28章 異世界修学旅行その1 12
中は石積みの壁や天井で構成されたいかにもなダンジョンだった。通路の幅は車一台が余裕で通れそうなほどはある。それでも11人で歩くにはちょっと狭い。
俺の左右には絢斗と青奥寺がいて、斬り込みを担う気まんまんである。清音ちゃん以外の全員が『深淵窟』にはなんらかの形でかかわっているので、キョロキョロと楽しそうに周囲を見回しているのは清音ちゃんだけだ。訳あり女子大集合だな。
しばらく進むと奥からモンスターが現れる。というかまんま『深淵獣』だ。デカいイソギンチャク型の丁型が10数体にじり寄ってくる。
「ちょっとこの銃試させてねっ!」
青奥寺たちが前に出ようとする前に、双党が声をあげて、昨日買ったばかりの魔導銃を構える。俺が渡した『ゲイボルグ』よりずっと近代的なフォルムの銃である。
引き金を引くと、光の矢、『ライトアロー』が発射されて次々と巨大イソギンチャクを貫いていく。気づいたら双党一人で全滅させていた。
「かがり先輩、ボクたちに残してくれないのはひどくないか?」
「あっごめん。つい楽しくなって撃ちすぎちゃった」
絢斗に文句を言われて舌を出す双党。なんか緊張感なくなるな。
いくつか分岐を経由しながら、さらに奥に進む。モンスターは丁型のイソギンチャクと芋虫、それと大型のアリみたいな奴が出てくるが、訳あり少女部隊の前にはまったく障害にならない。
1時間ほど歩くと、階下へと続く石の階段が見えてきた。
「階段があって下に下りるなんて、本当にダンジョンって感じがしますねっ」
「こういう『深淵窟』は初めてです。こちらではこれが普通なんですか?」
双党はともかく青奥寺の質問には「そうだな」と答えておく。
しかし確かにこれは『深淵窟』ではなくダンジョンだな。俺が召喚された『あの時代』の現象が復活したということだとすると……そこにどんな意味があるのか大いに気になるところである。
小休止してから地下2階へと下りていく。
雰囲気が少し変わり、通路の幅が倍になったかわりに圧迫感のようなものが増す。出現するモンスターの格が上がる予兆だ。
「敵が強くなるぞ。注意してくれ」
一応注意を促しつつ通路を進んでいくと、果たして丙型の6本足トラが6体出現する。と言ってもこれもまったく相手にはならない。
青奥寺、雨乃嬢、絢斗の前衛3人、双党と新良の後衛射撃組2人のコンビネーションは安定感がある。誰も怪我しないので今のところ『聖女さん』こと三留間さんの出番はない。
清音ちゃんは「すごいですねっ!」と喜んでいて、リーララも「さすが先輩って感じかも」と一応褒めて(?)いる。
ちなみに宇佐さんは九神の護衛に徹するようで、九神の側を離れない。カーミラもきちんと周囲に気を配ってくれている。なんだかんだいってやることはやる女である。
モンスターを蹴散らしながら2時間くらい進むと、やはり下りの階段が現れた。
小休止しつつ甘いものと水分を摂取して、階段を下りる。
通路は幅がさらに広くなり、天井も一段と高くなった。代わりに圧迫感はさらに強くなる。
進んでいくとモンスター出現。大型カマキリが5匹は大盤振る舞いだな。
「乙型がこんなに……!?」
すでに乙型は1対1でも余裕で討伐できる青奥寺だが、さすがにザコとしてこれだけの数が出てくるのは初めて見るだろう。
「ふうん、少しは楽しめそうになってきたかな?」
「美園ちゃん、落ち着いてやれば問題ないから大丈夫。かがりちゃんと璃々緒ちゃんもいるんだし」
絢斗と雨乃嬢が余裕の表情を見せると、青奥寺もうなずいて構え直す。まあ実際、立ち回りさえミスらなければ青奥寺一人でもなんとかなるレベルではある。
双党と新良の援護射撃もあり、5匹のカマキリはすぐに解体されていった。さすがに乙型には怖がる素振りを見せていた清音ちゃんもホッとした表情だ。
「あれくらいわたし一人でも倒せるから大丈夫って言ってるでしょ」
とリーララが慰めとも自慢ともとれることを言っている。実際遠距離戦ならかなり強いのは事実だが。
その後も4本鼻のゾウ型や、初めて見る火を吹く大型トカゲ型が出てきたが、特に怪我人も出ずに進めてしまう。
やはり二時間ほどで階段までたどりつく。
「先生、やはり次は甲型が出てくるんでしょうか?」
大休止をして全員で昼飯を食べていると、青奥寺が少し緊張した顔で聞いてきた。
「流れからいくとそうだろうな。なかなかにハードなダンジョンだけど、これが普通だから」
「そうなんですか? 先生に出会う前の私だったら2階で諦めてましたね。師匠と組んでもこの階は無理でした」
「多分この世界の冒険者でもこの階は無理なんじゃないかな。正規軍ががっちり武装して攻略するレベルだから」
「先生はこんなダンジョンをいくつも突破したんですよね?」
「勇者をやってたときはあっちこっちにダンジョンができまくってて、全部潰して回ってたからな。おかげで色々アイテムは手に入ったけど」
「気が遠くなります。もしこの下で甲型が出るとして、そこで終わりじゃなかったら次は特Ⅰ型ですよね」
「だな。多分そこで打ち止めで、ボスとして特Ⅱ型が出る感じなんじゃないかな」
「それって……先生にしか倒せないんじゃ……」
「そうだな。ダンジョンとしては最高レベルの難度になるかもしれない」
特Ⅱ型クラスはもはや怪獣とかそういうレベルのモンスターで、力としては魔王軍の四天王にも匹敵する。
実際には四天王の方がいろいろ策を弄したり装備を変えたりしてくるから強くはなるが、それでも常人が相手にできるものではない。といっても俺が召喚された時代だと、軍が被害を出しながらも頑張って倒していた。
しかし大勢で入ってくることができないダンジョンでの特Ⅱ型クラスは、勇者パーティくらいでしか対応できないだろう。それとも俺が知らないだけで、今のこの時代には超高レベルの冒険者もどこかにいるのだろうか。ギルドにたむろしていた連中を考えると、望みは薄い気もするな。