29章 異世界修学旅行その2 04
『艦長、Aランクモンスターが王都に近づいてまっす。特に空を飛ぶ『トライヘッド』は危険かもしれません~』
おっとマズいな。モニターを見ると、ほぼ怪獣な『三つ首竜』が空を飛びながら城壁に迫る所だった。
その巨体にはダメージを受けている箇所がいくつかあるので、恐らくは航空機による攻撃を受けたのだろう。それでも飛行能力を失わずにいられるのだからやはりAランクモンスターの危険度は計り知れない。
「ちょっとマズいな。『ウロボロス』、砲撃できるか?」
『レールガンいけまっす』
「止めをさしてやれ」
『了解でっす。レールガン発射~』
別モニターの表示されたレールガンの砲塔が振動すると同時に、『三つ首竜』の巨体に超高速の弾頭が着弾。物理耐性のおかげで10発ほどは耐えていたが、さらに連続で極大エネルギー弾の攻撃を受けるとそれも限度が訪れる。さらに20発ほどの砲撃を受けて、『三つ首竜』の巨体はバラバラになって消えていった。
「うわ~、あんな強そうなモンスターでも『ウロボロス』の艦砲射撃の前には無力なんですねっ」
双党が目を輝かせてモニターを食い入るようにみつめている。
『あのモンスターが通常の生物であれば、3発以内で倒せたはずなんでっす。やはり謎の力場が観測されてますね~』
「先生、それってどういうことですか?」
「簡単に言えば、あいつらは『物理攻撃耐性』っていう能力を持ってて、魔法的な力で表面を覆ってるんだ。どんなモンスターも基本的にはそういう能力があって、だから魔力をもった武器じゃないと効果的なダメージが与えられない」
「あ~、『深淵獣』に普通の武器が通じにくいのと同じ現象ですね。その強力版ってことですか」
「そういうこと。しかしそれを貫通するんだから『ウロボロス』の兵装は強力だな」
さて、そんな話をしているうちにも戦況は変化している。
押し寄せてくるモンスターの大群は、今のところ陸軍がよくおしとどめている。戦車や装甲車、設置型の大砲などから絶え間なく魔法が発射され、近づく前にモンスターたちを粉砕する。モンスター側からも火球のブレスなどが飛ぶこともあるが、基本的に遠距離戦は圧倒的に近代的な軍隊のほうが上らしい。
もっとも、それでも俺が間引いてなかったら戦線は遠からず崩壊していただろう。そして侯爵軍がいいところで救援に来る感じになっていたはずだ。
「侯爵軍はどこまで来てる?」
『王都の南東7キロまで来ていまっす』
「ふむ……」
もう少し様子見か……というところでリストバンド端末に着信が入った。カーミラからだ。
『先生、ちょっといいかしらぁ』
「なんだ?」
『さっきいきなりドラゴンがバラバラになったのって、先生がやったってことでいいのよねぇ?』
「ああそうだ。なにか問題があったか?」
『現場がちょっと混乱しちゃったみたいでねぇ。ラミーエルが確認してくれって言ってるのよ』
「ああそうか。まあ正直俺の方で半分くらいは間引いてるからな。デカいのも本当なら8体いたし」
『やっぱりそうよねえ。王都内の騒ぎも一瞬で収まっちゃったし、現場じゃ謎の幽霊部隊が出現したってやっぱり騒ぎになってるみたいよ。そっちは一応王家の秘密部隊ってことで強引に通したみたいだけどぉ』
「事前にそういう話になってるから大丈夫だ。それよりまだ城に侵入者とかはいないな?」
『ええ。ラミーエルに言って、技術官とかの例の技術の関係者はがっちり護衛をつけてもらったわぁ』
「ちなみに侯爵の方からは女王陛下にどんな連絡が行ってるんだ?」
『ちらっと聞いたところだと、王都に軍を駐留させて欲しいみたいな話まで来てるみたいよぉ。ただもう終わりそうだし、軍の被害も少なかったからラミーエルは断ったみたいなんだけどねえ。まだ軍が近づいているっていうので、そっちも怖いって話になってるわねぇ』
「救援を騙って王都を占領なんて昔からよくあるクーデターのパターンだからな。というか明かに今回の騒ぎはそっちがメインだろ」
『そこはラミーエルも分かってるみたいだけどねぇ。王都が戦場になるのはちょっと困るわぁ』
「そこは女王陛下にも手は出さないでくれと言われてるから、こっちはしばらく見物してるわ。ただ暗殺関係はちょっと怖いな。もし『魔人衆』が相手なら俺も出るぞ」
『あら、いいのぉ?』
「そこはさすがにな。『魔人衆』の裏に魔王がいるとなったら俺としても黙ってるわけにはいかないんでね」
『ふふっ、先生がやる気になってくれて嬉しいわぁ』
さて、そんなことを話していると、王都防衛戦も大詰めを迎えたようだ。ザコが最後の大きな波を迎え、さらにAランクモンスターの『クラーケン』『一つ目巨人』『巨大ミミズ』が王都から3キロの場所まで迫った。
空軍の攻撃機が再度飛び立って、まずは『クラーケン』に集中攻撃を加える。攻撃機から射出される無数の炎の槍を受けて、『クラーケン』は巨体を四散させた。
『艦長、侯爵軍が戦闘を開始しました~。モンスターを後方から攻撃しているみたいでっす』
『ウロボちゃん』の報告の通り、南東から進撃してきた侯爵軍が後方から攻撃を始めていた。戦車を中心にした機甲部隊のようで、主砲からの射撃であっという間にモンスターの包囲網に穴を開ける。
普通に考えれば心強い援軍なのだが、後方には大型のミサイルみたいなものを積んだ、大型のトレーラーが10台以上見える。一見するとAランクモンスター用の兵器にも見えるが、勇者の勘だと、あれは現代の攻城兵器だ。そういう胡散臭さがある。
『一つ目巨人』が攻撃機によって穴だらけにされて倒れた。『巨大ミミズ』は戦車砲の集中砲火を浴びて身もだえしている。こちらもじきに沈黙するだろう。Aランク――特Ⅱ型を倒せるのだから、魔法兵器で武装した現代の軍隊はやはり強力だな。
最後のザコラッシュも波を超えたようだ。王都のオーバーフローからの防衛はほぼ達せられた感がある。
だが残念ながらここからが本番だ。侯爵軍は依然として進撃を続けている。
王都の軍はまだモンスターの対応に当たっていて、そちらに戦力を集める余裕はない。
恐らく今、女王陛下側と侯爵側で色々とやりとりが行われているはずだ。まあ聞かなくても分かる。
『王都は援軍の必要なし。これ以上接近すれば敵対行動とみなす』
『モンスターの再発生に備えて我々も防衛を行う。軍を王都へ受け入れよ』
とかやってるはずだ。このあたりは昔から同じだからな。
そして進軍をやめない侯爵軍はどうするかというと――
『侯爵軍が王都の軍に対して攻撃を始めたようでっす』
ということになる。
さて王都側は大混乱、というほどでもなく、反撃を行いつつ撤退を始めたようだ。そもそもモンスターと戦ってきていて、気力も体力も弾薬……こっちだと魔力か、それもかなり消耗をしている。しかも全軍が王都の周囲に分散しているのも痛い。マトモにやりあったら勝てるはずもない。
王都の軍が城壁に近づくと、その軍ごと包み込むように、王都全体に薄い透明な半球状のドームが出現した。都市を包み込むクラスの大規模防御魔法である。
俺が召喚された時代にもなくはなかったが、さすがに都市を包み込むレベルのものはなかった。そもそも魔力の消費量が多すぎて、ここまで大規模なものは技術的に不可能だった。やはり技術の進歩は大切である。
侯爵軍の戦車から放たれる炎の槍は、防御魔法のヴェールにすべて阻まれる。
『都市を包み込む力場を確認。この大きさのものは銀河連邦のラムダ技術でも再現は難しいですね~。どれくらいの効果があるのか検証が必要そうでっす』
「基本的に魔力が続く限り物理的な攻撃はほぼ防ぐぞ。魔法も大半は減衰させて無力化する」
『それは銀河連邦のシールドより強力ですね~。艦長の使う謎の力場と同等ですか~?』
「いや、防御力だけなら俺の魔法の方が強い。ただ効果範囲はな。こっちは城壁に沿って魔道具を設置したりしてるから、さすがにそれには敵わない」
さて、問題は王都の防御魔法も、恐らく1日くらいしかもたないというところだ。もちろん1日耐えれば王家派貴族の援軍が来るので、侯爵軍を退けることはできるだろう。
もちろん侯爵もそれは織り込み済みで用意をしてきているはずだ。そう、さっき見えた大型ミサイルみたいな攻城兵器がそれだ。