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勇者先生 ~教え子が化物や宇宙人や謎の組織と戦っている件~  作者: 次佐 駆人


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29章 異世界修学旅行その2  01

「え~、というわけで、これからこの王都は大変な騒ぎになります。皆さんはその騒ぎが収まるまでは、この『ウロボロス』の中でしばらく待機してもらうことになります」


『ウロボロス』の食堂で、皆を集めて俺は今この国がおかれている状況を手短に説明した。


 侯爵が『オーバーフロー』を八か所発生同時に発生させようとしていること、発生した大量のモンスターが王都を襲うだろうこと、そしてその後、侯爵の軍が王都を攻め落としにくるだろうこと、そういったことすべてである。


 かなりのビックリ情報に皆真剣に聞いてくれてはいたが、清音ちゃんだけは微妙にわかってない感じで、リーララやカーミラに質問をしている。


「それで、先生はどう対処するんですか?」


 青奥寺の質問に皆の目が再度俺に集まった。


「女王陛下にはすでに伝えてあるから、そっちの対処を見て決める感じかな。まあ放っておくと民間に被害がでるからな。それを放っておく気はないさ」


「分かりました。でも、先生の話だと、街の中にもいきなりモンスターが現れることがあるんですよね? 全部の対処は不可能だと思いますけど」


「まあそりゃな。そこはさすがに仕方ないだろう。勇者にも限度はあるからな」


「『ウロボロス』を使えば対処はできるんじゃないですかっ? 『ウロボちゃんず』もいっぱいいますよね?」


 次に手をあげたのは双党だ。


「それも必要があれば投入予定だ。ただあくまでも現地の問題ではあるからな。過剰に介入するのもどうかという感じはある」


「先生の話を聞く限り、『勇者』というのはそもそもがそういう理不尽な存在ではありませんの?」


 これは九神だ。さすが九神グループ次期総帥、言うことがなかなかに鋭い。


「それは九神の言う通りかもな。まあ無辜の人間が傷つくのは俺としても本意ではないから、いざというときは動くさ」


「でしたら、私たちにもなにかできることがあると思うのですけれど。このような状況で、空の上で見ているだけというのは不満がありますわ」


「言いたいことはわかるが、俺も皆を親御さんから預かってる身だからなあ。大人組はともかく、生徒組はちょっと難しいな」


 俺がずっと見ていられるならいいが、今回はそうはいかないからな。そもそも完全にこっちの世界の人間同士の争いだし、かかわらせるのは教育的にも良くはないだろう。


 といっても青奥寺や双党、九神に関していえば、こっちの世界と完全に無関係というわけでもないのだが。


 俺が渋い顔をしていると、カーミラが手をあげた。


「それならワタシはラミーエルのところに行きたいわぁ。ちょっと気になることもあるしねぇ」


「護衛でもやるのか?」


「それもあるけどぉ、九神さんが画期的な技術を教えたでしょう? あの技術を消しに来るものがいると思うのよねぇ」


「それは聞き捨てならない話だな。どういうことだ?」


「魔人衆の優先目標の一つに『魔導廃棄物を増やす』っていうことがあったでしょ。だから『魔導廃棄物』をなくすなんて技術、彼らが放っておくことはないと思うのよ」


「そんな話は初めて聞くが」


「あらぁ? とっくに知ってることだと思ってたけどぉ。まあそういうわけで、たぶん騒ぎに乗じてお城にこっそり忍び込んでくるものがいると思うのよねぇ」


「『魔導廃棄物』を増やすのが目的ならたしかになにか仕掛けてきそうだな。女王自身については守りは固めてるだろうけど、技術官を狙われるというのは想定外かもしれないな」


「でしょう? 多少対策はしているとは思うのだけど、『魔人衆』の手練れが出てきたらさすがに無理だしねぇ」


「わかった、ならカーミラは女王陛下のところに行ってくれ」


「そうさせてもらうわねぇ」


 そんなところで、それ以上の話は出なかった。


 モンスター退治のレベルなら青奥寺たちの力に頼ってもいいんだが、今回に関してはどこまでの騒ぎになるか分からないからなあ。


 最後に皆も出番がある可能性もなくはない、という話をしていったん解散とした。




 その後カーミラを女王陛下のところに送り、俺は『ウロボロス』の『統合指揮所』の艦長席に座っていた。


 青奥寺たち全員もこの場にいて、皆適当な席に座っている。地上の様子が気になるようでそわそわしている子もいる。


「『ウロボロス』、王都周辺の『魔導廃棄物』の反応はどんな感じだ」


 艦長席の脇に立つ『ウロボちゃん』に聞くと、モニターに王都周辺の地図が表示された。王都を囲むように八つの円形のアイコンがあり、そのアイコンの色が、青から黄色、赤へと変化していく。なお、各アイコンの位置は王都から約5キロくらいにあるようだ。


『現時点ですでにオーバーフローの臨界点近くまで集まっているみたいでっす。その周辺には街もいくつかあるので、オーバーフローを起こしたら危険ですね~』


「退避命令はでているんだろうが、昨日の今日じゃ無理だよなあ」


『街から出ていく車は多く見られまっす。一部渋滞もあるようですね~』


「さすがにそこは守らないとマズいか。アンドロイド兵は大丈夫か?」


『イチハたちからのデータをフィードバックしていますので問題はないと思いまっす。ただ準備できているのが500体に満たないので、数が多いと厳しいでっす』


「いざとなったら艦砲射撃も必要かもな。まあしかし多少は王都に迫ってもらわないと困るから加減は難しいな」


 そうひとりごちていると、絢斗がすっと近づいてきた。


「相羽先生、さっきそのオーバーフローを起こす装置があると言っていましたよね。場所がわかるなら、それを最初からどうにかしてしまえばいいんじゃないんですか?」


「絢斗のいう通りなんだが、今回はそれじゃちょっとよろしくないんだよ。最初からオーバーフローが起こらないと、黒幕も動かなくなっちゃうだろ?」


「ああなるほど、たしかにそうですね。しかしそこまで考えているんですね、勇者っていうのは」


「はっきり言えば、俺が裏で動いて全部解決することもできなくはないんだ。でもそれをやると表の世界で説明がつかなくなるからな」


「例えば?」


「そうだな、今回の黒幕はとりあえずババレント侯爵なんだが、なにも起きないうちに俺が裏で侯爵をやっつけたら、それはただの暗殺にしかならないだろ? 侯爵の屋敷を捜査して悪事の証拠が見つかったとしても、そんなもの捏造だって言われたらどうにもならない。だから悪事は実際にやってもらわないとならないんだよ。まあそれと、こういうことは部外者が解決したらめぐりめぐって結局は現地の人間のためにならないんだ。何かあっても誰かが何とかしてくれる、そんな風潮が広まったら最悪だからな」


 どちらも勇者時代の苦い思い出が元になっている話だ。あの時は俺も若かったなあ。いや今でも若いけど。


 俺が真面目な顔で言ったせいもあってか、絢斗は何度かうなずいて少しだけ尊敬のまなざしっぽい目を向けてきた。


「すごく実感がこもってる感じがして、納得がいく話ですね。しかしなんか侯爵が可哀想に思えてきました」


「自分の領地で収まってりゃまだ良かったんだよな。それが他まで巻き込もうとするから罰があたるのさ」


「ふふっ、なんか勇者って天罰の代行者みたいですね」


「さすがにそこまで思い上がるつもりはないけどな」


 などと言っていると、王都周辺のアイコンが点滅を始めた。その上にタイマーの表示が追加されるが、どうやらあと10分のカウントダウンが始まったようだ。


『艦長、各地点あと10分で臨界点に達しまっす』


「まずは様子見だな。女王陛下のお手並み拝見といくか」


 俺と絢斗は、揃ってモニターの方に向き直った。

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