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30章 異世界修学旅行その3  06

「まさか『赤の牙』に会うとは思わなかったな。ということはここが『魔人衆』の本拠地で確定か」


「貴殿に隠しても仕方なかろうから答えるが、たしかにその通りだ。しかしここは転移門を通らなければ来られぬ土地のはず。どうやって来たのだろうか」


『赤の牙』のリーダーであるイケメン剣士……名はランサスだったか……は肩の力を抜きながら言った。争うつもりはない、ということだろう。


「こっちも色々と秘密兵器を持っているんだ」


「そうか……。しかしなぜ美しい女性たちを大勢連れてきているのだろうか。ほとんどがかなりの手練れのようだが、討伐部隊ということか」


「いや、基本的には観光だよ」


 俺の答えにランサスがなんとも言えない難しい表情をしていると、ルカラスが割り込んできた。


「おいハシル、こやつらと知り合いか? なかなか強そうな連中だが」


「ああ、『魔人衆』の精鋭みたいだ。一度やりあってて俺が命を助けてる感じだから、こいつらに敵対する意思はないはずだ。そうだろ?」


「ああ、貴殿には借りがある。その上敵対しても万に一つも勝ち目はない。ただ我らとしても、このまま通すわけにもいかないのだが」


「ランサス、ここはもう全滅覚悟で突っ込むしかなくねえ? どっちにしろオレたちに行く先はないぜ?」


 そう投げやりに言ったのは獣人少年のレグサだ。ランサスは動き出そうとするレグサを「(はや)るな」と言って抑え、俺の方に向き直った。


「ところで貴殿はこんなところまで何の用で来たのだろうか?」


「お前達のボス、『導師』とやらに用があって来た」


「『導師』を捕らえに来たということか」


「いや、その『導師』が俺の知っている奴なら、悪いが滅んでもらう」


「ずいぶん乱暴だな。『導師』がどのような方か知っているのか?」


「世界を自分の色に染めて支配しようとしてる奴だってのは知ってるさ。しかもその過程で今ある文明を破壊する奴だってのも知ってる」


「破壊というのは言い過ぎだとは思うが、おおむね合っている気がするな。しかしそれを聞いたら、なおさらそのまま通すわけにもいかないな」


 ランサスの顔は苦渋に満ちていた。レグサはじっとこっちを睨んだままで、細身の女、ロウナはつまらなそうな顔、鬼人族の大男ドルガは無表情に近いが、微妙に沈痛な面持ちにも見える。


「お前達はあれか、『導師』がこの閉塞した時代を変えてくれるとか思って仕えてる感じか?」


「各自色々とあるが、そのような感じに近い。ただそう軽く言われるとあまりいい気はしないが」


「悪いな、お前達の考えが間違ってるとか言いたいわけじゃない。ただその『導師』とやらに頼るのだけはやめた方がいい。あれは結局、最後にはすべての破局しかもたらさない存在だ。確かに新しい時代は来るかもしれないが、それは間違いなくお前たちが望んだ世界にはならない」


「なぜそんなことが言える?」


「俺は過去にその『導師』とやらと戦ったことがあるからだ。『導師』が大陸の半分を支配下においた世界でな」


 ランサスが目を細め、眉を寄せて難しい顔をする。俺の言葉がどのような意味をもつのか吟味をしていると言ったところだろう。レグサとロウナは考えるのを放棄して、ランサスをじっと見ている。


「……結局貴殿は『導師』が何者だと言いたいのだ?」


「『魔王』ってやつだ。聞いたことはあるよな?」


『魔王』という言葉に、4人ともが苦い顔をする。


 ただそれが信じられないという話以前に、恐らく『魔王』そのもののことをよく知らなくて判断に困るという感じかもしれない。この世界、すでに『魔王』と『勇者』の話は、一般人レベルではおとぎ話にすらなってるか怪しいらしいからな。


 30秒ほど経ってから、ランサスはようやく口を開いた。


「……すまない。貴殿の話は我々には理解が及ばない。『魔王』という存在は知らない訳ではないが、そもそもそれは1500年以上も昔の話のはずだ」


「俺はその1500年前の『魔王』と戦った『勇者』なんだ。前から言っていたと思うが」


「それを本気で信じろと……。いや、貴殿の力を考えれば信じざるを得ないのか……」


「ランサスさぁ、多分いくら考えても俺たちの選択肢としては『導師』を裏切って退くか、この『勇者』と戦って死ぬかしかねえんじゃないのか」


 レグサは考えるのをやめたようだ。


 ランサスはその投げやりにも思える言葉に、首を横に振った。


「彼には一度協力することを約束した。彼と戦う選択肢はない」


「だったら退くか? 正直こいつがここに来た以上もうこの場所は終わりだ。さすがにオレも犬死は御免だぜ」


「もし『導師』がここにいるなら俺が引導を渡す。お前らがここで裏切ってもお前たちを追及する者はいない。ただまあどうしても退く理由が欲しいなら……ルカラス、ちょっと相手してやってもらってもいいか?」


 急に話を振られて、ルカラスは少し驚いたような顔で俺の隣に来た。


「なんだハシル、意味がわからんぞ」


「いやこいつらも俺と『導師』とやらの間で板挟みなんだよ。だから第3者のお前がボコって言うこと聞かせたってことにしといてくれ」


「まったく人間は面倒なことだな。とはいえそのような忠義の話は嫌いではない。死なさぬ程度に叩き出してやるわ」


「頼む。こいつらは結構強い。お前にしか頼めない」


 というと、ルカラスは勝ち誇ったような顔をして胸を反らした。


「そうだろうそうだろう。やはりハシルの一番のつがいは我よ。まあここは我に任せて先に行け」


「悪いな。というわけでお前達の相手はこのルカラスがやる。まあどうあがいても勝てる相手じゃないからせいぜい胸を借りとけ」


「よし小童ども、少し遊んでやろう。伝説の古代竜と戦える栄誉に涙せよ」


 そう言うと、ルカラスは角と翼と尻尾を出して龍要素を見せた。白銀の少女から吹き出す圧倒的な魔力に、『赤の牙』の4人の顔が一瞬で真っ青になる。どんまい。


「ほら、そこをどけ。ハシルが入れぬであろうが」


 ルカラスが背中の羽をひと羽ばたきさせると、とんでもない突風が起こって『赤の牙』4人を吹き飛ばした。建物もかなりグラッと来たが、辛うじて耐えたようだ。


『赤の牙』の4人はさすがに各々体勢を立て直して着地をしたが、その時にはもうルカラスはそちらに移動をしていて、間髪入れずに1対4の戦いが始まる。


「よし、じゃあ入るぞ」


「……先生、そんな雑なやり方でいいんですか? あの人たちかなり真面目に考えてたと思うんですけど」


「青奥寺の言うことも分かるけど、真面目な奴に真面目に返しても解決しないことはあるからな。だったら『勇者』が道化になるだけさ」


「言ってることはかっこいいんですけど、実際やってることはなんていうか……まあ先生らしいと言えばらしいですね」


 どうも青奥寺には微妙な評価をもらったようだが、『勇者』なんてそんなものである。むしろ全面的に理解できますなんて人間がいたら、そちらを疑ってしまう位の常識は俺にもある。


 それはともかく今は目の前の建物だ。俺は扉を開けて、その中に入って行った。


 最後尾のカーミラが入口をくぐると同時に建物の外で莫大な魔力のほとばしりが感じられ、全員が一瞬ビクッとなったが……ルカラスってあの姿でもブレスを吐けるんだな。

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― 新着の感想 ―
[一言] そんなに何回も弱い者いじめみたいな真似やってられないよね…
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