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31章 勇者の里帰り  06

 家に帰ると、俺はまず両親にさきほどの怪しい少年の話をした。


 父は眉を潜めただけだったが、母は、


「そういえば、少し前に告白されて断ったって話をしてたかも」


 と、つながりのありそうな話を出してきた。


 ただやはりストーカーに困っているというような話は聞いていないという。


 仕方ないので巡の部屋へ行く。ノックして「ちょっといいか?」と声をかけると、ドアを開けて巡が出てきた。ちなみにこいつは俺が部屋に入ろうとするとすごい剣幕でキレる。


「なに走兄ぃ?」


「あ~、ちょっとこっち来い。すまん、ちょっと妹借りるわ」


 俺は青奥寺たちに声をかけ、巡を廊下に連れてくる。


「さっき犬の散歩に行ってたら、泊さん()のとこの交差点でお前の部屋をじっと見てる男がいて、声をかけたら黙って行っちまったんだ。見た目高校生くらいの結構カッコいい奴だったんだが、何か身に覚えはあるか?」


「え……? う~ん……」


 巡は少し驚いた顔をして、それから眉を寄せて少し考え事をしてから口を開いた。


「夏休みの直前に、2年の先輩から付き合ってくれって言われたんだ。同じ中学出身って言われて、でも全然知らない人だったし、微妙に上から目線なのも嫌だったし、今は部活と勉強でそれどころじゃないから断ったの。正直顔もよく見てなかったし覚えてないんだけど、多分背の高いそこそこカッコいい人だったっぽい」


「名前は?」


「ん~……坂峰さん、だったかな」


「坂峰、ね。まあそんなことだからお前も注意してくれ」


「分かった。美園先輩たちにも対策を聞いてみようかな。あれだけ綺麗な人ならきっとそういう悩みもあるよね」


「あ~、それはどうかな……」


 3人ともストーカーとか簡単にぶっ飛ばせるしなあ。多分気にも留めない気がする。


「それより走兄ぃ、かがり先輩いじめすぎ。作文書かせるとか非道すぎてひくから」


「奴は書かせられることをやってるんだ。どうせ都合の悪いことは言ってないんだろうが」


「それでもないでしょ。セッケンランヨウってやつ?」


「職権濫用な。石鹸じゃ泡まみれになるわ」


 やっぱりウチの妹はおバカだ。


 なんでこんな奴に付きあってくれとかいう男子がいるのか理解に苦しむな。




『艦長、調査終了しました~。確かに2学年に坂峰という男子生徒はいるみたいでっす』


「データを映してくれ」


『どうぞ~』


 俺は自分の部屋のベッドで仰向けになりながら、左腕を胸の前に置く。


 すぐにリストバンドが光り、空中に二次元の画像が表示された。表示されているのは、巡の高校に通うとある生徒のデータだ。


『ウロボロス』に頼むと、役所や学校にあるデータをハッキング、複数のデータをつなぎ合わせてあっという間に一人の人間のプロフィールを作成してしまった。銀河連邦の技術恐るべし(n回目)だ。


「坂峰 一稀、ね。確かにこの顔だった気もするが、随分と体型が違うな」


 表示されている顔写真の、目や鼻などの造形は、さっき見た少年のそれと確かに似ている。しかしその顔の輪郭がまるで違うのだ。俺が見た少年の顔は普通に細面だったが、写真のそれはずいぶんとふくよか……いや、はっきり言えば肥満に近い。身長体重のデータを見ると、高校1年生時は170センチで96キロもある。ところが2年だと66キロまで落ちている。しかも身長は178センチまでになっているのだ。写真が1年生時のものは確かだが、それにしてもこの変化は少し異常な気がする。もちろんありえなくはない変化だが、裏になにかあると勇者の勘が騒いでいるのも確かだった。


「こりゃ妹のストーカーってだけで済まなそうな気がしてきたな。ウロボロス、坂峰の家の周辺を映してくれ」


『了解でっす』


 モニターに、上空からの住宅地の映像が映し出される。それが一気にズームアップすると、中央に映る青い屋根の家に『坂峰家』の表示がつく。


「その家に誰か近づいたら教えてくれ」


『分かりました~』


 恐らく坂峰少年があの後まっすぐに家に帰るなら、そろそろ着くころだ。


 予想通りすぐに『若い男性が徒歩で接近していまっす』の連絡。映像を見ると、先ほどの少年と同じ格好をした人物が歩いていた。さらにズームさせるが、さすがに頭頂部しか見えない。


 だがその時、少年がいきなり顔を上に向けた。つまりカメラの方を見たのだ。


 その顔は確かに先ほどの少年で間違いなかった。だが今はそれより気になることがある。


「もしかしてカメラに気づいた……ってことはさすがにないか。視線を感じたとかそんなところだな。とすると高レベルの『気配察知』スキル持ちか。ウロボロス、こいつをマークしておいてくれ」


『了解でっす。生体波取得、行動を常時監視しまっす』


 さて、ちょっと妙なことになってきた。


 彼が今俺が関わっているあれこれに関係あるのか、それとも全く別の話につながるのか。


 どうにもこの世界も、勇者を休ませるつもりはないようだ。




「は? 泊ってく?」


「そ。美園先輩たちはこの後帰るって話だったんだけど、もう遅いからって。お布団は3人分あるから大丈夫みたい」


 俺が部屋を出てリビングに行くと、いつの間にかとんでもない話がまとまっていた。いやいくら実家だからって、生徒を泊めちゃだめでしょう。と思うのだが、母に聞いても「まあ仕方ないでしょ。生徒の安全を守るのも教師の務めよ」とか言われた。


「いやいや、親父が車で送れば……は無理か」


 車だと高速を使っても明蘭学園周辺までは片道3時間近くかかる。本当なら一瞬で帰れる子たちなんだが、さすがにそれを言うわけにもいかないしなあ。


 俺が溜息をつきながら椅子に座ると、隣に双党がやってきた。


「美園の家もオッケーがでてるので諦めてくださいねっ。それより先生、さっき聞いたんですけど、巡ちゃんにストーカーがいるって本当ですか?」


「いや、まだ決定したわけじゃないけどな。ちょっと様子は見ないとならないかもしれん」


「先生なら調べられますよね? 璃々緒もできるって言っていたんですけど」


「あ~……」


 ちらと見ると、新良は小さくうなずいた。確かに彼女の『フォルトゥナ』でも『ウロボロス』と同じことが可能である。


「実はもうすでに手は打ってある。そうだな、ちょっと意見を聞かせてくれ」


 さすがに親や巡の前で話をできないので、3人を俺の部屋に入れる。よく考えたら教え子を部屋に入れる教師って……あ、もうアパートじゃ何度もやってたわ。


「え~と、そのストーカーっぽい男子なんだが……」


 さっきのプロフィール画像を表示させる。まっさきに気づいたのは新良だ。


「身長体重の変化が異常ですね。ありえなくはない数字とは思いますが、普通ではありません」


「確かにね~。でもここまで一気に変化したら、かなりカッコはよくなるよね。それで思い切って告白した感じかな~」


「でもそれだけなら先生もおかしいとは思わないでしょう?」


 のんきな双党に釘を刺しつつ、青奥寺は俺のほうを見た。


「実はさっき、この坂峰少年の家を『ウロボロス』に上空から映像を映させていたんだ。で、ちょうど少年が家に帰ってくるところだったんだが、どうも少年は『ウロボロス』に撮影されていることに気づいたらしい」


「ありえません。大気圏外ですよ?」


 新良の反応は当然だ。俺だってありえないと思う。


「恐らく『ウロボロス』を認識したというより、視線を感じたとか、そういう感じだと思う。俺も多分同じことはできるからな」


「それではその少年が先生と同じ能力を持っていると?」


「可能性はある。で、聞きたいのは、そんなことができる人間がいるなんて話、青奥寺と双党は聞いたことあるか?」


 2人は共に首をひねって考えていたが、すぐに両方ともに首を横に振った。


「少なくとも坂峰という家は青奥寺家の関係者にはいないと思います。そういう特殊な能力をもった人間がいるという話も聞いたことはありません」


「私も同じですね~。『白狐』は『クリムゾントワイライト』を調べる過程で色々情報を集めてるので、変な人間がいれば引っかかってくるはずなんですけど。あっでも東風原所長なら知ってることがあるかも」


「聞いてみてくれるか?」


「ちょっと待ってくださいね~」


 双党はすぐにスマホを取り出し電話をかける。『白狐』の東風原所長はすぐに電話に出たようだ。しかもどうやら所長は『白狐』の事務所にいるらしい。お疲れ様なことである。


「――ということなんですけど、何か怪しい情報ってありませんか?」


『ふむ、ちょっと待て。その辺りには以前何か報告があった気がするな……。ああ、これだ。その地区に住む何人かの少年少女が、数か月で大きく体型が変わり、身体能力が異様に上がったという報告だな。ただ基本的には背が伸びたり痩せたりといった程度の変化で、身体能力も人の域を逸脱しているわけでもないので追跡調査はしていない。その地域に『クリムゾントワイライト』の手が入っていたという報告もないからな』


「でもそれって、今回の件と同じ感じがしますね。先生、どうですか?」


「できればその体型が変わった少年たちの名前が知りたいな」


「だそうです」


『いいだろう。一人は坂本――』


 ということで、4人の名前を教えてもらうことができた。


 さて、一体どんな話が出てくるのか、ちょっと楽しみになってきたな。

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ワンオフ勇者vs量産勇者、ファイッ! 量産はワンオフには一対十でも勝てない予想。 どうしてイキるのですか……どうして……。
お? 集団勇者召喚から帰還してきたのかな? 逆に言うと勇者先生を小突いた時に妹が驚いてたけど、それ以外反応がないから前後で見た目は変わらないんだよな……
もう答え出てるやん……身近すぎるから逆に気づけんのか?
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