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28章 異世界修学旅行その1  15

 翌日早朝はダンジョン攻略の続きである。


 昨日で疲れた子は『ウロボロス』で休んでていいと言ったのだが、全員が行くと言うのでフルメンバーでの行動となった。


 ダンジョン専用転移装置である『迷宮の(しるべ)』を使って、ダンジョン内に転移する。


 転移先はもちろん地下5階へ下りる階段の前だ。幸い近くにモンスターは湧いていなかった。


「よし、じゃあ早速5階に下りるぞ。たぶん『特Ⅰ型』が出てくるから気を引き締めていこう。危ないと思ったら遠慮なく手は出すからな」


「先生の手を煩わせないようにします」


「『特Ⅰ型』で手こずっているようじゃ、僕の目標には届かないからね。先生の出番はこないようにしないとね」


「先生の恋人として恥ずかしくない戦いをしなくちゃ」


 青奥寺と絢斗が気合を入れている横で、雨乃嬢の不適切発言が聞こえてくる。他のメンバーも真剣な表情だが、リーララだけはめんどくさそうな顔だ。こいつだけは清音ちゃんにつきあって嫌々来た感じもあるんだよな。


「よし行くぞ」


 階段を下りていくと、幅20メートルはありそうな通路に出た。どうやら強力なモンスターとバチバチやり合う前提の階層のようだ。


 青奥寺、雨乃嬢、絢斗が前衛、新良と双党、三留間さんが後衛なのは昨日と同じ。清音ちゃんの護衛はリーララにお任せ、九神の護衛は宇佐さんがいるから問題なし。俺は全体のバックアップだ。


 10分ほど歩くと『気配察知』に感。


「3匹来るぞ」


 と伝えると、果たして前方から翼と角、尻尾が生えた人型のグレーターデーモンもどきが現れた。


 3体が魔法で氷の槍を飛ばしながら、低空飛行で滑るようにして突っ込んでくる。


 前衛の3人はそれぞれの武器に魔力をまとわせ、氷の槍を叩き落としていく。魔力の扱いもさることながら、動体視力や反射神経ももはや常人の域をはるかに超えている感じである。絢斗はもとから高かったが、青奥寺と雨乃嬢も魔力を身につけてから身体能力が格段に上がったようだ。


 一方で突っ込んでくる『深淵獣』に対しては、双党と新良が射撃を行う。ただやはり『特Ⅰ型』に対しては魔導銃では効果が不十分なようだ。多少のダメージは与えるが、突進を鈍らせるほどではない。


 前衛と『特Ⅰ型』が接触、1対1の斬り合いが始まる。


 相手は氷剣の二刀流だが、それぞれ対等によく切り結んでいる。青奥寺と雨乃嬢は剣術の熟練度で、絢斗は身体能力で『特Ⅰ型』を上回っているようだ。事前に射撃で与えていたダメージもあって、ほどなくして3人とも『特Ⅰ型』を斬り捨てた。


「すばらしい戦いですわね。どれほどの覚悟をもって研鑽(けんさん)を積めばあそこまで至れるのか、溜息が出るようですわね」


「そうかもしれません。しかしお嬢様も余人から見れば十分に覚悟をもっていらっしゃる方と思います」


 九神と宇佐さんが後ろでそんな評をしている。


「ふふ、ありがとう。そうね、戦う場所が違うだけ、そう思いたいものですわね」


「人それぞれにいるべき場所というものがあるのだと思います。お嬢様の側が私のいるべき場所であるように」


「宇佐も素敵なことを言うのね。しかし宇佐はそれでいいのかしら?」


 からかいの表情で宇佐さんの顔を探るように見る九神。その視線を受けて、宇佐さんはメガネの位置を直しながら目を逸らした。


「その……側にいるにも相手の了解が必要ですので……」


 そう言いながらチラチラと俺の方に視線を送ってくる宇佐さん。


 青奥寺たちを褒めていたと思ったら、なぜか急に話が俺に飛び火したみたいなんだが……女子の会話の脈絡の飛び方は、経験値の少ない勇者にはとらえきれない。


 ともかく奥から再度モンスターの気配が近づいてきているし、宇佐さんのお話は後で聞くことにして、今はダンジョン攻略を進めてしまおうか。




 その後何回かモンスターが出現したが、すべて『特Ⅰ型』だった。さすがの青奥寺たちも『特Ⅰ型』との連戦はキツそうだったので、半分くらいは俺が倒しつつ、リーララとカーミラにも魔法で戦ってもらった。


 そして2時間ほど進んでいくと、とうとう大きな扉の前に出た。縦横10メートルはありそうな石の扉には禍々しい謎の彫刻が刻まれている。この「誰が作ったんだよ」と突っ込みたくなる感じは、まさに『あの時』にあったダンジョンそのものだ。


 俺が扉を見上げて感慨に浸っていると、青奥寺が横から声をかけてきた。


「先生、この奥に『特Ⅱ型』がいるんでしょうか?」


「ん? ああ、たぶんな。ただ問題はそこじゃなくて、ボスを倒したらダンジョンが消えるのかどうかってことなんだよ。残るとキリがないからな」


「それは『特Ⅱ型』が外に出てくることもあるということですか? もしそうなら恐ろしい話ですけど」


「さすがにそれはないかな。ただ放っておくとモンスターが増えすぎてあふれてきたりはするな。オーバーフローって呼んでたけど、それが起こると一大事だ」


「あ、それも『深淵窟』と似てるんですね」


「そういうこと。さて、じゃあ行くか。皆、この先にはたぶん怪獣みたいな奴がいるけど、俺が倒すから心配はしないでくれ」


「は~い! お兄ちゃんが大きなモンスターを倒すのが楽しみですっ」


 元気な返事をするのは清音ちゃんだ。彼女はダンジョンをずっとお化け屋敷みたいだといって楽しんでいるのだが、なんとも肝の据わった子である。魔法を覚えればいい冒険者になれるかもしれない。


 他のメンバーも問題なさそうなので、石の扉を開いて部屋の中に入る。


 思った通り、凄まじく広い空間だった。天井までは50メートルくらいあるだろうか。幅や奥行きは300メートルくらいありそうだ。


 少し待っていると、部屋の真ん中からコールタールみたいなドロドロしたものが湧き出てきて、それが徐々にモンスターの形になっていく。


 それは最終的に6本足の巨大なカメみたいなモンスターになった。大きさは甲羅だけで全長30メートルはあるだろうか。カメと言っても頭部はドラゴンのそれで、明かに上位のモンスターだとわかる。


--------------------

タラスク Aランクモンスター


伝承の怪物。

甲羅は極めて高い物理耐性、魔法耐性を持ち、並の攻撃では傷一つつけられない。

手足や頭部の皮膚も強靭で、ダメージを与えるには相当な力を要する。

吐き出される毒のブレスは、生命すべてをむしばみ枯死させる。

口の中が弱点。


特性

強物理耐性 魔法耐性 状態異常耐性 


スキル

ブレス(毒) 突進 噛みつき 

--------------------



 ダンジョンで初めて『アナライズ』を使ったが、『深淵獣』ではなく『モンスター』表記に変わっていた。そういえばこいつは頭部が例の口つきミミズじゃない。やはり『深淵獣』ではないのだろう。


 とすればどうやら本当に古のダンジョンが復活したという感じのようだ。これはこれで由々しき事態だが、まずは目の前のデカブツを倒してしまおう。


 見ると『特Ⅱ型』クラスを始めて見るメンバー、双党、新良、絢斗、九神、宇佐さん、そして清音ちゃんと三留間さんが口を開いて呆けていた。まあリアル怪獣だからなあ。


 ともかく『タラスク』が動き始めたので、俺は「皆はここで動かないように」と言って、巨大カメ型ドラゴンの方に走っていった。


 途中で『魔剣ディアブラ』を取り出すと、刀身が微かに震えているのがわかる。やはり強敵を斬りたいらしい。


 フオォォォッ!


 妙な叫び声を上げて、タラスクがこちらに向かって大口を開く。いきなりブレスか、容赦ないな。


 タラスクの口から、赤紫色の毒々しい液体が放水車10台分くらいの量で放たれる。あれをマトモに食らったら、毒云々の前に普通に衝撃であの世行である。


 俺は左手を突き出し上級風魔法『カタストロフサイクロン』を発動、手から吹き出す竜巻でブレスを押し返してやる。


 一応聖魔法の『ピュリフィケイション』で、周囲に飛び散った毒も浄化しておく。一滴でもメンバーにかかったら大変だからな。


 ブレスを相殺されたのが気に入らなかったのか、タラスクは赤い目を俺に向け、六本足で猛然と走り始めた。カメのくせにやたらと速い。ダンプカーが10台かたまって走るような凄まじい振動が床を揺らす。


「さて、まずは甲羅を試しに斬ってみるか」


 頭を真っ向唐竹割りにしてもいいのだが、多少の情報収集も必要だろう。俺は噛みついてくる顎を避けて飛び上がり、甲羅に『ディアブラ』を叩きつけた。


 ビギィッ!! という凄まじい音が響き、古墳くらいの大きさがある甲羅がぱっかりと割れた。


 あれ、意外と弱いな。強物理耐性はどこにいったんだ?


 ビヤァァァッ!?


 タラスクの叫びも、どことなく「ありえねえ!」って感じに聞こえるな。パワーアップした勇者が相手だから多少の理不尽は許してもらいたい。


 背中が割れた状態なのはかなり見るに堪えないので、俺は検証をやめて、再度俺を噛みつきにきたタラスクの頭を、『ディアブラ』で真っ二つにしてやった。


 ほとんど抵抗なくストンと斬れてしまったんだが……もしかしたら『ディアブラ』もパワーアップしているんだろうか。成長する魔剣なんてのがあってもおかしくはないとは思うが、ここに来て成長してるってのもよくわからないな。


 勇者の2撃で甲羅と頭を両断されたタラスクは、そのまま力を失い崩れ落ち、そして地面に溶けていくように消えていった。


 そしてタラスクの消えた後に、金色に光る箱が残された。

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