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30章 異世界修学旅行その3  05

 30分後、『ウロボロス』は大陸南西端の半島の上空にいた。


 半島そのものは日本の房総半島くらいの大きさで、モニターに映っている半島は全体がうっすらと霧に覆われている。その霧の下は、かすかに見える限りでは大部分が草木一本生えてない不毛の大地のようだ。


 半島の真ん中には山脈が通っているが、その山も完全にはげ山で、なんとも寒々しい見た目である。


 しかもズームアップをすると、所々動いている影が見えてくる。もちろんゾンビやスケルトンといったモンスターたちで、獣型のものもいれば、中にはドラゴンゾンビなんて大物までいる。普通に考えて誰もここに来ようとは思わないだろう。


「『ウロボロス』、毒とかは漂ってなさそうか?」


『身体に害を及ぼすレベルの有害物質は検出されていません~。ただしあのゾンビというのはちょっと有害な感じはしまっす』


「腐った死体だからなあ。そこは魔法で何とかする」


 少し待っていると、メンバーがぞろぞろと『統合指揮所』に入ってきた。


 九神と三留間さんと清音ちゃん以外はそれぞれの武器を手にしている。


 全員が揃ったところでモニターを見てもらい、心の準備をしてもらう。


「うわ~、ホントにゾンビとかいるんだけど」


 と嫌な顔をするのはリーララだ。さすがにあのレオタードみたいな魔法少女服にはなっていないが、弓型魔道具の『アルアリア』を手に持っている。


「見た目はグロいが所詮モンスターだ。倒せば消えるから大丈夫。さて、じゃあ行くぞ。『ウロボロス』、転送してくれ」


『いってらっしゃいませ~』


 という声と共に光に包まれると、周りの景色が一瞬で変化する。


 モニターで見た通り、草一本生えていない荒野のど真ん中だ。周囲は薄く霧に囲まれ、遠くの景色はまるで見えないどころか、昼間なのに薄暗く感じるほどだ。


 なるほどいかにもアンデッドが好きそうなロケーションだな。


「先生、何かが近寄ってきます」


 青奥寺の言葉通り、霧の向こうから人影のようなものが次々と湧き出してくる。


「ウゥ~」とか唸っているのはゾンビで、カシャカシャと足音を立てているのはスケルトンだ。見る間に50体くらいが集まってくる。


「ちょっと青奥寺たちは戦ってみてくれ。ゾンビは新良と双党、それとリーララの射撃で片づけてやれ。臭いし病原菌とかも持ってるからな」


「わかりました」「了解です~」「メンドクサイなあ」


 などと返事が聞こえ、各自散開してアンデッド退治に向かう。アンデッドとはいえ魔力が使えれば何の問題もなく討伐できる。


 連れてきたアンドロイド兵は、魔導銃と盾を構えて三留間さんや清音ちゃんたち非戦闘員を守っている。各種センサーを備え、集中力を切らさないアンドロイドはSPとして有能だ。


 アンデッドは次々と湧き出すように霧の中から現れてくるが、スケルトンは青奥寺や絢斗、雨乃嬢らの接近戦組があっという間に片付け、腐汁を垂らしているゾンビは新良らの射撃組が次々と燃やしたり吹き飛ばしたりする。


 俺はその隙に、三留間さんを呼んだ。


「三留間さんに、アンデッド退治の力の使い方を教えてあげよう」


「は、はい。怖いですけど頑張ります」


 少し不安そうな顔の三留間さんだが、『聖女さん』ならむしろ対アンデッド最強になるはずだ。


「じゃあ魔力を手のひらに集中させて、『治癒』の力をそれに乗せて……」


 と指導をすると、三留間さんはすぐに対アンデッドスキル『昇天(ターンアンデッド)』を身につけた。本来なら魔法なのだが、彼女は『治癒』をスキルで持っているのでスキル扱いになる。もちろん魔法より強力になるはずだ。


「ちょうどあっちから現れたから使ってみようか」


「は、はい」


 30体ほどのゾンビスケルトン混成軍が出現したので、三留間さんにそちらを向かせる。ちょっと震えてるので肩に手をおいて落ち着かせてあげると、三留間さんは息を吐いて「いきます」と言った。


 右の手のひらをかざし、魔力とともに『治癒』の力を込める……と、不意に三留間さんの手のひらから強い光が発せられ、アンデッドの一団を包み込んだ。


 その光は1、2秒で消えたが、その時にはアンデッドは影も形もなくなっていた。


「消えた……? 先生、今ので成功……ですよね?」


「もちろん。さすが三留間さんだね。今すぐ対アンデッドのスペシャリストになれるよ」


「そ、そうですか。嬉しいですけど、あまりやりたくはありません、ね」


「でもとねりちゃんすごいよ! 今度除霊とかお願いしてもいい?」


 双党が意味不明の絡み方をして困らせているが、どうやら周囲のアンデッドは一応全滅したようだ。


「よし、じゃあ反応のあったところまで行ってみるか」


 俺はリストバンド経由で『ウロボロス』に進行方向の指示を仰ぎ、そちらに向かって歩き始めた。




 一応慎重を期して、反応があった地点から1キロほど離れた場所に転移をしていた。


 なのでうっすら霧に覆われた荒れ地を1キロ歩くことになるわけだが、どこからともなく現れるアンデッドを潰しながらの行軍になった。


 一匹は特Ⅰ型相当の『ドラゴンゾンビ』も現れたのだが、新良や双党の魔法銃射撃と、青奥寺、絢斗、雨乃嬢の接近攻撃のコンビネーションの前に、腐敗ブレスを吐く前に討伐されてしまった。


 勇者パーティにはまだ届かないが、Aクラス冒険者レベルの強さは間違いなくありそうで、一応指導者である俺としても鼻が高い。


 さて、反応地点に近づいていくと、霧の向こうにぼんやりと建造物が見えてきた。


 それは平屋の一軒家くらいの大きさの四角い建物だった。白い壁のせいで、霧に紛れるようにしてポツンと建っている。


「ハシルよ、あれは魔王城にしては小さすぎではないか?」


 ルカラスが隣に来て、前かがみになって建物を眺める。


「隠れているつもりなんだろうから、デカい城なんか建てないだろ。多分あの建物はただの入口なんじゃないか?」


「入口? なるほどのう、言われてみれば地下になにか魔力のようなものを感じる気がするぞ」


「当たりだな。問題はすんなり入れるかどうかだが……」


 と言っていたら、その建物の正面にあった扉が開き、4人の人間が出てきた。


 一人は金髪イケメンの剣士、一人は獣人の少年、一人は細身の女、一人はドレッドヘアの鬼人族の大男だ。


 獣人少年を見て絢斗が前に出てこようとするが、俺は片手でそれを制した。


「誰が来たのかと思えば……貴殿だったか」


 俺の顔を見るなり、金髪イケメン剣士が溜息をつくようにそう言った。


 ずいぶん懐かしい面子だ。『赤の牙』とは、獣人少年レグサ以外は『クリムゾントワイライト』日本支部襲撃以来の対面だな。

【お知らせ】

 以前にもお知らせしましたが、当小説「勇者先生」が「異世界帰りの勇者先生の無双譚 1 ~教え子たちが化物や宇宙人や謎の組織と戦ってる件~」と改題し、『オーバーラップ文庫』様から出版になります。

 発売日は9月25日(水)です。

 どうかよろしくお願いいたします。


 あわせて、すでに完結している「月並みな人生を~」も、「月並みな人生を歩んでいたおっさん、異世界へ ~二度目の人生も普通でいいのに才能がそれを許さない件~」とタイトルを変えて『電撃の新文芸』様から出版されております。

 2巻も予定しているはず(?)ですので、こちらもどうぞよろしくお願いいたします。

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