29章 異世界修学旅行その2 03
荒野を走る幹線道路、俺は今その上空にいる。
眼下には数百のモンスターの群れがうごめいている。その行く先には街があり、あと10分くらいで先頭のモンスターがたどりつきそうだ。
「悪いが消えてもらうぞ」
俺は『並列思考』スキルを全開にして『ライトアロー』の魔法陣を多重想起。百を超える場所から光の矢が連続で射出され、正確な狙撃によって地上のモンスターを貫いていく。全滅までは30秒もかからない。昔これができたらもっと楽ができたのになあ。
「『ウロボロス』、次だ」
『了解でっす』
そんな感じで5カ所を回ると、とりあえず王都以外への被害は阻止できた。
5カ所めの畑の上空で王都方面を見ると、『一つ目巨人』の後姿が遠くに見えた。俺はそちらに全力で飛行しながら、リストバンド端末で『ウロボロス』に連絡をとる。
「アンドロイド兵の方はどうだ?」
「王都内部の『オーバーフロー』対応部隊はほぼ作戦完了していまっす。街の防衛に回したほうはまだ戦闘中ですが、あと10分ほどでこちらも作戦完了になる予定でっす。今のところアンドロイド兵16体がモンスターの攻撃により行動不能になりました~。データのフィードバックは行っていまっす』
「壊れたアンドロイドも回収してくれな。持たせた武器もだぞ」
『了解でっす。王都内のオーバーフローは完全に終息しました。アンドロイド兵を回収しますね~』
「おう」
いきなり現れていきなり消える鎧戦士とか後で大変な騒ぎにはなりそうだが、人命に被害が出るよりはいいだろう。女王陛下は後の説明が大変だろうが、それも今回の防衛戦が終わってからだ。
「ババレント侯爵領の軍の動きはあるか?」
『カーミラさんからの連絡で、王室に侯爵から救援を送るという連絡が入ったそうでっす。女王陛下はそれを承諾、ババレント侯爵軍陸軍はすでに王都方面に移動を始めてまっす』
「救援ね。侯爵の空軍は?」
『第一陣15機が来て「ガイアイーター」に攻撃をしましたが、軽微なダメージを与えたのみで帰投しました~。その後第三陣まで出撃をしましたが、通常のモンスターを300体ほど掃討して帰投していまっす』
「『ガイアイーター』ってなんだ?」
『巨大なミミズ型のモンスターのことでっす。この国ではそう呼んでるみたいですね~』
「ああなるほど。まあ『巨大ミミズ』は魔法耐性高いから攻撃が効きづらいのは仕方ないんだが、基本的に侯爵軍はやる気なさそうだな」
『ですね~。王都側は継続して攻撃機が爆撃を行っていますが、モンスターが拡散しはじめたので効率が悪くなっているようですね~。こちらの世界の航空戦力はまだ貧弱なようでっす』
「周囲の別領地からの援軍は?」
『3カ所からのすでに陸軍が出動してまっす。ただ到着は夕方くらいになりそうですね。あ、王都周辺の陸軍がモンスターの先陣と戦闘に入りました~』
「始まったか。仕方ない、被害がでないように適当に間引いておくか」
眼下にのしのしと歩いていく、身長30メートルの巨人の背中が見えた。身に着けているのは腰ミノと棍棒だけで、他は青い肌をさらしている。マッチョ体型なので見映えは悪くないが、こんな奴が城壁に迫ってきたら恐怖でしかないだろうな。
俺は『空間魔法』から『魔剣ディアブラ』を引き抜いて、『機動』魔法に魔力をこめて、巨人の禿頭に向けて急降下する。
気配を感じたのか振り返る『一つ目巨人』。その一つ目が俺をとらえた時にはもう、俺は『ディアブラ』を一閃させていた。
巨大な首がズズズとズレてポロリと落ちる。一瞬の間をあけて直立していた巨体が、派手な音と地響きと共に崩れ落ちた。
う~ん、これはちょっと清音ちゃんや三留間さんには刺激が強すぎたかもしれない。誰かがフォローしてくれたことを期待しよう。
その後も俺は『機動』魔法で飛び回って、ザコモンスターを『ライトアロ―』掃射で間引いたり、二体ずついるAランクモンスターの『クラーケン』、『三つ首ドラゴン』、『巨大ミミズ』を一体ずつ倒して回ったりした。
とはいえあまり間引きすぎると、当事者である王都民たちに『魔導廃棄物』排出への危機感がなくなってしまう。それは巡り巡って結局はこの世界にいい結果をもたらさない。申しわけないが予定通り全部を勇者が対応するのはなしとさせてもらう。
とりあえずザコモンスターを3分の1くらいまで減らしたところで、俺はいったん『ウロボロス』へと戻った。
『統合指揮所』に転送された俺が艦長席へと戻ろうとすると、あろうことか双党が座っていた。
頭にチョップをくわえてどかし、代わりに俺が座る。
「席をあっためておいたんですよう。女子校生のお尻のぬくもりが先生を癒してくれると思うんですけど~」
頭をさすりながら唇をとがらせる双党に、俺はさらにチョップをくわえる。
「そんなんで癒されるか」
「でもでも、先生かなり大変そうでしたね。まあ見た感じは殺虫剤で虫を駆除してる感じでしたけど」
「正直自分でもちょっとおかしいとは思うけどな。『サイクロプス』とかはちょっとアレだったと思うんだが……」
と言いながら周囲に目を走らせると、キラキラした顔でこちらを見ている清音ちゃんと目があった。
清音ちゃんはパタパタと走ってきて、俺の腕を取ってくる。
「お兄ちゃんすごいです! あんなにたくさんのモンスターをあっという間に倒しちゃうなんて信じられません」
「あ、ああ。ありがとう。ちょっとショッキングなシーンもあったかもしれないけど、大丈夫だった?」
「ショッキングなシーンですか?」
可愛く首をかしげる清音ちゃん。その後ろからジト目のリーララが歩いてくる。
「おじさん先生さあ、少しは倒し方を考えてよね。さすがに人型モンスターをああいうふうに倒しちゃダメでしょ」
「まあそうなんだけど、でも結局倒すのは同じだからなあ」
「まったく。私が清音の目を塞いだからよかったけど、トラウマになっちゃうんだからやめてよね」
「そりゃすまん。そういえば三留間さんは平気だった?」
やはり近くに来ていた『聖女さん』こと三留間さんに声をかける。
見た感じは平気そうだが、あの場面は見てしまったのだろうか。
「あ、はい、その、私実は……ホラー映画とか好きな方なので……」
とちょっと頬を赤らめる三留間さん。別に恥ずかしがるところでもない気もするけど、女子にとっては大声では言えない趣味なのかもしれない。
「あ~、そういう耐性はある方なんだね」
「はい。ここから映像で見ているだけなので、なんか現実感もありませんし、意外と平気でした。死体もすぐに消えてしまいましたし」
「見た目は人型でもしょせんモンスターだからね。まあ『深淵獣』にも人型はいるから、三留間さんには慣れておいてもらわないといけないかもしれないか」
「そこは頑張ります。でも先生、あの光の矢みたいなのは魔法なんですよね? 私もあれを覚えられるんでしょうか?」
「少し練習をすれば覚えられるよ。使ってみたいかい?」
「ちょっと怖いですけど、でも使ってみたい気はします。先生のおかげで色々経験をさせてもらって、守られてるだけなのは嫌だなって感じるので……」
なるほど、『聖女さん』と言われるくらいに心の優しい子だとは思っていたけど、芯の強いところもしっかりとあるようだ。
まあ今回みたいなモンスターの大氾濫なんて見せられたら、少しでも力が欲しいと思ってしまうだろう。そうなると今回魔法の儀式を受けた子は全員魔法を覚えたがるかもしれないな。




