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33章 交渉あれこれ  02

 3日後、約束の日となった。もちろん仕事に穴をあけないように週末である。


 アメリカの『クリムゾントワイライト』の本部の場所はすでに聞いている。手筈(てはず)としては、現地でクラーク氏と合流、そのまま本部に殴り込むという、まあ要するに極めて勇者的な手段を取ることになった。


 アメリカへの移動はもちろん『ウロボロス』のラムダ転送を使う。『ウロボロス』を使えば非合法な海外旅行とかも行きたい放題なのだが、実際できるとなるとやらないものだ。なので転送で海外に行くのはこれが初めてである。


 午前8時、一度『ウロボロス』の『統合指揮所』に転送してもらう。


 艦長席に座ってモニターを眺める。正面のデカいメインモニターには、アメリカ西海岸のとある街の一角が、空から俯瞰(ふかん)した形で映し出されている。


 アメリカ西海岸といえばセレブな方たちが住む場所として有名だが、今映っているのは、日本で言うと地方の県庁所在地くらいの感じの町並みだ。


 大きな通りがあり、左右にスーパーやホームセンターやカーディーラーやらが並ぶあの感じである。もっともすべての規模が日本より大きい。ホームセンターなんてテーマパークみたいな敷地の広さだ。


 クラーク氏が教えてくれた『クリムゾントワイライト』の本部は、その通りから少し離れたところにある一軒家であった。一軒家と言っても、日本で言うと豪邸みたいなデカい家だ。敷地も広く、庭で野球ができそうなくらいだ。


「『ウロボロス』、家の中の人間に動きはないか?」


『2日前から特に目立った人の出入りはありませんね~。地下にいる人員の数にも変化は見られません~』


「しかしテロ組織みたいな『クリムゾントワイライト』が普通の家を秘密基地にしてるとはなあ。クゼーロが離れ小島を改造していたのに比べると、随分と大胆な連中だな」


 モニターを見ていると、大通りを走っている一台のバンに矢印がマークされ、『クラーク氏搭乗車』の表示が付け加わる。


 その黒いバンは、近くのホームセンターの駐車場に入ると、端の他の車が停まっていない駐車エリアに入って停車した。合流予定の場所である。


「じゃあ行ってくるか。『ウロボロス』、どっか人目につかないところに転送して欲しいんだが、どこかあるか?」


『え~とですね~、監視カメラがいっぱいありますね~。面倒なのでカメラを一瞬だけ停止させまっす。今丁度トイレに誰もいないみたいなのでそちらに転送しますね~』


「おう頼む」


 次の瞬間俺はホームセンターのトイレに転送されていた。


 う~ん、普通に綺麗だが、便器の配置とかが微妙に大雑把な感じがいかにもアメリカって感じだな。


 などと思いつつ、トイレを出て店内へ。英語表記の商品が並ぶ棚の間を抜けて外へ出る。


 クラーク氏の黒いバンが遠くに見えた。俺はそちらに歩いて向かう。


 そういえばアメリカなんて来るのは初めてだが、異世界に比べればなんてこともないな。だって皆普通の人間だし。たしかに大陸ならではの空気感みたいなのもあるが、そもそも俺を召喚した王国が大陸にあったから、むしろ親しみが湧くまである。


 バンに乗っている人間は運転席に1人だけ。左ハンドルなので助手席は右側だった。乗り込むと、シャツにスラックスという私服のクラーク氏がにこやかに笑っていた。


「グッドモーニング、ミスターアイバ。さすが日本人、時間通りだ」


「守らない奴も多いですけどね。しかしまさかクラークさんお一人ですか?」


「部下はあちこち分散しているよ。もっとも出番がないのが一番だがね」


「それは同意しますよ。向こうが交渉を受け入れてくれることを願いましょう」


「うむ。それでは車を出すが、用意はいいかね?」


「ええ、準備は万端ですよ」


 といっても見た感じは徒手空拳だけど。


 クラーク氏はそこを指摘することなく、車を発進させた。


 目的地の『クリムゾントワイライト』本部の家までは10分ほどだ。通りから一本脇道に入りると、広大な庭と大きな白い邸宅が見えてくる。来客用の駐車場にバンを停め、俺とクラーク氏は車を降りる。


 クラーク氏はバンの後部座席のほうに入っていき、すぐに上着を着て出てきた。『アナライズ』すると、ジャケットに見える防弾防刃の防具らしい。懐に拳銃も装備しているようだ。


「クラークさんは映画の主人公みたいに見えますね」


「はは、それは光栄だ。さて、行くかね」


 敷地には囲いがあるが、入口の扉は開いていた。インターホンがあったが、クラーク氏が押しても無反応だった。


 2人で敷地に入っていく。広い敷地だが特に造園はされておらず、雑草混じり芝生の間を、玄関まで続く石畳の通路が通っているだけだ。


 視線を感じるが、恐らく監視カメラによるものだろう。殺気のようなものは感じない。罠の類もない。


 俺たちはそのまま、何食わぬ顔で玄関まで歩いていく。


 玄関のインターホンはさすがに反応があった。


『どちらさまでしょうか?』


「政府のものです。『アウトフォックス』のクラークと言えばお分かりになるかと」


 クラーク氏が答えると応答がなくなり、しばらくして玄関が開かれた。


 現れたのは一見普通の、茶髪の青年だった。ただ俺の目には、彼がうっすら魔力をまとっているのが見える。異世界の人間ということだ。


「支部長のスキュアが会うそうです。どうぞこちらへ」


 青年に警戒の色はあるが、敵意はない。とりあえずすぐにドンパチにはならなそうだ。


 案内されるままに家に入ってく。広い廊下を奥へと進み、とある部屋に入ると、そこには新たに造られたと見える地下への階段があった。


 下りて行くと、近代的なオフィスの廊下みたいな通路が現れる。左右に並ぶ扉を無視して奥の両開きの扉をくぐると、そこは屋内球技場のような広い空間になっていた。そういえばクゼーロの秘密基地にも似たような場所があったな。魔法などの訓練場なのかもしれない。


 その広い空間の真ん中にソファとテーブルがセットされ、一人の目立つ女が座っていた。


 まとう魔力は圧倒的で、クゼーロには多少及ばないものの、それでも常人が到底及ぶところではない。彼女が『クリムゾントワイライト』アメリカ支部の支部長であることは疑いがなさそうだ。

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