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32章 応魔  05

「あう~、頭がパンクしそうでぇす……」


『転送』によって『生活相談室』に戻ってくると、レアは椅子に座ってぐったりと机の上に上半身を投げだした。


 俺が勇者であることから始まって、異世界のこと、『ウロボロス』を始め複数の宇宙戦艦を所持していること、青奥寺たちが魔法を使えることなどを一気に伝えたのだ。もちろん『ウロボロス』の貨物室で魔法も使って見せたし、異世界の武器も見せた。それからアメリカのモンスター退治も俺がやらせているという話もした。


 それだけの情報を証拠付きで脳味噌に流し込まれたら、誰でも頭はパンクするだろう。


「それでアイバセンセイは、結局何者なんでぇすか……?」


「一番最初に言ったろ、基本的には異世界で戦ってた勇者だ。宇宙船とかはこっちに戻ってきてから偶然手に入れただけで、そっちはメインじゃない」


「それにしてもすごすぎまぁす。こんなこと人に伝えても、多分一切信じてもらえないと思いまぁす……」


「かもしれないな。ハリソンさんは信じるのか?」


「あそこまで見せられたら信じるしかないでぇすよ。でもセンセイがニンジャマスターでなかったのは少し残念でぇす」


 う~ん、勇者よりニンジャマスターの方が扱いは上なのか。まあ確かにリアリティで言ったら上かもしれないが。


「まあそんなわけで、これでハリソンさんも仲間ってことになるからよろしく」


「ん~、そうでぇすね! これでワタシもアイバセンセイに認めてもらったってことでいいんでぇすよね!」


 レアはガバッと身体を起こし、こっちに向き直りながら目を輝かせた。どうやら不機嫌は完全に解消されたようだ。女子の心理は新米教員には本当に難解な代物である。


「そういうことになるかな。と言っても別にそんな変わるわけじゃないけどな」


「でもでも、これから『クリムゾントワイライト』以外でも、なにかあった時にはワタシも呼んでもらえるのでぇすよね!?」


「え、いや、まあ、必要があればな。あの3人も基本はそういう扱いだし」


「そうなんでぇすか? じゃあ、カガリたちとなにかする時は必ず呼んでくださぁいね」


「あ~、わかったよ。そう言えばハリソンさんって留学は半年だったよな?」


「それはどれだけでも延ばせまぁす。今回の『クリムゾントワイライト』の件が解決すればワタシは一旦フリーになるのでぇ、今度はハリソン家の意向でセンセイ個人につくことになると思いまぁす」


「俺個人につくってどういうことだ?」


「ん~、センセイのような人はハリソン家としても色々と秘密……というか技術を知りたいところなのでぇす。なのでワタシがずっとセンセイの近くにいて、センセイから学ぶ、みたいな感じでぇすね。だから多分、ずっとジャパンにいることになると思いまぁす」


「えぇ……」


 そんな仕事を年頃の娘さんにやらせるのもどうかと思うが、レア自体はあまり嫌そうな感じではないし、家の事情みたいのもあるだろうから俺がとやかく言うことでもない。


 そう言えばその内リーララやルカラスやカーミラとかも紹介する必要があるのか?


 それはそれでまた面倒なことになりそうな気がするな。




 その翌日の午後は、例の少年たちの件について、関森先生と事前打ち合わせをすることになっていた。


 ただそれに先だって、青奥寺たちの助言に従い、校長先生には裏の事情を話してしまうことにした。


 昼休み、ノックをして校長室に入ると、女優風美人の明智校長とともに、白衣を着た、前髪で片目を隠した天才女医風美人が椅子に座っていた。


 関森先生は明蘭学園の養護教員の一人である。見た目の良さ、さっぱりした性格なところもあって、女子生徒の評判はかなりいいらしい。ただ俺から見るとなんでも調べたがるマッドサイエンティストというイメージがあって少し怖かったりする。というか一度全身をくまなくチェックされたこともあるし。


 まあともかく校長先生と関森先生は、2人応接セットに座って話をしていたようだ。


 俺の顔を見て、校長がニッコリと笑う。


「相羽先生でしたか。ちょうど先生のお話を摩耶……関森先生としていたところです」


「摩耶」は関森先生の下の名だ。2人は個人的にも仲がいいらしい。


「それは少し怖いですね。ええと、校長先生、少し内密な話があるのですが……」


「そうですか。ええと、そうですね、関森先生は基本的にこの学校のことは熟知していますので、大抵のことは彼女の前で話をしても問題はありません」


「はあ……?」


 関森先生に関しては、確かに学園の裏を知っている先生というのも聞いていて、すでに勇者だということも伝えてある。しかし校長の言い方だと、それ以上に信頼関係があるように聞こえる。


 俺が少しだけ戸惑っていると、関森先生もこちらを見てフッと笑った。


「相羽先生については、『クリムゾントワイライト』に関わる事件を解決しているということや、先日異世界とやらに行ったというのも聞いている。私の想像以上に相羽先生は色々なことをしているようだな」


「あ、そうなんですね。関森先生のことをこちらが知らなかったものですから」


「それで内密の話というのはなにかな。このタイミングだ、もしやこれから調べにいく少年に関する話だったりしないか?」


 青奥寺もそうだけど、勘の鋭い女性って怖いよなあ。


「ええ、実はそうなんです。偶然に、お盆中実家に帰省しているときに接触することがありまして」


 と言うと、校長と関森先生は2人して顔を見合わせた。そりゃまあ偶然にしては出来過ぎてますからね。


「ええとですね、自分が勇者というのはお伝えした通りなんですが、勇者ってこういう信じられないような偶然というのがよく起きるんですよ。逆にそうじゃないと勇者はできないというか……」


「突飛な話だが、言われてみればその通りなのかもしれないな。香津美先輩、相羽先生の話を先に聞こうか」


「そうね。相羽先生もこちらに座ってください。そのお話を聞かせてもらいましょう」


「はい、失礼します」


 美人に挟まれるような形で椅子に座る。


「それで、どのようなお話でしょうか」


 校長に促され、俺は坂峰少年の話を一通り2人に伝えた。


 彼が『クウコ』という超常的存在に力を与えられていること。異世界で戦ったという暗示をかけられていること。仲間があと4人いて、実際に模擬戦闘を行っていること。そして身長や体重の変化がそれらによって引き起こされただろうこと。


 話し終わると、2人はまた顔を見合わせ、合わせたように深いため息をついた。


「信じられないようなお話ですが、相羽先生がおっしゃるならすべて真実なのでしょうね」


「香津美先輩は相羽先生をかなり信用しているのだな?」


「ええ、相羽先生は生徒を守ってくれていますし、それにあちこちの方から信用できる人だというお話も聞いていますからね」


「なるほどな。しかしそうなると、今回の話は落としどころをどこに持っていくのかが難しくなるな。この件を相談してきた私の知り合いは普通の人間だ。今の情報をそのまま伝えるわけにはいかない。というより伝えても信じることはないだろう」


「そうですね。その坂峰少年を調べるにしても、超常的な力を持っているのかどうかまで踏み込むのは難しいかもしれません。相羽先生はどう考えますか?」


「坂峰少年に関しては、大元の『クウコ』を含めて、今のところ仲間内だけで行動が完結しているので放っておいたほうがいいと思います。ただ関森先生のお知り合いもそれでは納得しないでしょうから、坂峰少年本人については一度調べるふりはしておいたほうがいいのではないでしょうか」


 正直すごく面倒くさいが、依頼があった以上なにもしないわけにもいかない。むしろ裏を知らない先生がしつこくつついたりするほうが坂峰少年たちも大変だろう。


 俺の意見に校長もうなずいてくれた。


「それがいいでしょうね。摩耶、それで頼める?」


「ふむ、まあ香津美先輩がそう言うならそうするが……。しかしそんな話を聞くと、坂峰少年の身体にどのような変化が起きているのかは調べたくなってはしまうな」


 関森先生の瞳に肉食獣の光が宿るが、それを見て明智校長は溜息をついた。


「摩耶、他校の生徒なんだから深入りはしないで。向こうは素人よ」


「それは残念だ」


 それでもうずうずしている様子の関森先生を見て、校長は俺に目配せをしながら言った。


「相羽先生、すみませんが当該生徒への聞き取りの時など、摩耶……関森先生が暴走しないように抑えるのをお願いしますね。いざとなったら力ずくでも構いませんので」


「は、はあ……」


 なんか猛獣使いみたいな役を任されたんだが、これって学校としては表向きの仕事のはずだよなあ。


 関森先生も「代わりに相羽先生の身体をもっと調べさせてくれれば我慢できるかもしれない」とか言ってるし。


 う~ん、実は勇者遣いの荒い職場なんだろうか、ウチの学校は。

次回29日(金)は所用のため更新を休ませていただきます。

申し訳ありませんがご了承ください。

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むしろ年頃の娘だから近づけてるという ハニートラーップ
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