28章 異世界修学旅行その1 01
『現実を超える創作はない、そんな言葉がこちらにはあるが、まさにその通りの話だなミスターアイバ。フィーマクードの艦隊を一人で半壊させ追い返すなど、どんな脚本家でも決して書くまい』
俺は今、『ウロボロス』の『統合指揮所』の艦長席に座っている。
正面のモニターに映っているのは毛むくじゃらのインテリ宇宙人、銀河連邦捜査局のライドーバン局長だ。
新良に頼まれて今回の艦隊決戦の報告をしたところ、返ってきたのが今のセリフであった。
ちなみに俺の隣には新良がいて、上司の言葉に静かにうなずいている。
『しかもフィーマクードの戦艦を拿捕して利用しているなど、どうあっても公にはできない内容だ。君にはいつも驚かされるが、今回の一件は完全に私の思考の埒外にある』
「自分でもそう思いますよ。今回の件を受け入れられる人間は、当事者以外はいないでしょうね」
『私がもしフィーマクードのボスなら、受け入れることすらできないと思うがね。それにしてもそちらが無事なのはなによりだった。無責任な言いようにはなるがね』
「いえ、実際にそちらに責任があるような話ではありませんからね。銀河連邦がフィーマクードのしたことに責を負うとすれば、それは銀河連邦内の人間に対してだけですよ」
『ミスターアイバの知見はすばらしいと思う。艦隊を退けるだけの力を持った個人がいて、それがミスターアイバであったことに、我々は感謝をしなければならないだろうな』
「評価いただけるのは嬉しく思いますよ。自分は適当にやっているだけなんですけどね」
『ふふ、その言いようも君らしいな。ところでフィーマクード幹部のギルメルトとジェンゲットだが、先ほど収容が完了した。今度こそ奪還されないように気をつけるつもりだ』
「フィーマクードは大幅に戦力を失いましたから、攻撃するなら今だと思いますが」
『うむ、その通りだな。ただここから先は評議会と軍の管轄になってしまうのでな。動きは鈍くはなるだろう。そもそもフィーマクードの艦隊が大打撃を受けたという裏を取らねばならない。さすがに先ほど見せられた戦闘の映像を提出するわけにもいかないのでね』
ライドーバン局長はニヤリと笑う。威嚇しているようにしか見えないが、合わせて俺も笑い返しておく。
「合成のムービーだと思われるのがオチでしょうね」
『ふふっ、まったくだ。特にあの攻撃をすべて防ぐシールドと、拿捕された船が穴に飲み込まれて消えるシーンは、逆にふざけるなと怒られるだろうな』
「だと思います。ところで局長にはさらに言っておかないといけないことがあるんです。実はフィーマクードにはボスの後ろにさらに黒幕がいるみたいなんですよ」
『なに……?』
一転して目元を厳しくする局長。
「ボスが『導師』という言葉を口にしていまして、しかもその『導師』は、私の知り合いらしいんです」
『すまない、意味が飲み込めないのだが』
「俺が昔倒した『魔王』っていうとんでもない化け物がいるんですが、どうやらそれが復活して『導師』というものになったようなんですよ」
『つまりフィーマクードの背後には、ミスターアイバほどの人間が化け物と呼ぶ、恐ろしい存在がいる、そういうことかね?』
「今のところはその可能性があるというだけです。しかし留意していただいたほうがいいと思います」
『ふむ……。そのような存在はいままでに一切捜査線上に上がってきたことはないが、ミスターアイバが言うなら無視はできないようだ』
「もし本当にいるのであればフィーマクードより厄介な相手です。ですので見つけても手を出さないことをお勧めします。できれば居場所がわかった時点で私に連絡をして欲しいですね」
『それはその化け物の相手をミスターアイバがするという意味かね?』
「ええ、あいつだけは私自身が引導を渡さないといけないので」
『……わかった、私の耳に入った時点でミスターアイバに連絡をしよう』
「よろしくお願いします」
『うむ。しかしいつかミスターアイバとは一緒に酒を飲みたいものだな』
「銀河連邦の主星まで『ウロボロス』でお邪魔しましょうか?」
『ふふふっ、それだけで私を含めて数十人の首が飛びそうだ。しかし考えると、人一人を星に入れるのも難しいのだな。まったく難儀なことだ』
そんな感じで局長との対話は終わった。
今回、『ウロボロス』をはじめ宇宙戦艦をこちらがコレクションしたことも伝えてしまったが、そもそもこれは向こうの法でどうこうできる話でもない。なにしろ地球は銀河連邦に属してないのだし。
むしろそれを明かにすることで局長を共犯者にしようという意図もある。恐らく局長もそれは理解しているだろう。最後の『首が飛ぶ』というのはそういう意味もほのめかしているはずだ。
まあなんにしろこれで銀河連邦側の『導師』対策はできた。
あとは異世界で『導師』のことを調べるだけだが、その前に生徒たちを引率する準備をしないとだな。
教員になって分かったが、イベントは事前の準備が本番と同じくらい大変なんだよな。明蘭学園は2学年で修学旅行があるんだが、俺にとってこれはその予行練習みたいなものだろうか。
異世界修学旅行……もし二つの世界が自由に行き来できるようになったら、そんなものも実現するのかもしれないな。