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28章 異世界修学旅行その1  06

 王都への転送は、前回と同じように公園のトイレ内にしてもらった。


 情緒もなにもあったものではないが、普通の人間が出てきても怪しまれない隔離された空間を選ぼうとすると、どうしても場所は非常に限られる。 


 とはいえ女性用トイレから11人が次々と出てくるのは誰かに見られたら不審がられたかもしれない。服装もこちらの世界のそれとは微妙に異なっているし。


 トイレを離れて公園をぞろぞろと歩くが、異世界出身のリーララとカーミラ以外は周囲をキョロキョロと見回して口々に感想を言い合っている。


 青奥寺も遠くのビルを見ながら俺に話しかけてきた。


「これが異世界の街なんですね。あまり違和感がないというか、外国に来たくらいの感じですね」


「文明の程度が近いから実際そういう感じだよな。俺が飛ばされたのは1500年も前の時代だったからファンタジーって感じだったけど」


「でもその時代だったから先生は勇者になれたわけですよね?」


「そうだな。今はもう勇者なんて言ったらバカにされるだろうし、そもそも異世界から来ましたなんて人間、自由にはさせてもらえないだろう。なんだかんだいって緩い世界だったよ」


 公園内は前回来たときと雰囲気は変わっていなかった。ベンチにはご老体が座って読書などをしていて、なにか緊急事態が起きているという感じでもない。


 公園を出て街中に入り、微妙に前衛的な、異世界的なデザインのビルが並ぶ通りを歩いていく。


 通りには大勢の人間が行き交っているが、こちらの一行に気を配る者はほとんどいない。まあエルフやらリザードマンやら獣人やらが入り混じる異世界人に比べれば俺たちなんて無個性集団に近いからな。


「先生先生、あの人たちの耳とかって作りものじゃないんですよねっ!」


 双党が俺の脇腹をつつきながら騒ぐ。まあ気持ちはわからんでもないが。


「全部本物だって。失礼だから指差すな。それと間違っても触るなよ」


「えっ、でもあの尻尾とか触りたくないですか!?」


「獣人は尻尾を触られると基本キレるから絶対やめろ」


「ええ~。仲良くなればイケませんかね」


「結婚相手ならいいらしいぞ」


「あ~」


 一方で同じ異世界初心者組でも新良は平然としている。銀河連邦の宇宙人たちに比べれば、異世界の種族の方がよほど人に近い姿をしているかもしれない。


「先生、こちらの自動車はなにで動いているんでしょう。排気ガスのにおいもしませんし、音も静かですが」


「分からんが多分魔力じゃないかな。こっちの世界の動力源は基本全部魔力だ」


「連邦のラムダドライブみたいなものでしょうか。しかしそれだと技術的な互換性は低そうですね」


「だな。こっちの魔道具を持ち帰っても置物にしかならんと思う。あ、でも新良たちは魔力が使えるからイケるか? カーミラ、ちょっといいか?」


 俺が呼ぶと、赤いウェーブヘアを身体にまとわせた歩くR18指定が()()をつくりながら近づいて来る。


「あら先生、なにかしらぁ」


「こっちの世界の魔道具って、自分で魔力を充填したりはできるのか?」


「ええ、そういうオプションがある魔道具はあるわねぇ。買って持ち帰るつもりかしら?」


「土産に持ち帰るのにただの置物じゃつまらないしな。もし買う時は選ぶのを手伝ってくれ」


「ええいいわよぉ。そういえばお金って大丈夫なの?」


「前来たときに女王様にアイテムをいくつか売ってお金はたんまりもらってあるんだ。エリクサーとか家が買えるくらいの金で売れたぞ」


「さすが抜け目ないわねぇ、先生もラミーエルも」


 ラミーエルは女王陛下の名前だ。カーミラとは学生時代の友人らしい。彼女には王都観光が終わったら会いに行かないとならない。


 しばらく通りを歩いていると、まず買い物をしたいとリーララが言い出し、全員がそれに賛同したので近くの百貨店に入ることにした。カーミラ曰く一番の老舗らしいが、建物は日本の老舗百貨店に非常に似た雰囲気がある。


 やはりというかなんというか、女子たちが向かったのはファッション関係のブースだった。


 新良とか絢斗あたりはあまり興味がないんじゃないかと勝手に思っていたが、どうもそんなことはないようだ。


「金は俺が出すから好きに選んでいいぞ。次来られるかどうかはわからないから遠慮すんな」


「さすが先生太っ腹!」


「お兄ちゃんカッコいいです!」


「服を好きなだけプレゼント。これはもう結婚なのでは……?」


 ちょっと妙な言葉も聞こえたがとりあえず好きに見てもらうことにして、俺は近くの椅子に腰かけて女子の買い物を眺めていることにした。


「しかし通りも店の中も普通っぽいな。モンスターは出現してるはずだけど、そこまで騒ぎにはなってないのか?」 


 まあ軍や冒険者が対応できているかぎり民間にはそこまで影響はないのかもしれないな。街にモンスターが侵入するようなことがあったら大騒ぎになるかもしれないが。


 女子は年齢が近い者同士が集まって服を選んだりおしゃべりしたりと楽しそうだ。よく考えたら今回の異世界旅行で初めて顔を合わせる人もいるはずなんだよな。そのあたりなにも考えずに連れて来てしまったなそういえば。


 などとしばらくボーっとしていると、ブレスレット端末に着信。『ウロボロス』からだ。


「どうした?」


『艦長、王都の行政府の敷地内の地下に『魔導廃棄物』が集まり始めてまっす。あと15分くらいで地上に出てくると思いまっす』


「マジか……。規模はどのくらいだ?」


『前回艦長が対処したものよりは小規模ですね~。二十分の一くらいでしょうか』


「それでも危険だな。オーケー、俺が合図したらその場所に俺だけ転送してくれ」


『了解でっす』


 俺はカーミラを呼んで、ぽんと100万ドルムの札束を2つ手渡した。


「ちょっと先生いきなりなんなのよぉ」


「街中でトラブルが発生したらしい。ちょっと行って片づけてくるから買い物は続けてくれ。ってわけでそれで支払いは頼む」


「もう、落ち着かないわねぇ。わかったわぁ、こっちはやっておくから気を付けてねぇ」


「頼んだ」


 俺はそのままトイレの個室に入って『ウロボロス』に合図を送った。


 しかし俺がこっちの世界に来た瞬間にデカいトラブル発生とは。つくづく勇者というのは間が悪い……いや、間が良すぎるものである。

告知


次回11日は所用のため投稿を休止します。

13日から再開いたしますのでよろしくお願いいたします。


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― 新着の感想 ―
[一言] 名探偵の周囲は事件だらけ みたいなもんです諦めも肝心
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