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32章 応魔  02

 関森先生の件については週の終わりに課外授業免除で対応するという話になったので、まず相手をしなければならないのは留学生のレアである。


 翌日の課外にはしっかりと姿を見せており、俺の方をチラチラ見ていたのでなにか言いだしてくるのは明らかだった。事情を知っているであろう双党もこちらを見てニヤッとしていたので、なおさら確定という感じだ。


 果たして放課後、金髪ポニーテールのアメリカン女子校生なレアが職員室に現れた。


「アイバセンセイ、ちょっとお話がありまぁす」


「おう。場所を移した方がいいか?」


「できればその方がいいでぇす」


 というわけで久しぶりの『生活相談室』へ移動する。


「で、どうした? 例の犯罪組織の件で『クリムゾントワイライト』が関わっているってのは聞いたが」


「それならお話は早いでぇすね。そのことで、ウチのボスがセンセイと直接お話をしたいと言っているのでぇす」


「ボス? ええと……『アウトフォックス』だったか。そこのボスか?」


「そうでぇす。正確にはさらに上がいるのですが、私たちの実質的なボスはその人になりまぁす」


「時間は? 今日でも構わんぞ」


「いいのでぇすか? できるだけ早くという指示なので、それはとてもありがたいでぇすね」


「了解だ。それとアメリカにモンスターが現れている話はどうなったんだ?」


「あ~、それなんでぇすが……」


 レアはそこで眉を寄せ、人差し指を口元にあててちょっと困ったような顔をした。


 まあ彼女がそんな顔をする理由は俺が一番よく知ってはいるのだが。


「まず、2~3日に一回くらいの頻度でモンスターは現れているみたいなのでぇす。しかし被害はほとんど、というよりまったく出てはいないのでぇすね」


「そりゃ優秀だな。あの『深淵窟』見学が役に立ったか?」


「その通り、と言いたいところなのでぇすが、実はそうではないのでぇすね。これは極秘情報なのでぇすが、謎の人物がモンスターをハントしているようなのでぇす」


「なんだそりゃ。謎の人物?」


 知ってるけどあえてとぼけてみる。


 恐らくレアもその上の人間も俺を怪しんでるとは思うが証拠はゼロだ。そもそも宇宙空間からアンドロイドが転送されてきてモンスターを倒してますなんて想像もできないだろう。


「完全に謎の人物なのでぇす。撮影されたことがあるようなのでぇすが、その映像を見る限り、銀色の服に身を包んだ女の子のようでぇした。しかも彼女たちは剣や槍でモンスターを倒していたのでぇす」


「その動画がフェイクという可能性は?」


「なくはありませぇんが、専門家の解析によると正しい映像の可能性が高いということでぇした」


 そう言いながら、青い瞳をこちらにじっと向けてくるレア。


 さすがに彼女が嘘を見破る技術とかを持っていたら勇者であってもバレてしまうかもしれないな。もちろんだからといって、証拠ゼロという事実は揺るがないが。


「なるほどね。まあでも結果的にはいいんじゃないか、被害がないのなら」


「本気では言っていませぇんよね?」


「まあな。ハリソンさんのところも組織としてのプライドとかもあるだろうし、正体不明の人物に安全を任せるというのも組織としてはあり得ない話だしな」


 俺が涼しい顔をすると、レアは「むむむ……」という感じで少し膨れたような顔になった。


 う~ん、なんかちょっと双党に似てきたんじゃないだろうか。大丈夫か『アウトフォックス』。


「まあともかく、そのボスに会うんだろ? 後で時間と場所を連絡してくれ」


「……わかりまぁした。それと……センセイはどうしたらワタシをミソノやカガリやリリオと同じように扱ってくれるようになるのでぇすか?」


「ん?」


 なんか急に攻め手を変えてきたか?


 微妙に潤んだような瞳になっているのがずいぶんあざといが、そんな手に乗るほど勇者は甘くないんだよなあ。


「俺は同じように扱っているつもりだけどな。差があると感じるのはハリソンさんの方になにかあるからじゃないかな」


「ワタシの背後に組織があるのはその通りではありまぁすが、ワタシは個人的にもセンセイとは仲良くなりたいのでぇす。その気持ちは本物だと信じてくださぁい」


 レアはそう言うと、顔をぐっと俺に近づけてから、そのまま『生活相談室』を出て行った。


 う~ん、夏休みの間に何かまた強い指示が入ったのかもしれないなあ。あの年齢で組織の一員っていうのは色々と大変だよなと同情をしてしまうが、勇者とカミングアウトしてやるにはまだ足りないかな。




その夜俺は、レアから指示のあったとあるホテルの一室にお邪魔をした。


 そこそこ高級なホテルで、部屋も俺の住んでいるアパートとは比べ物にならないくらい広い。


 迎えてくれたのは、背の高い、茶色に近い金髪を綺麗にセットした40前くらいの男性だった。体格は細いが鍛えられた者のそれで、身のこなしには一切の隙がない。理知的な目といい、そのまま余裕でAランク冒険者パーティのリーダーが務まりそうな人物だ。


「初めましてミスターアイバ。私はグレアム・クラーク、アメリカ合衆国の特務機関『アウトフォックス』の実務部長をしている者だ。今日はニンジャマスターに会えて嬉しく思う。よろしく頼む」


「初めましてミスタ・クラーク。ハシル・アイバです。高校の教員ですが、副業でニンジャマスターをしています。御用ということで参りました」


「わざわざ御足労を願って申し訳ない。どうぞこちらへ」


 う~ん日本人より日本語上手いんだよなあ。やっぱりかの国のエリートは半端ないな。


 うながされて応接セットに座ると、ペットボトルのお茶と、どこかの高級そうなお菓子を出してくれる。


「まずは私の部下のハリソンの面倒を見ていただいていることに礼を言いたい。彼女もニンジャマスターから直接武術(マーシャルアーツ)を習っていると上機嫌で報告してしていてね。こちらも驚いているところだよ」


「大したものは教えていませんけどね。彼女自身なかなかの使い手ですから、教えるのは楽しいですよ」


「そう言っていただけるとありがたい。それと例の『モンスター』の実地研修でも大変世話になった。おかげで対処ができている……と言いたいところなのだが、その件はハリソンから聞いているかな?」


「ええ。謎の人物がハントしていると聞いています。日本にもあのモンスターを退治する専門家がいるのですが、アメリカにもいたということでしょうか?」


 俺がとぼけると、クラーク氏の目がすうっと細まった。ん~、これはバレた感じかな?


「率直に言えば、その人物はニンジャではないかと分析する向きもあってね。なにしろ彼女らは前近代的な剣や槍を使っているようなのでね」


「少なくとも私は心当たりがありませんね。別の流派という可能性もありますが」


 また細まるクラーク氏の目。なるほど直接会いに来たのはそういうわけか。やっぱり怖いな世界トップの国は。


 しかしそこで「ふむ、その線も考えておこう」と言葉を切ったので、どうやらそれ以上の追及はないようだ。

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