28章 異世界修学旅行その1 16
残された金色の宝箱、こういうのに一番に反応するのはやっぱり双党だ。
「先生っ、あれってもしかして宝箱ってやつじゃないですかっ!?」
「どうやらそうらしいな」
「あれ、なんか嬉しそうじゃないですね」
「そりゃな。ここで宝箱がでるってことは、この世界が昔に戻りつつあるってことだからな」
「それってダメなんですか?」
「昔ってのは俺がいた時代、つまりモンスターが地上に大量に出てきて、魔王が定期的に現れるような世界になるってことだ。どう考えてもいい感じじゃないだろ?」
「あ~。でも宝箱が出ることがその時代に戻ることの予兆になるって変ですね。まあ宝箱が出てくる自体変ですけど」
「まあな」
それに関しては完全に仮説だが、この世界に神がいるらしいということと関係がありそうなんだよな。つまりヤバい時代になるから、宝箱を神が用意して人間側を手助けする――そんな意図を感じる。ダンジョンという試練を乗り越えれば力を与えてやる、そんなシステムなのもいかにも神っぽい。
「お兄ちゃん、宝箱を開けないんですか?」
隣にやってきた清音ちゃんが、ワクワクした顔で見上げてくる。
「清音ちゃん開けてみるかい? 罠はないから大丈夫だよ」
「いいんですか!? 私開けます!」
「あっ、清音ズルい! わたしも一緒に開けるからね!」
清音ちゃんとリーララが一緒に宝箱のところに走っていく。なんだリーララもまだお子様なんだな、と思って横を見ると、双党がうらやましそうに2人を見ていた。まあ宝箱は冒険者のロマンだからな……。
清音ちゃんとリーララが2人で息を合わせて蓋を開けると、箱の中から光があふれだした。そして箱そのものはすうっと消え去って、ライフル型の魔導銃3丁がそこに残された。
「お兄ちゃん、これってなんですか?」
「これは武器だね。魔導銃っていって、先っぽから魔法が飛び出す道具だ。危ないから触らないでね」
清音ちゃんに答えつつ、俺は魔導銃を持ち上げた。
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五八型魔導銃
光属性上級魔法『ジャッジメントレイ』を放つことができる長銃
非常に強力だが、その分大量の魔力を充填する必要がある
満充填で30回の射撃が可能
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「こりゃ強力な武器だな」
『ジャッジメントレイ』はAランクモンスター、つまり『特Ⅱ型』にも通用する魔法である。この世界の技術だと、攻撃機とかに載せる武器のはずだ。それが人間でも手軽に撃てる銃になるというのはさすが神様お手製と言うことか。
しかし面白いのは、銃の形状も含めて、俺が召喚された時代のアイテムではなく、今の時代に合わせたアイテムになっている点だ。なんとも芸が細かい。
ちょっと構えてダンジョンの壁に向かって撃ってみる。銃口から強烈な光を放つ青白い光線が伸び、破壊できないと言われるダンジョンの壁に穴をあけた。間違いなくこの時代でもオーパーツとなるような武器だろう。
「あっ、先生私も撃ちたいですっ!」
当然のように騒ぐ双党に「壁に向かって撃てよ」と言いながら渡してやる。双党は「やったっ!」と言いながら何発か射撃をし、その後新良も試し撃ちをしていた。
その後ボスの部屋の奥にある扉をくぐり、これも神様製であろうと思われる、地上への転送装置がある部屋に入って、全員で外に出た。
「まだ午前中なのに疲れてしまいましたわ。あんな巨大な化け物まで出てくるなんて、本当に驚きの体験です。相羽先生が知っている世界というのは私の想像を絶するようですわね」
「まあな。しかしクゼーロだってあれくらいなら倒せるレベルの奴だったからな。そこまで驚くほどでもないぞ」
「相羽先生がいなかったら、本当に大変なことになっていたのですわね」
「どうだろうな。米軍引っ張り出した上で自衛隊が総出で戦えばギリギリ勝てなくもないし、別の救済措置があったような気もするけどな」
九神にそんな無責任なことを答えつつ、いったん『ウロボロス』に帰還する。
さて、とりあえずこの世界が『魔王』がいた頃のそれに戻りつつあることは確認できた。
つまり魔王が『復活』しつつあると、本格的にそう考えていいだろう。
問題はそれが自然に引き起こされた変化なのかどうか……なんて言うのもバカらしい気がするな。むしろ『魔王』が復活を目論んで積極的にこの変化を引き起こした、そう考える方が自然だろう。
今回の異世界旅行ではそこを確認するのも目的の一つだ。もちろんその元凶を叩ければ最上だが、そう簡単にいかないだろうというのも、勇者の勘的には明らかだったりするんだよな。