29章 異世界修学旅行その2 05
『大型のソリッドランチャー弾のようなものを乗せた車両が動き始めていまっす。発射準備をしているようでっす』
「お手並み拝見って感じか」
攻城兵器であろうと思われるトレーラー。その荷台にあるミサイルが、斜め上に持ち上がりはじめた。
そして数分の後、まず5発のミサイルが一斉に宙へと飛び立った。不思議なのは航空機と違って、ジェット噴射みたいなものを出していることだ。まあこちらのほうが俺たちの世界のミサイルに近いのだが。
ミサイルは弧を描くようにして王都へと飛んで行き、そして防御魔法のドームに次々と着弾した。
強烈な青白い光が連続で炸裂し、防御魔法ドームの表面が激しく波打つ。
その激しい衝撃は、ミサイルが着弾した後30秒ほど続いた。広範囲に破壊を振りまく兵器ではなく、一点に連続で負荷をかけるような兵器のようだ。間違いなく防御魔法を破るためだけの兵器だろう。
見ると王都の城壁のあちこちから、白煙がいくつも立ち上っている。防御魔法を発生させる魔導具がオーバーヒートしたとかそんな感じに見える。見れば防御魔法の半透明なドームの色がかなり薄くなっているのが分かる。
さらに第二波の5発が撃ち込まれると、遂に防御魔法ドームは完全に色を失って消えていった。
「先生、これってやっぱりクーデターが起きてるってことですかっ?」
モニターを食い入るように見ていた双党が、俺の方を振り返る。
青奥寺や新良たちも俺の方を見てくるが、清音ちゃんは「クーデター」そのものが分かっていないような表情だ。
「そういうことみたいだな。侯爵はいわゆる王位簒奪を目論んでいたようだ」
「大義名分みたいなものはあるんですよね、たぶん」
「ちらっとは聞いたが、魔道具製造の規制をめぐって王家と対立しているみたいだ。侯爵領は魔道具製造を主要産業にしていて、規制をかけようとする王家と対立しているらしい」
「なるほど~。でも先生の話だと、その魔道具を作り過ぎたからモンスターが現れたりダンジョンができたりしてるんですよね? それって侯爵としては無視なんですか?」
「それがむしろ侯爵はダンジョンを復活させたいと考えているらしいぞ。ダンジョンができるとお宝が手に入るようになるからな」
「ああ、昨日の魔導銃みたいなやつですね。ダンジョンができると宝が取れるっていうのは謎すぎますけど、それが目的というのはわからなくはないですね」
「そこだけ考えればな。ただデメリットの方が大きいとは思うんだけどな」
侯爵は魔道具にこだわりがあるようだから、ダンジョン産の魔道具を手に入れて量産しようとか考えているのかもしれないが、背後に『魔人衆=魔王』がいるとなるとキナ臭さが一気に出てくるんだよな。なにしろダンジョンとかモンスターとか、そういうのは魔王の力になる要素でもあるからだ。
むしろ『魔導廃棄物』を増やすために『魔人衆=魔王』が侯爵をバックアップする、そう考えるとつじつまがガッチリ合うまである。
さて問題は、王都の防御魔法が消失して、ついに始まった王家軍と侯爵軍の戦いである。
侯爵軍が全軍で前進をはじめ、王都側がそれをとどめようとする形だ。城壁の上にも多数の砲台があり、そこからも魔法の射撃が始まっている。やはり守る側が有利ではあるようだが、王都側は直前までモンスターを相手にしていたせいで、現状兵力を分散させてしまっているのが痛い。
「なんで航空戦力を使わないんでしょう?」
モニターを見ながら双党が首をひねる。近代戦には疎い俺もそれはちょっと不思議に思っていたところだ。
『戦場全域になんらかの力場が発生していまっす。先ほどまでは存在しなかったので、それが関係しているのかもしれませんね~』
「航空機の動作を妨害する力場ってこと?」
『可能性はあると思いまっす』
なるほど、もしこちらの世界の航空機が『機動』魔法を使った技術で飛んでいるなら、それを妨害する魔法があってもおかしくはない。航空戦力があまり発達していないのも、城壁なんてものが現役なのも、そしてさっきのミサイルがジェット噴射だったのもそれが理由なのかもしれないな。
さて眼下の戦場だが、どうやら王家軍の動きが思ったよりも早い。それまで別方面を守っていた部隊が、相当なスピードで侯爵軍を左右から包囲するように動いている。
やはり侯爵のクーデターは当然予想済みで、初めから対処は考えていたようだ。侯爵軍としては、モンスターのオーバーフローでもっと王家軍が疲弊していることを想定していたのだろうが、アテが外れた形である。
王家軍が半包囲網を敷き始めると、戦況は目に見えて王家軍に傾いていく。魔法の激しい十字砲火を受けて、侯爵軍の進行は目に見えて鈍っている。正直この様子は、女子にはズームアップしては見せられないな。よく見ると、一部映像にリアルタイムで修正が入っているのは『ウロボちゃん』の配慮だろうか。
俺が艦長席で眺めていると、リストバンド端末にカーミラからの通信が入った。
『先生、お城の中がちょっと旗色悪いのよぉ。助けてほしいわぁ』
「すぐ行く。ウロボロス、カーミラの近くに転送を頼む」
『了解でっす』
言葉遣いこそ普段通りだったが、カーミラの声にはいつになく緊張感があった。あれでも今回来ているメンバーの中では戦闘力は俺に次いで二番目に高い。そのカーミラが助けを求めるとなると、ちょっと面倒なのが忍び込んできたのだろうな。