31章 → 32章
―― アメリカ合衆国 ヴァージニア州某所
部屋で、老年の男が端末のモニターに目を走らせていた。
一見すると軍の高官を思わせるその男は、しばらくすると革張りの椅子に背を預け、目をつぶり深く溜息をついた。
その息が消えるタイミングで部屋の扉がノックされ、スーツ姿の壮年の男が入ってくる。
「失礼いたします。将軍、例の事件のデータが届きました。端末でご覧ください」
「私はもう将軍ではないよ。局長と呼びたまえ大佐」
「私も大佐ではなく部長です、サー」
「まったく、互いに妙な立場になったものだ。まあいい、データを見せてもらおうか」
「どうぞ」
「うむ。……やはり『クリムゾントワイライト』の可能性が大か。しかしまさか『サバト』のボスの家を襲うとはな。奴らは協力関係にあると思っていたが」
「単に『クリムゾントワイライト』が乗っ取りのタイミングを狙っていただけかもしれません。武力から言えば、どう考えても『クリムゾントワイライト』の方が上ですので」
「そうではあるのだが、動きとしては妙な気もしないかね。奴らは長い間表にでるのを極度に避けてきていた。それが急に巨大犯罪組織の乗っ取りとは、一貫性を欠くと思うのだがね」
「『クリムゾントワイライト』にとって、『サバト』は資金源の一つだったのではないかというのが調査部の見解です。『クリムゾントワイライト』が現れてから、新しい薬が急に広まりだしましたので」
「『サバト』に薬を卸していたという話だったな。とすると、卸売価格で揉めて乗っ取ったという可能性もあるか」
「最初からそのつもりであった可能性もあります。どちらにしろ問題は……」
「ただでさえアンタッチャブル化している『クリムゾントワイライト』がさらに面倒な相手になったということだな。しかし大元の居場所が分かっていながら末端だけを潰して回るしかないというのも、腹に据えかねるところだ」
「しかし『クリムゾントワイライト』の長と戦えるだけの戦力を出すことは軍もしないでしょう」
「被害が出るのはわかり切っているからな。それに例の『モンスター』の対応もある。軍も迂闊に動けまい」
「それに関してなのですが、妙な情報が入ってきています」
「何かね?」
「例の『モンスター』については各州で目撃情報が相次いでいるのですが、どうもその『モンスター』を狩っている連中がいるようなのです」
「民間の人間か?」
「いえそれが、彼らについてはまったくの正体不明で、連邦捜査局も中央情報局も首をひねっている状態のようです」
「謎の超人が現れたとでもいうのかね」
「目撃者によると、それは女性……というより少女のような姿をしていたそうです。銀色のスーツを着ていて、槍や剣で『モンスター』を倒したということでした」
「頭が痛くなるような話だな。いや待て、そういえばハリソン少尉の報告に、『モンスター』を倒す少女たちが日本にいるという情報があったな。『クリムゾントワイライト』の支部を潰したニンジャマスターの弟子とか」
「その通りですサー。もしかしたらつながる可能性もあります」
「ふむ。ハリソン少尉によると、彼女らの情報はステーツに対してすら秘匿せよとの話だったが……少尉に連絡をしてみようか。ニンジャマスターが本当にいるのならば、こちらも協力を頼みたいところだ」
「ニンジャマスターは気難しいと聞いています。できれば私が直接出向いて交渉をしたいと思うのですが」
「ふむ……その方が話が早いか。大佐、ではなく部長、よろしく頼む」
「はい、お任せください。どのような人物か見極めてまいります」