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勇者先生 ~教え子が化物や宇宙人や謎の組織と戦っている件~  作者: 次佐 駆人


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30章 異世界修学旅行その3  15

 さすがに気になったので、俺は頼んでババレント侯爵に会わせてもらうことにした。


 女王陛下は『収監』と言っていたが、侯爵がいるのは王城の地下室であった。いまだに城の地下に政治犯用の監獄があるというのがなんともこっちの世界らしい。


 パヴェッソン氏に案内されて地下の部屋に入ると、黒髪をボサボサにした小太りの侯爵が椅子に座らされていた。その前には小さなテーブルがあり、取調室のような雰囲気である。


「……パヴェッソン卿自らお出ましか。来ても状況は変わらんぞ」


 パヴェッソン氏を睨みつける侯爵は、それでもそれなりの迫力があった。勇者の犠牲になっただけで、実際にはそれなりに実力のあった貴族ではあるのだろう。


「そうおっしゃいますな侯爵。何か興味深いことをお話になっていると聞いて、直接うかがおうと思っただけです。さて、お聞かせ願えますかな」


「ふん……さっき言った通りだ。私の領地ではモンスターの研究をしており、すでに人工的に『特Ⅲ型』のモンスターを作ることに成功しておる。しかも人の手で操ることのできるモンスターよ」


「なぜそのような研究を?」


「決まっている。『魔導廃棄物』から生まれるモンスターどもを駆逐するためだ。王家が『魔導廃棄物』の対策に手をこまねいている間に、こちらは現実的な解決手段を模索しておったのだ」


「なるほど。しかし『特Ⅲ型』というのはやりすぎではありませんかな。操れなければ恐ろしいほどの被害が出ると思いますが」


「そのための研究だ。操る技術はすでにほぼ確立しておる。お前達にとって重要なのは、そのモンスターがすでに起動可能な状態にあることだ。そしてもし私に何かあったなら、3日以内にそれを起動することになっておる」


「ふむ……」


 パヴェッソン氏は真偽をはかるように目を細める。


 自信に満ちた侯爵の顔にはわずかな揺らぎもない。勇者の勘が、これは恐らくブラフではないと断定する。


 というか俺はすでに知っているからな、モンスターを操る技術があることは。『クリムゾントワイライト』も『フィーマクード』も、どちらも『深淵獣』を操っていたのだ。ババレント侯爵がその技術を供与されていてもおかしくはない。


「モンスターを操る技術は『魔人衆』経由で知ったんですかね?」


 試しに俺がつついてみると、侯爵は不快そうな顔を俺に向けてきた。


「何だ貴様は。捕らえられたとて私は侯爵だ。貴様のような者がそのような口をきいていい人間ではない」


「これは失礼しました。私は侯爵閣下のところにいたバルロという男と戦った人間ですよ。顔を見せるのは初めてですが」


「なに……?」


 俺を睨む侯爵の眉間にしわが何本も寄る。


「貴様がバルロの言っていた人間か! まさか今回の作戦が妙に想定外が多かったのも――」


「俺のせいですね。モンスターとか半分くらい俺が倒してしまったんですよ」


「き、貴様……!? 何なのだ貴様は……! いや、そんな馬鹿なことが貴様一人でできるはずがない……!」


「まあまあ。現実として侯爵閣下はここに捕らえられているわけですから、俺についてはいいじゃないですか。それより『特Ⅲ型』なんて本当に造ったんですか? もし本当なら国一つ簡単に吹き飛ばせるモンスターですけど」


「……ふんっ、そんな出まかせを言うほど落ちぶれてはおらぬ! 起動を止めたければ私を解放しろ。ならば起動を止めて、交渉には応じてやる!」


 なるほど、しかしまさかそんな奥の手まで残していたとはなかなかに用意周到だ。実態としては『魔人衆』にそそのかされて造るように仕向けられたんだろうが、それでも切り札になることは変わりない。


 形勢が自分に傾いてきたことを感じたのか、侯爵の顔には笑みが浮かび始めている。


 パヴェッソン氏もどうやら真実と判断したようで、難しい顔を俺に向けてきた。


「勇者様も真実だと思われますかな?」


「確認してみましょう。『ウロボロス』、ちょっといいか?」


 リストバンド端末に呼びかけると、すぐに反応がある。


『はい艦長、なんでしょうか~』


「ババレント侯爵領のどこかに大規模な研究施設があるはずだ。地上になければ地下だ。巨大なモンスターをどこかに隠している。反応を調べてくれ」


『了解でっす。1分ほどお待ちください~』


 急に始まったやりとりに、侯爵は胡散臭そうな顔をする。パヴェッソン氏は分かっているので真剣な表情だ。


『お待たせしました~。確かに侯爵の館の南8キロほどの地点に、強力な反応がありまっす。推定で「特Ⅱ型」の30倍くらいの強度ですね~』


「ありがとさん」


「やはり真実のようですな」


 パヴェッソン氏が渋い顔で言うと、侯爵は勝ち誇ったようにニンマリとした。


 しかしその顔は、次の『ウロボちゃん』からの通信によって凍りついた。


『艦長大変でっす。その反応が、いきなり動き出したみたいでっす。周囲に有毒物質を噴射しながら、都市の方に向かっていまっす』




「あ~こりゃすごいな。こんな奴は魔王の手下にもいなかった気がするぞ」


『ウロボロス』に戻った俺は、『統合指揮所』の艦長席で、メインモニターに映し出された映像を見ていた。


 なおカーミラ以外のメンバー全員もかぶりつきで見ている。


「なんとおぞましい。しかしハシルよ、あれは『魔王』にも匹敵する存在ではないか?」


 ルカラスもその映像を見て驚いた顔をしている。数千年を生きた古代竜ですら目を見開くようなモンスターが、モニターには映っていた。


 それは一言で言えば、腕と目玉と口の塊だった。


 恐らくは中央にはラグビーボール型の本体があるのだろう。その本体から、本体が見えなくなるほど無数の腕が全方位に突き出している。それは一見すると人間の腕であり、下側に生えた腕を足のように使ってそいつはゆっくりと前に進んでいた。


 その無数の腕の付け根あたりに、これまた無数の目玉と人間の口が無規則(デタラメ)に並んでいる。口からは時折紫色の煙が吐き出されているが、それが『ウロボちゃん』が言っていた有害物質なのは間違いなさそうだ。


 大きさは前後長で100メートルほどだろうか。それに10メートルくらいの腕が生えているのだから、ビジュアルとしてエグすぎである。


 しかも見ていると、時折木や岩などを手でつかみ、それをそのまま口に運んでいる。手当たり次第にものを食っているようだ。今は郊外の何もない土地を進んでいるが、あれが都市部に突っ込んでいったら大災害となるのは火を見るより明らかである。


『航空機部隊が出撃したみたいでっす』


 侯爵領の領都から攻撃機が10機飛んできて、両翼の下に並んだ兵装から炎の槍100本ほどをその化物に撃ち込んだ。しかしあろうことか、化物はその炎の槍を腕でつかみ、そのまま口に運んで食べてしまった。


「なんだあれ。意味が分からんな。『ウロボロス』、レールガンを10発撃ち込んでみてくれ」


『了解でっす』


 瞬時にロックオン表示が出て、音速の10倍ほどの速度で実体弾が撃ち込まれる。しかし化物はその弾を腕でキャッチ、やはり口に入れて食べてしまった。


「ええ~!? 先生、あんなのアリなんですか?」


 双党が叫ぶが、それは俺が言いたいセリフだった。さすがにあんな化物は俺も見たことがない。というか魔王軍四天王同等の『特Ⅱ型』より上のモンスターとなると、それはもはやルカラスが言うように『魔王』に近い存在なのかもしれない。侯爵はよくあんなの切り札として使おうとか思ったな。そもそも制御できる代物じゃないだろあれは。


「ハシルよ、どうするのだ? 放っておくことなどできぬぞ」


「まあやるしかないだろ。ちょっと行って戦ってくるわ」


「むう……我も共に戦おう」


 ルカラスの言葉に反応して青奥寺たちも俺の方を見るが、さすがにあれは俺とルカラスくらいしかマトモに渡り合えない。


「『ウロボロス』、一応通常兵装は常にスタンバイ状態にしといてくれ」


『了解でっす。レールガンとパルスラムダキャノン、それとソリッドキャノンを用意しておきまっす』


「指示したら射撃を頼む。よし、俺とルカラスをあいつの近くに転送してくれ」


『転送しまっす』


 俺とルカラスは青奥寺たちの「気を付けてください」「ご武運を」と言った声に送られ、白い光に包まれた。

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― 新着の感想 ―
SAN値直葬待ったなし!! のビジュアルなんでしょうなぁ… 是非書籍のイラストで見てみたいw
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