29章 異世界修学旅行その2 07
その後倒れている衛兵や将官たちをできる限り回復してやった。ガイゼルたちはこの部屋に着くまでにも何人かは害していたようで、将官たちの中にも残念ながら手遅れのものはいた。
ガイゼルをとらえる時に奴が使っていた二刀のナイフを取り上げたが、案の定呪いの武器だった。斬られただけで死に至る呪いを受けるヤバめのもので、俺のコレクション行きにさせてもらった。なおカーミラもその呪いを受けていたので、『解呪』魔法で呪いを落としてやった。
「ありがとうねぇ。先生には借りばっかり増えて困っちゃうわぁ」
場所をわきまえずしなだれかかってくるカーミラだが、微かに震えているので邪険にするのはやめておいた。肩を抱いて落ち着かせてやると、肩に頭を載せてくる。
「うふふっ、こんなに優しくされたらますます先生から離れられなくなっちゃうわねぇ」
「今日は特別だ。お前も戦っていたからな」
「戦う人間には優しいってことねぇ。先生のそばにいるのは結構大変そう」
などと部屋の端でやっていると、女王陛下がやってきて礼をした。
「勇者様には色々とお助けいただき、もはや王家としても礼のしようがございません」
その美しい顔にはかなりの疲れが見える。まあオーバーフローの対処から侯爵軍への対応、そして今の暗殺未遂と、普通の人間なら心労でぶっ倒れてもおかしくはないストレスだ。
「私に対する礼は落ち着いてからで結構です。それより戦況はどうなっているのでしょうか?」
「今確認をしたところ、侯爵軍は撤退を始めたようです。これもすべて勇者様のご助力によるものです。本当にこの度は、勇者様のお力がなければ、この国はどうなっていたか……考えただけでも身が震える思いがいたします」
「私は手伝っただけに過ぎませんから。しかしこれからが大変ですね。侯爵が負けたことを認めて素直に従ってくれればいいんですが、きっとそうはならないでしょう」
俺の指摘は女王陛下には痛いところだったようで、さらに表情に疲れが増してしまったようだ。
さすがに見ていられないので、俺は彼女の胸の前に手をかざして『回復』魔法をかけた。
「……これは、回復の魔法……ですか? しかし疲れまで取れるというのは……」
「ふふっ、ラミーエル、勇者様は私たちの常識で考えない方がいいわよぉ」
「本当にそうね。今回のオーバーフローについても、半分以上は勇者様が平らげたと聞いているし……」
「あんなのは勇者様の力のほんの一端でしかないからねぇ。本気を出せば侯爵領ごと吹き飛ばせる力があるみたいだし。ねぇ、先生?」
「そういうのは女王陛下が不安になるからやめろって」
「うふふっ。まあいいじゃないのぉ。もう今知られてる力だけで十分勝てないって分かるから大丈夫よぉ」
カーミラは無責任にそんなことを言うが、女王陛下の愛想笑いはやっぱりどこか引きつっているようにも見える。
正直国一つを余裕で滅ぼせる個人なんて存在、為政者にとっては恐怖以外の何物でもないからな。勇者をやっていてある時から俺もそれを自覚するようになったが、あの時はまだ勇者と伍する『魔王』がいたからまだよかったのだと今さらながらに思う。
「ところで先ほどとらえた暗殺者たちは『魔人衆』の手下なんですが、『魔人衆』がこういう手段に出てくることはよくあるんでしょうか?」
俺が話題を変えて質問をすると、女王陛下は首を横に振った。
「いえ、ここまで直接的な動きに出てくるのは初めてですね。こちらが探りを入れると、それに対して反撃をしてくることはありましたが、向こうから積極的に仕掛けてくるというのは聞いたことがありません」
「そうすると、『魔人衆』にとって『魔導廃棄物』の排出を抑える技術というのは相当に都合が悪いということでしょうね。今後も警戒が必要でしょう」
「そういたします。それと例の技術はすぐに広めてしまいます。『魔人衆』が手出ししても無駄ということになれば余計なことはしなくなるでしょう」
なるほど強引な手ではあるが、それが一番確実な気がするな。
もしカーミラが言うように、『魔人衆』が『魔導廃棄物』を増そうとしているのなら、今後も何らかの動きがあるだろう。
まあ今回は、その『魔人衆』の首魁である『導師』とやらには会いに行くことはほぼ確定だ。そこで解決できるなら解決すればいいだろう。
ただその前に、もう一度会っておかないといけない奴もいる。異世界といったら真っ先に見たいものナンバー1だろうあいつのところに、青奥寺たちを連れて行かないとな。
【お知らせ】
活動報告でもお知らせをいたしましたが、本作「勇者先生」の書籍版が『9月25日(水)』に発売となります。
「異世界帰りの勇者先生の無双譚 1 ~教え子たちが化物や宇宙人や謎の組織と戦ってる件~」と改題し、オーバーラップ文庫様にての出版になります。
竹花ノート様によるキャラクタービジュアルも素晴らしく、またWeb版に比べて改稿をして完成度を高めておりますので、ぜひ手に取っていただければと思います。
よろしくお願いいたします。