28章 異世界修学旅行その1 04
さてこれで、異世界に行く人間についてはだいたい話はついた感じだろうか。青奥寺たちが宿題をやる時間を取って3日後に出発する予定だが、滞在は最長で1週間を考えている。
主たる目的は『魔導廃棄物』についての解決手段を女王陛下に伝えること。それからあの悪徳侯爵がなにかしていた場合に、それの対処を手伝うこと。それからバルロの言っていた『導師』とやらの正体を探ることだ。
アパートに戻るとリーララがベッドで横になっていた。
「清音ちゃんも連れていくことになったぞ」
「ふ~ん、どうやって説得したの?」
「いや、普通に全部話した。まあ異世界にいって儀式をするだけなら別にそんな問題でもないしな」
「あ~、実際に魔法を覚えなければ意味ないしね。たしかにそうか。ところで結局何人で行くの?」
連れていく人間を整理すると、青奥寺、双党、新良、絢斗、リーララ、清音ちゃん、カーミラ、そして九神世海と宇佐さんか。
そういえば雨乃嬢はどうするのだろうかと思っているとスマホに着信が。青奥寺からということはもしかして……
『先生すみません、例の異世界に行きなんですけど、師匠も連れて行っていただけないでしょうか?』
「あ~やっぱりそうなるか」
『やっぱり?』
「いやちょっと今異世界にいくメンバーを考えてんだけど、青納寺さんはどうするのかなって少しだけ思ってた」
『ふぅん、そうですか』
ん? ちょっとだけ処刑人の気配が……。いや気のせいだな気のせい。
「まあそれで、もちろん青納寺さんも大丈夫だけど『深淵窟』の方は問題ないのか?」
『はい。最優先ということで両親も了解済みです』
「まあ『深淵窟』の方は『ウロボちゃんず』がいれば大丈夫だろうけどね。じゃあ青納寺さんも追加しよう」
『それと三留間さんはどうするんですか?』
「いや、彼女は別に連れていく気はないけど……」
『絢斗が話を少ししてしまったみたいですよ。三留間さんも勘が鋭いので、私たちの微妙な変化に気づいたみたいです』
「えぇ……」
それは予定外の話である。というか別に連れていく必要はないと思うし、そもそも彼女は『定在型深淵窟』対応部隊にとっては貴重な回復役だしなあ。
『彼女だけ仲間外れはよくないとは思います。『総合武術同好会』の一人ですし、それに先生のこと……』
「俺のこと?」
『いえなんでもありません。とにかく一度三留間さんにも話をしてあげてください』
「わかった、明日連絡をしてみるよ」
う~ん、思ったより大所帯になりそうだが、もし彼女を連れていくとなると、当然彼女の両親にも説明をしないとならないんだよなあ。それが一番キツいんだが……どうしてこうなったんだろう。
「なに溜息ついてんのおじさん先生。それで結局何人になるの?」
リーララがいつの間にか膝の上に乗っているので、嫌がらせで頭をなでてやる。
「俺入れて11人、もしかしたら12人かな」
「それってほぼ全員じゃない。あ、なでるのやめないでってば」
「なんだよ全員って」
「全員は全員。まあ勇者なんだし、それくらいは面倒見られるでしょ。セキニンはしっかり取らないとね~」
「向こうに行った時にはしっかり守るけどな」
俺がそう言うとリーララは「やれやれ」みたいな顔をしてスマホをいじりだした。
しかしなんか本当に部活の生徒引率みたいな感じになってきたな。そう考えるとこれも教員の仕事と思えば思えなくもない……のかもしれない。
翌日三留間さんに連絡をすると「ぜったいに行きたいです!」と普段の聖女然とした彼女にはない迫力で言われてしまい、そのまま両親の元に説明に行くことになった。
彼女の両親と会うのは以前の誘拐事件以来だが、どうも三留間さんが俺の話をずっとしているらしく、両親の俺に対する信頼度は妙に高かった。
そのおかげで三留間さんの異世界行きに関しても「この娘がここまで強く言うことは初めてなので、ぜひ連れていってやってください」と逆に頼まれてしまうほどだった。
それはそれで予想外だったが、思えば三留間さんも魔力に関しては非常に優れた女子である。清音ちゃんと同じく魔法が使えるようになったほうがいろいろといいかもしれない。なにしろ彼女はすでに一度狙われた身でもあるし。
そんなわけで異世界行きのメンバーのうち明蘭学園所属の子たちについては明智校長に報告を入れ、色々と連絡調整を行ったりして、ようやく異世界へと向かう日がやって来た。
「はいはい、皆さん準備はよろしいですか」
今俺たちがいるのは、九神商事が所有する大型の倉庫の一角である。
異世界への転送装置を出すという話をした時に、九神父の仁真氏が用意してくれた場所だ。転送装置については前回は山の石材置き場に設置をしたが、さすがに一週間となるとそこに雨ざらしというわけにもいかない。
俺の掛け声で集まったのは11人。青奥寺、双党、新良、絢斗と三留間さん、雨乃嬢、リーララと清音ちゃん、カーミラ、そして九神世海と宇佐さんだ。
やっぱり完全に旅行の引率である。
「じゃあ転送装置を出すからちょっと下がって」
『空間魔法』から巨大なコンクリートブロックを取り出す。
転送装置のある部屋をそのまま『空間魔法』で切り取ったものだ。
扉を開いて中を確認すると問題なく稼働している。
「よし、じゃあ俺たちが戻るまでは警備を頼む」
次に声をかけたのは、猫耳アクセサリつきの銀髪美少女軍団3人だ。
もちろん全員アンドロイド、つまり『ウロボちゃんず』の別動隊である。
『お任せください、艦長』
リーダーっぽい子が抑揚のない声で返事をする。
ちなみに彼女たちについては、地球の衛星軌道上付近のラムダ空間に潜んでいる宇宙戦艦『ヴリトラ』のAI『ヴリトラちゃん』が統括することになっている。世界レベルで出現するようになった『深淵獣』に関しても『ヴリトラちゃん』任せだ。直前でフィーマクードが来てくれて助かった。
なお先輩の『ウロボロス』はもちろん『空間魔法』の中である。
「じゃあ出発。一応全員手をつなぎながら歩こう」
というわけで、俺が先頭になって扉をくぐり、転送部屋の中央まで歩いていく。
ブォンと音がして転送装置が起動、部屋の真ん中のなにもない空間にぽっかりと穴があく。
「入るぞ」
俺は青奥寺と清音ちゃんの手を引いて、空間に開いた穴『次元環』へと足を踏み入れた。