたいことがあるんですが」
挨拶をしながら入っていくと、男たちは一斉に銃を手に取って俺に向けた。悪党にしてはそこそこ練度が高いようだ。しかし見れば見るほど異世界の盗賊団を思い出すなこれ。
「なんだお前、ここはお前みたいな観光客が来るところじゃねえ。さっさと消えな」
リーダー格っぽい髭の男がそう言って、拳銃を見せつけるように動かした。一応見逃してくれる気はあるようだ。
「そういうわけにもいかないんですよ。自分の勘だとここに探し人がいる気がするんです」
「なんだと……? おい、外を確かめてこい」
リーダーに命じられて、手下が倉庫の外に行き、そしてすぐに戻ってきた。
「人っ子一人、車の一台もねえ。こいつ一人で歩いて来たみたいだぜ」
「意味が分かんねえな。おいお前、マジで何者だ?」
「ただの不法入国者ですよ。ただ正義の味方の真似事もしてましてね、この倉庫の地下に商品があるでしょう? それをちょっと検めたいと思ってお邪魔したんですよ」
「頭おかしいのか? 殺されねえうちに消えな。これは脅しじゃないぜ」
「地下を調べさせてくれたら退散しますよ」
俺が前に進むフリをすると、リーダーは問答無用で拳銃を突き出して連射してきた。
もちろん魔法『アロープロテクト』は発動済みだ。発射された5発の銃弾は、俺の手前30センチで、ぺちゃんこになって空中に止まっている。
「なんだ!? 防弾ガラス……なわけねえよな!? おい全員撃て!」
リーダーはさらに拳銃を連射、指示を受けた他の連中も拳銃や自動小銃を連射する。普通の人間ならボロ雑巾みたいになっただろうが、残念ながら銃弾では『アロープロテクト』は貫けない。
「ありえねえっ!? クソッ!」
平気な顔をしている俺に向かって、リーダーは足元にあったバールをつかんで殴りかかってきた。銃が効かなければ逃げると思ったんだが、戦意を失わないのは少し予想外だな。
「『スタン』」
「あガ!?」
暴徒鎮圧魔法『スタン』は、いわゆる広範囲に電気ショックを与える魔法である。食らった人間は筋肉が言うことをきかなくなり、その場に崩れ落ちてしばらく動けなくなる。運が悪いと心臓まで止まるが、さすがにそこまで心配してやる義理はなさそうだ。
『艦長、家の方からも人が来まっす。12人全員でっす』
「サンキュー」
う~ん、『ウロボちゃん』気が利くなあ。
俺が物陰に隠れて見ていると、果たして12人の男が、それぞれ銃を携えて倉庫に入ってきた。全員盗賊みたいな顔つきの連中だった。地面に倒れている仲間を見て、すぐに周囲に目を走らせる。
俺は再度『スタン』を発動、全員が地面に崩れ落ちる。
せっかくなので落ちていた銃を全部『空間魔法』に放り込み、そして俺は倉庫の奥へと向かった。地面に敷いてある木の板をどかすと、そこには地下への階段があった。
下りて行くと、ほのかに酷い臭いが漂ってくる。大勢の人間が風呂にも入れず生活している時に出る臭いは、俺にはなぜか納豆のニオイに感じられる。
地下は薄暗いが、辛うじて灯りはついていた。廊下があって、左右に扉が3つずつ並んでいる。鍵はそとから閂をかける単純なタイプだ。手前の扉を閂をはずして開けると、そこにはまだ10歳にも満たないような子どもが6人、床に座ってじっとしていた。
「君たちは捕まってここにいるのか?」
声をかけると、子どもたちは一斉に顔を上げた。男女半々のようだ。
答えたのは一番年上に見える女の子だった。
「そう。皆さらわれてここにいるの」
「そうか。一応助けに来た感じだ。皆出してやるけど少し待ってくれ」
子どもたちは半信半疑という感じだったが、とりあえず騒がずにうなずいてくれた。
他の扉も開けていくが、ほか4部屋までは全部同じ感じだった。
最後の扉を開くと、いきなり拳が俺の目の前にあった。
俺はそれを受け止めて、殴りかかってきた獣人女性をぽいっと部屋の奥に投げ飛ばした。
「落ち着いてくれ。助けにきた」
異世界の言葉で話しかけると、受け身をとって立ち上がっていた獣人女性は、ガクッと膝から崩れ落ちた。
「王国語……助かった~。あっ、なんか子どもがいっぱい捕まってるから、みんなも助けてあげてね」
「それは大丈夫だ。ところで貴女がイグナで間違いないか?」
「間違いないけど、そっちは誰? スキュア様のところでは見かけない顔だけど」
「俺はハシル・アイバだ。どういう人間かはあとで説明するから、今はここから出よう」
「そうだね~。よろしく」
しかし異世界からやって来た犯罪組織の一員が、地元の人身売買組織につかまって売り飛ばされる寸前とか、この獣人女性もちょっとおかしな奴っぽいな。まあ技術者なんてこんなものなのか? というのは多分に偏見があるな、きっと。
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4日から更新を再開いたしますので、よろしくお願いいたします。
今年は大変お世話になりました。
皆様よいお年をお迎えください。