3章 → 4章
―― とあるお嬢様と執事の会話
「中太刀、例の人物の調査はどうなっているの?」
「は、調査部の伝手を頼って調べさせましたが、今のところ特に変わった点はないとのことですな。こちらが調査結果ですが、御覧になりますか?」
「見せてちょうだい。……ふぅん、地元の学校を出て、地元の大学の教育学部に進学、公立学校の試験には落ちて明蘭学園に採用になる……本当に何もない履歴ね」
「はい、彼のご実家の方も調べましたが、一般的な家庭で特に気になる点はなにもないとのことでございます。あれほどの力をお持ちである理由は今のところ見つかっておりません」
「空を飛び、乙型上位種2体をこともなげに倒した上に、こちらの内情まで見抜いてくる。私も九神として裏のある人間は多く知っていますけれど、あれほど不思議な人間は見たことがありませんわ。勇者などと言っていたけれど、なにか化かされてでもいるのかしら」
「いえ、この私もこの目で見ましたので決して幻ではございません」
「……とすると、もしかしたらこの履歴の人物とは別の人間が『相羽 走』を名乗っているということかしら。それが一番つじつまが合いそうな気がしますわね」
「なるほど、さすがお嬢様、鋭い着眼点かと思います。サンプルを採取して家族とのつながりがあるかどうかDNA鑑定に回してみるのがよろしいかもしれませんな」
「可能ならやってもらえる? 兄のやっていることはあまりに危険だけれど、相羽先生のような人間がいるのなら現実的に可能なアイデアになるかもしれない」
「お嬢様、それは……」
「もちろん九神のタブーを犯すつもりはないわ。ただ選択肢は多いに越したことはない、違うかしら?」
「その通りでございますな。ところで藤真様については……」
「さすがに今回の件はちょっとおかしいわね。いくら兄が当主の座を狙っているとはいえ、すでに策を弄している以上、危険を冒して私を排除する理由がないわ。私を物理的に排除するつもりなら『深淵核』なんて持ちだす必要もないのですから」
「とすると、別にお嬢様の排除を狙った者がいる、と?」
「その可能性があるということ。もしいるなら、その者は兄とつながっている可能性もあるでしょう」
「とすると、藤真様の周囲も調べさせないといけないということになりそうですな」
「そうね。泳がせて兄の尻尾を掴めばいいと思っていたけれど、これ以上美園に嫌味を言われるのも困りますし、いったんはお父様に釘を刺してもらいましょう。もしかしたらそれで黒幕が動くかもしれませんし」
「なるほど、それがよろしいかと存じます。やはりお嬢様が当主にふさわしいと感じざるを得ませんな」
「兄がもう少ししっかりしていれば、いえそれよりも姉様がいらっしゃったら私の出る幕なんてありませんのに……。美園みたいに友達と楽しくお話する普通の高校生活を送りたいものですわ」
―― とある生徒たちのSNS
リリ「二人ともあの後先生について何か分かったことはあった?」
みそ「私は結構一緒に行動することがあったけど、とにかく強いという他はべつに」
加賀「私助けてもらったのに戦う所全然見られなかった。気付いたら終わってたし」
リリ「それはどういう状況だったの?」
加賀「CTエージェントに囲まれちゃって、部屋にたてこもりながら先生に助けてって連絡したんだよね。そしたらすぐに駆け付けてくれたんだけど、終わったぞって言われて部屋から出たらCTエージェントが全員首を落とされてた」
みそ「本当に危機一髪だったんじゃない。でも首を落とすって、先生って容赦ないんだ」
加賀「一応前にCTエージェントは人間じゃないって言ってあったからかも」
リリ「戦う時は容赦がないという感じはする。かなりの実戦を経験してるのは確か」
加賀「ところでみそって何回も先生と一緒に空飛んでるんでしょ。私まだ一度もしてもらってないのにズルいよね」
みそ「代われるなら代わりたかったけど」
加賀「リリと同じでお姫様抱っこしてもらったんでしょ?」
みそ「さすがにそれはないから。背負ってもらっただけ」
加賀「ええ~つまんない。でもその方が先生ラッキーだったんじゃないかな」
みそ「どうして?」
加賀「だって背中にみそのアレが当たるでしょ。かなり大きめだしね、みそのは」
みそ「」
加賀「あれ? みその反応がなくなっちゃった」
リリ「みそはそういう話は苦手だから。でもどうせ先生はそういうの気にしてないと思う」
加賀「どうしてそう思うの?」
リリ「表面上平気なフリをしてるけど、女子に対して慣れてない感じがかなりする」
加賀「あ~それは確かに。この間抱き着いた時も挙動不審だったし」
みそ「は?」
加賀「あ、復活した」
みそ「それより抱き着いたってどういうこと? 説明して」
加賀「研究所で助けてもらった時、なんかほっとしてつい抱き着いちゃったんだよね。リリが言ってた通りすごい筋肉質だった。ちょっとあれはヤバいかも」
みそ「そういう問題じゃないでしょう」
みそ「加賀はもう少し警戒心をもった行動をしないとダメ」
みそ「先生だって男の人なんだし、何か間違いがあったらどうするの?」
加賀「分かってるからストップストップ! それより先生のこと九神のお嬢に知られたのは大丈夫なの?」
リリ「彼女の家はかなりの諜報力を持っている。けど、正体をつかめることはないと思う」
加賀「リリの科学力でわからなかったくらいだからね。やっぱりホントに勇者なのかなあ」
みそ「すぐに助けてくれるところは勇者ってイメージはあるけど」
加賀「この間はお礼を要求されたから私はそういうイメージないなあ」
リリ「何を要求されたの?」
加賀「なんか交通安全の作文書けって押し付けられた。いくらなんでもちょっとひどくない?」
リリ「笑」
みそ「笑」