32章 応魔 16
翌日、関係者を『ウロボロス』に集めて昨日の話をすることにした。
なお、青奥寺の助言もあり、今回は訳あり女子全員を呼んだ。全員というのは、異世界に旅行に行った組+アメリカン留学生レア、古代竜ルカラス、そして幻獣クウコ(人化バージョン)である。
お嬢様の九神世海や眼鏡美人メイドの宇佐さん、歩くR18カーミラとウザ系褐色娘のリーララと、清音ちゃんまで呼んだわけだが、とりあえず全員にもう一度『応魔』の話はした。
よく考えたら彼女らも関わる話なので、最初から呼ぶべきだったと少し反省する。そういえば『赤の牙』の4人もいたが……あいつらは戦う時だけ呼べばいいだろう。
ということで、昨日校長先生の家に行って書物の話をし、そのページの画像も見せたのだが、当然皆一様に驚いた様子を見せた。
「ええ~っ、『応魔』って昔にも出たことがあったんですか? しかも『はざまの世界』に行けるとか……先生の話からすると、なんか恐ろしげな空間っていうイメージなんですけど」
双党の感想は実は俺も同じだった。あの不気味な『応魔』の棲む世界が、俺の召喚されたファンタジー世界と同じようだろうとはとても思えなかった。
「読んだ限りだと、たまたま『応魔』と当時の戦士たちの戦いの現場に居合わせて、巻き込まれて迷い込んだような感じだけどな。実際『応魔』が出てくるところを見た限りじゃ魔法陣みたいなものから現れてたから、奴らは移動する技術を持っている可能性は高い。だからこっちから行くこともできるはずではあるな」
「でもこの文章を読む限りだと、かなり異質な世界って感じよねぇ?」
カーミラの言葉の通りで、行って戻ってきた人間の言葉を借りると、「あと一刻(2時間)もいたら確実に気が狂うであろう世界」だということだった。「呼吸する度に息が苦しくなる」「色彩がこの世のものとは思われない」ということなので、瘴気に満ちた不気味な景色の世界のようだ。
「行ってみないとわからんが、気軽に行っていい場所でもなさそうだな。まあそんなわけで、もし『応魔』に出会っても下手に近づかないほうがいいって話だ」
「先生がこの間倒したっていう『伯爵位』っていうのが『特Ⅱ型』相当だとしたら、それ以上の相手だと出会った時点で諦める感じじゃないのぉ?」
「まあな。ただこの手の奴は、大物はそんな簡単には移動できないと思うんだよ。逆に小物なら今後ちょくちょく出てくる可能性はある。クウコもそう言ってるし」
と話を向けると、白い和服美人がうなずいた。
「はい……。『応魔』の気配は……ずっと近くに感じられるままです……。ただ、言われてみると……先日出会った者ほどの強さの者が……上限に近いようです。その代わり……複数近づいているような……気もするのです……」
「クウコさんは、どこに出現するかまではお分かりにはならないのでしょうか?」
聞いたのは九神だ。
「恐らく……大体のところはわかると……思います。しかし恐ろしいのは……その気配が……その後も続いている気がするところです……」
「どういうことですの?」
「このままでは……継続して『応魔』が現れ続ける……可能性があるということです……」
おっと、それは俺も初耳だな。
「すまんクウコ、それは結局、『はざまの世界』に行って、全員ぶっ飛ばしてこないとダメってことか?」
「恐らくは……そうなります……」
新たなバッドニュースに、全員が深刻そうな顔で俺を見てくる。
「しかし『はざまの世界』そのものがよく分からんしなあ。行くといってもどうしたもんかね」
「おじさん先生さぁ、その『はざまの世界』って、世界と世界の間にある世界ってことだよね?」
話が停滞しそうになったとき、リーララが急に質問を投げてきた。
「言葉からするとそうだな。ただ『はざまの世界』っていう言葉自体はクウコが使っていただけだからな。クウコ、なぜ『はざまの世界』って言葉があるんだ?」
「それは……『応魔』が、自分たちの住む場所を……そう呼んでいると、感じられたからです……」
「幻獣ならではの交感能力ってことか。そうすると、『はざまの世界』という言葉そのものにはしっかり意味はありそうだな。それでリーララ、なんかあるのか?」
俺が聞くと、リーララは「ちょっと思ったんだけど」と前置きをしてから答えた。
「こっちの世界から、わたしのいた世界に移動する時『次元環』を通るでしょ。『次元環』って、そのまま世界と世界の間にある通路だよね。だからあそこが『はざまの世界』につながってるんじゃないかなって」
「あ~なるほど、おもしろいな。調べる価値はありそうだが、ウロボロスの技術でなんとかなるか……?」
『ウロボちゃん』に聞いてみようとした時、カーミラが思い出したようにつぶやいた。
「そういえば、『魔人衆』のなかに『次元環』を研究していた人間がいた気がするわぁ」
「マジか。誰だかわかるか?」
「確かこっちの世界に来てるって誰か言っていた気がするけど、クゼーロのところにはいなかったから……」
カーミラが首をかしげると、レアがピクッと反応した。
「もしかして、ステーツにいる『クリムゾントワイライト』にいるのでぇすか?」
「そうねぇ。その可能性は高いと思うわぁ」
なるほどなあ、そうつながってくるとは、さすがの勇者の目をもってしても読めなかったわ。
いやまあそれで本当に解決するかどうか、それ以前にボスに置き去りにされた『魔人衆』が協力してくれるかどうかもわからないんだが。でも勇者の勘が反応したから、そっちを攻めるのが正解なんだよな、きっと。