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32章 応魔  07

 クウコのいる神社のある山のふもとまでは車で30分ほどだった。あまり手入れがされていない参道を上ること10分で、例の神社の前に出る。


 とそれはいいのだが、神社の前には先客がいた。


「なんとハシルではないか。しかも別の女を連れてくるとは、こちらの世界では随分とハーレム作りに熱心なようだな」


 ジト目で俺を睨むのは白銀ロングヘア少女、古代竜のルカラスだ。


「根も葉もないことを言うな。こちらは俺の同僚の先生だ。それよりルカラスはなんでここにいるんだ?」


「む? まあ数少ない同類だからな。話をするといろいろとこちらの世界のことを知ることができて楽しいのだ」


「あっそういう……」


 なるほど幻獣同士話が合うというわけか。とはいえルカラスは話好きだから、迷惑をかけてなけりゃいいんだが。


「それよりクウコはどこへ行ったんだ?」


「人の気配が近づいて来たので隠れてしまったのだ。クウコよ、ハシルだから姿を見せても問題ないぞ」


 ルカラスが神社に向かって呼びかけると、社の正面の格子をすりぬけるようにして白い九尾の狐が現れた。赤い目をクリクリさせて首をかしげる姿はかなりあざとい。


 その神々しくも可愛らしい幻獣の姿を見て、関森先生は「ふむ……」と声をもらして目を細めた。


「相羽先生、まずそちらの女の子はどのような関係の方なのかな」


「こいつはルカラスといって、今は人の姿をしていますが、実は古代竜……ファンタジーでいうドラゴンです。異世界からやってきた人間ですね」


「古代竜、ドラゴン……相羽先生の言うことだから信じた方がいいのだろうな」


「まあ信じても信じなくてもどちらでも大丈夫です。それとこちらの白い狐みたいなのが例のクウコです」


「なるほど……『空狐』か。狐の妖怪の名だな」


「あ、そうなんですね。まあ超常的な存在という意味では妖怪みたいなものでしょうね」


 と答えつつ、俺はクウコの方に向き直った。


「済まんクウコ、ちょっと聞きたいことがあってな」


『……なんでしょうか?』


 クウコが『念話』で返事をすると、関森先生がビクッとした。


「む……っ!? 今頭の中に声が響いたが!?」


「済みません、言うのを忘れてましたが、クウコはそういう能力が使えるんです」


「テレパスとかそういう能力か? まさか実在したとは……」


 関森先生がマッドサイエンティスト化しそうになっているので俺は慌てて話を続けた。


「クウコが力を与えた少年たちなんだが、彼らの性格を変えるとか、そういうことをしたりはしたか? 今日坂峰という少年と話をしたんだが、ずいぶんと荒っぽい性格だと感じたんだ。担任によると以前は大人しい性格だったらしくてな」


『性格を……変えるような術を……わたくしはそもそも持っておりません。……ただ、力を与えたことで……変わってしまった……可能性は、あるかもしれません』


「あ~やっぱりそうか。それってクウコの方でなんとかならないか? 結構トラブルも起こしてるみたいなんだ」


『先ほども言いましたが……性格を変える術は……持っておりませんので……』


 クウコが首をかしげてそう言うと、関森先生が一歩前に出た。


「貴方が彼らに特別な力を与えたというのは本当なのか?」


『はい……それは……本当です』


「まだ若い彼らに強い力を与えることで起こりうる心身の変化までは考えていなかったということか?」


『そう……ですね……。そこまでは……考えていませんでした……。昔は……成人に力を与えて……いたのですが』


「ふむ……」


 関森先生がそこで黙ってしまったので、代わりに俺が質問を続ける。


「今回はなぜ未成年に力を与えたんだ?」


『今の成人は……超常の存在を……受け入れないの……です。何人か……試したのですが……』


「ああ……」


 科学の発達によってオカルトが衰退したということだろうか。なんとなく理解できなくもない話だ。


『しかし……彼らから……力を取りあげることも……できません。この世界のために……必要があって……やっていることですから』


「まあそうだよな」


 いつかやってくる『応魔』とかいうのに対抗するために与えた力らしいから、少年の性格が変わったからといって、せっかくの適合者を手放すという話もないだろう。少なくとも坂峰少年たちは『応魔』退治のシミュレーションはしっかりやっていたしな。


 俺たちの話が途切れると、そのタイミングでルカラスが俺に近づいて来る。


「話がよくわからんが、なにを悩んでいるのだ?」


「あ? それはな……」


 軽く説明をすると、ルカラスは「ふむ……」と言って一瞬考える様子を見せ、すぐに俺を見上げてきた。


「要するに未熟な者が己に過ぎた力を急に手に入れ、増長しているということであろう? そのような人間は嫌というほど目にしてきたわ。しかしそれならば話は簡単ではないか。ハシルが真の強者の姿を見せつけることで、一度性根を叩き直してやればいいだけであろう」


「えぇ……」


 なんかめんどくさいことを言い出してきたな。しかも関森先生まで「試す価値はあるか……?」とかつぶやいているし。


 そういうアフターケアみたいなものは当事者にやってもらいたいものなんだが、クウコはつぶらな瞳でこっちを見てくるだけである。


 まあ相手が高校生で、一応妹の(めぐる)や双党にも関わってくることだから、無関係という話でもないんだが……。


 ともあれその場での即答は避け、経過観察の後必要があれば、という形でその場はおさめることにした。

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― 新着の感想 ―
むしろクッソ強くなったのに一般市民として生きていこうとする勇者先生が稀有なのでは
もっと人を選んで欲しかったよな。
クウコさんにとっては彼等の私生活が云々よりも、これから来る脅威にきちんと対応してくれるかどうかの方が重要ですからね。本音としては「だからどうした?私が力を与えた事に何か関係があるのか?」って感じなのか…
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