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1章 元勇者、教師になる 02

 翌日からさっそく教員としての仕事が始まった。


 なんとなくは分かっていたが、学校というのは基本的にオン(O)ジョブ(J)トレーニング(T)……実際に現場で仕事をしながら覚えていくというスタイルが中心になるようだ。


 最初の職員会議で年間計画や月間の計画、そして直近に迫った入学式と始業式、そして新入生オリエンテーションなどの企画案が出されたりするが、正直『こちらの世界』に戻って2日目の脳味噌には少々キツい。


 とはいえ超集中スキルや並列思考スキルなどが仕事をしてくれて、必要な情報を取りこぼすことはないのはラッキーではあった。


 魔物と戦い続けた中で身につけたスキルが平和な日本で役に立つというのは、なんとも妙な気分にさせられる。しかしまあせっかく身につけたスキルである、せいぜい有効利用はしてやろう。


「相羽先生、いきなり会議で色々話をされてびっくりしたんじゃないか? この学校は初任者でも基本放っておかれるから、分からないことは自分から聞いた方がいいよ」


 会議のあと職員室でそう言ってくれたのは、俺が配属された高等部2年の学年主任の熊上先生だ。


 かなり体格のいい、名前の通り熊っぽい風貌の中年男性である。


 俺は熊上先生が担任をする2年1組の副担任になっており、職員室の席も隣になっていた。


「会議の方はなんとか理解はできました。入学式とかって、あんなに細かい計画が立てられているんですね」


「ウチの教務主任は細かいからなあ。でもま、どこもあんなもんかな。基本的に自分に割り振られた係をやってれば大丈夫だから」


「分かりました。係のチーフの先生に聞けばいいんでしょうか」


「うんそう、それで大丈夫。ところで相羽先生っていい身体してるけど、なんか運動やってたの?」


「あ、ええと……」


 実は今着ているスーツもシャツもパツパツなのだ。


 切った張ったの世界で長いこと戦っていたおかげで、身体が一回りデカくなったせいである。


 しかしもちろんそんなことが言えるわけもなく、


「格闘技的なものを結構やってまして……」


 と誤魔化すと、


「ほほう、それは重要な情報だよ。実は総合武術部の顧問がまだ決まっていなくてね」


 見事に藪蛇になってしまった。


「総合武術部……っていうのは何ですか? 聞いたことがありませんが」


「ああ、剣道とか柔道とか合気道とか空手とかの武道系の部活をまとめた部なんだ。どこも部員が少なくてね、一つじゃ校則上部にならないから、まとめて部扱いにしてるんだ」


「ずいぶんと力技ですね」


「ウチは部が多すぎるんだよね。だから顧問も足りなくて。ああ、技術指導とかは先輩が後輩にやるみたいな感じになってるはずだから、基本的に大会の引率とか書類のやりとりがメインだよ」


「それだと顧問が武術をやっているのは関係ないんじゃ……?」


「それでも未経験の先生をつけるよりは適材適所さ。もちろん教えられるなら教えてもいいし」


「はあ……。まあ球技の顧問よりはいいですね。自分球技が苦手なので」


「オーケー、教務主任に言っておくよ。どうせ若手は運動部の顧問をやらされるから、それなら得意な分野の方がいいって」


 と熊上先生はゴツい身体を揺すって笑った。




 とまあバタバタしながらあっという間に一週間が過ぎ、入学式兼始業式の日になった。


 小中高一貫校ということで高等部の入学式は簡素化され、始業式と同時にやるのだそうだ。


 式については「本当に女子しかいない」という以外は見慣れたものだった。


 問題はその後のホームルームの時間である。


 担任の熊上先生について2年1組の教室に向かった俺は、教室に入るや否や30人分の好奇の視線にさらされてたじろいでしまった。


「さて言ってた通り1組はひき続きオレが担任だから諦めて欲しい。その代わり副担は新任の相羽先生にしてもらったから、オレへの文句は相羽先生に聞いてもらうように」


 と慣れた感じで話し始める熊上先生。このあたりの雰囲気は女子校も変わらないんだと一安心する。


「じゃあ相羽先生、軽く自己紹介をお願いします」


「あ、はい。ええと、私は相羽走といいます。教科は国語で、総合武術部の顧問です。特技は格闘技です。よろしくお願いします」


 教育実習もやったはずなんだが、その記憶も経験もすっかり抜けきってるな。


 というか、女子の視線がここまで強烈なプレッシャーになるとは思ってなかった。しかも数人の視線が感知スキルに引っかかるレベルに強い。まさか今の挨拶で「生理的に受け付けない」とかいって嫌われたんじゃないよな?


 強い視線を向けている生徒を確認する。


 1人は黒髪ロングの子だが……目つき悪いな!?


 もう1人は背が高そうなショートボブの子で……こっちも目が怖い……目に光がないからか?


 もう1人はツインテールの子だけど……よかった、この子は目つきが普通だ。いや、普通だからこそこの視線が逆に怖いんだけど。


「さて、詳しい話は授業の時にしてもらうことにして、まずは課題を集めるからな。用意してくれ」


 熊上先生の指示で俺への視線が外れ、生徒たちは一斉に課題らしきものを机上に出し始める。


 そこで俺は軽い恐怖を覚えた。


 ……だってクラス全員が課題を完全提出するなんてあり得ないだろ。

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