30章 異世界修学旅行その3 12
その後、女王陛下のところに行っているカーミラ以外は、一度『ウロボロス』に戻った。
侯爵についての話が簡単に解決してしまったので、俺としても拍子抜けした形で今後の予定が空いてしまった。本当はルカラスとかでもっと時間を使う予定だったんだが、女の子になって見た目つまらなくなってしまったしなあ。
「というわけで、行きたいところを募集します」
しょうがないので『統合指揮所』に皆を集めて意見を聞くことにした。
真っ先に手をあげたのは双党だった。
「先生、それなら魔法の手ほどきをしてほしいんですけどっ」
「あっちに戻ってからでよくないか?」
「でも全員が集まることってもうなくないですか?」
「確かに」
双党にしては鋭い意見だ。見るとリーララ以外の全員が目を輝かせている。
まあ言われてみれば、使えるものならすぐに使ってみたいよな。俺もそうだったからよく分かる。
「じゃあそうしよう。『ウロボロス』、貨物室は空いてるか?」
『空いてまっす』
「じゃあ全員、動ける服装で貨物室集合。あ、『魔法授与の儀式』の時にもらった小冊子も持参すること」
というわけで20分後に全員が貨物室に集合した。全員ジャージ姿だが、宇佐さんだけはなぜかメイド服だ。彼女にとってはあれが動ける服なんだろう。
「はいじゃあまずは簡単な、ろうそくくらいの火を指先に灯す魔法から始める。まず人差し指をたてて、そこに魔力を集中すること」
全員が指を立てて、精神集中を始める。ただリーララと九神は見ているだけだ。九神に関してはまだ魔力を扱えないので仕方ないが、彼女は『霊力』とかいう魔力の親戚みたいな力を使えるので、魔力もすぐに扱えるようになるだろう。
「はいそのまましばらく維持して」
見て回ると全員が上手くできている。特に『魔力操作』の練習を始めたばかりの清音ちゃんが他の女子と同等にできているのは驚くばかりだ。この子は本当に魔法の天才かもしれない。
「皆出来てるみたいだから一旦解除。次に小冊子の……ええと、4ページを開いて」
『魔法授与の儀式』でもらった冊子『魔法の基礎を学ぶ 基礎魔法の魔法陣を覚えよう』には、本当に基本的な魔法の、その魔法陣が記載されている。4ページに載っているのは『灯火の魔法』だ。基本的な魔法なのでその魔法陣は非常に単純で、二重の円の中に星のような文様が入っているだけだ。
「そこにある魔法陣をまずはそのまま暗記すること。目をつぶって思い出せるくらいで大丈夫。覚えたら、さっきみたいに指先に魔力を集中して、その指先に覚えた魔法陣を思い浮かべるんだ。ちょっとやってみるから注目」
俺は指をたて、その先に魔法陣を想起する。魔力を扱える皆ならその魔法陣が幻視できるはずだ。
魔法陣に魔力が満たされ、指先に火が灯る。ろうそくかライターくらいの火だ。
「見えたか? たったこれだけだ。コツは魔法陣を思い浮かべたら、そこに魔力を流し込むようにイメージすること。中心からじわじわと、周りに広がるような感じだな。力む必要はない、というか変に力むと逆に魔力が広がらないから注意な」
それだけ言って、後は自由に挑戦させる。
個人差はあるが、皆魔法陣の想起まではすぐにできるようになった。あとは魔力をそこに流し込む感じをつかむことだ。
「あっ、できましたお兄ちゃん!」
まさかというか、やはりというか、清音ちゃんが圧倒的に早く成功した。というか一発で成功したっぽい。これはヤバいな。勇者パーティの賢者を超える逸材かもしれない。
「おめでとう清音ちゃん。多分リーララなんか目じゃない魔法使いになれるぞ」
「本当ですか!? 私頑張ります!」
「それくらいわたしも簡単にできたし~。清音もまずはこれくらいできるようになってよね」
なぜか張り合って、五本の指全部に火を灯すリーララ。この歳で並列想起もできるとは、確かにリーララも天才的かもしれない。
その後少しして三留間さんが成功、さらにしばらくして双党や絢斗など次々に成功していった。最後になったのは宇佐さんだが、実は魔法は子どものほうが身につきやすいので仕方がないところもある。
「これはすごいね。物理法則とか完全に無視していきなり現象が起こるなんて、こんなの使えるなんて知られたらちょっと怖いかもしれない」
と言ったのは絢斗だが、いきなり現実的なことを考えるのは彼女らしい。青奥寺すら目を輝かせて無邪気に喜んでいるのだが。
「じゃあ冊子にある、残りの魔法についても全部身につけよう。それができたら、一番基本の『ロックボルト』、石っころを飛ばす魔法を教えて今日は終わりにする」
と言ったのだが、結局せがまれて『ファイアボルト』や『ウォーターランス』、『ウインドカッター』など4属性の基本魔法を全部教えることになってしまった。
さすがに清音ちゃんに攻撃魔法を教えるのはどうかと思ったが……まあリーララはもっと上のを使えるし、最悪リーララに手綱を握っててもらうのもいいだろう。その辺りは信用できそうだからな。