27章 宇宙艦隊大決戦 06
5分ほどするとガイドビーコンなる信号が『ヴリトラ』から発信され、『ウロボロス』はそれに従ってゆっくりと『ヴリトラ』に接近していった。
敵の大艦隊の真ん中を一隻で進んでいく様子は、もし外から眺めているものがあればSF映画の派手な一シーンのように見えたかもしれない。
ちなみにモニターに映る大小の艦艇群を前にして、新良はさすがに顔色を多少青ざめさせていた。双党は無邪気にはしゃいでいて、青奥寺は興味がないからなのかよく分かってないのか普段通りだった。
『ヴリトラ』が眼前まで迫る。なるほどたしかに『ウロボロス』と同型艦だ。緩い楔形の本体に流線型の推進装置が張り付いていて、艦首には巨大な砲身が突き出ている。『ウロボロス』が赤黒く塗られているのに対して、『ヴリトラ』は紫がかった黒である。
『『ヴリトラ』に接舷しまっす。相対速度ゼロ。アンカー互いに射出、固定されました。ラムダ転送ジャミングフィールド相互展開。通路接続、艦長、通信が入ってまっす』
『ウロボちゃん』が振り返って俺を見る。
「つないでくれ」
『はいっ』
少ししてボスの声が入ってくる。
『よろしい。でははじめようか。アンタッチャブルエンティティ、貴様の健闘を祈る』
「そっちもな」
俺が答えると通信が切れる。艦長席から立ち上がって軽くのびをする。
「じゃあ行ってくるわ。もし向こうの兵隊が侵入してきたら撃退しておいてくれ」
『すでにアンドロイド兵200体を配備してまっす。艦長の無事なお帰りをお待ちしてまっす』
「おう。『ヴリトラ』のシステム乗っ取りも頼むな。じゃあ青奥寺、新良、双党、俺はちょっと行ってくるけどお前達はここにいてくれ」
「わかりました、お気をつけて」
「フィーマクードのボスはできれば生かして捕らえてください」
「先生が負けるとか全然思ってないからすごいよね~」
3人に見送られて『統合指揮所』を出る。通路を歩いていると艦内警報が鳴り、『『ウロボロス』内に侵入者を確認しました~。アンドロイド兵でっす』の通信。
『ヴリトラ』との接続通路のほうに近づいていくと、ガチャガチャと足音を立てて、のっぺりしたアンドロイド兵が銃を構えて歩いてくる。
俺を認めるとそいつらは一斉に射撃をしてくるが、すべて『アロープロテクト』の魔法に防がれる。
「ん~、どうするかなこいつら」
銃も含めて再利用できそうなので、破壊するのもためらわれる。仕方ないので『拘束』魔法で動きを止めてやり、次々と『空間魔法』に放り込むことにした。相手が無生物だと楽だな。
50体ほど処分すると接続通路にたどりついた。俺はそのまま通路に入っていく。当然のように向こうで待ち構えているアンドロイド兵の集中攻撃にさらされるが、なんの問題もない。
『本艦ニ敵対存在ガ侵入シマシタ。タダチニ対応シテクダサイ』
『ヴリトラ』側に入っていくと、早速アラートと共に艦内放送が響き渡る。もちろん通路はアンドロイド兵で身動きがとれないほどだ。俺を前後から挟み撃ちにして無数の銃撃を浴びせてくる。
「う~ん、向こうもさすがにこんなので倒せるとは思ってないよな。とすると他に切り札がいるか」
そんなことを口にしながらアンドロイド兵をガンガン『空間魔法』に入れていく。
『侵入者ガ活動ヲ継続中。所定ノ計画ニ従ッテ隔壁ヲ閉鎖シマス』
今向かっているのは『統合指揮所』だが、どうもそう簡単にはいかないようだ。通路の奥の隔壁が閉まっていくのが見える。
とはいえいざとなれば『掘削』魔法で穴を開ければいいだけなんだが、どうも隔壁の閉まり方に意図があるような気がする。アンドロイド兵が湧いてくる方向も一定で、ボスは俺をどこかに誘導したいようだ。
十中八九『切り札』のところに連れて行きたいのだろう。俺は素直にその策に乗ることにする。
『侵入者ガ貨物室ヘト接近シテイマス。重要物資ヲ確保シテクダサイ』
わざとらしい艦内放送だな。そんな見え透いた嘘をつかなくても誘いには乗るから心配しないでほしい。
隔壁の開いている方向、アンドロイドが出てくる方向に進むこと10分ほどで、大きな扉の前にたどりついた。艦内の構造が『ウロボロス』と同じなのでわかるが、この先は確かに貨物室、戦艦内部では珍しい広い空間になっているはずだ。
スイッチを操作すると、扉が簡単に開いた。
貨物室は半分ほどコンテナで占領されていた。もう半分はそのまま空間になっている。広さは学校の体育館ほどか。
俺が入っていくと、コンテナの影からぞろぞろと100人以上の人間が現れた。人間といってもそこは宇宙人、ほとんどは二足歩行のトカゲ、リザードマンみたいな姿だが、中にひとり見覚えのある白衣姿の男がいた。
半魚人みたいな見た目の宇宙人。名前はたしかジェンゲット、だったかな。フィーマクードが作ってる『違法者』、つまり改造強化人間を研究している研究所の主任みたいなやつだ。
「グケケ、ヤッパリ貴様ガアンタッチャブルエンティティダッタカ。オレノコトハ覚エテイルカ?」
「惑星ファーマクーンにいたやつだろ。捕まえたのに逃げたと聞いたな」
「ヤハリ捜査局トツナガッテイルワケカ。マアソンナコトハドウデモイイ。今日ハオマエニアノ時ノ借リヲ返シテヤル。ボスノオ許シガデタカラナ」
「あ~すまん。お前たちがボスの切り札ってことでいいのか?」
『グケケケッ、ソノ通リダ。前回ノ戦イデ得タデータヲフィードバックシテ完成シタ最強ノ『ドラゴニュート』タチダ。貴様ガドレダケ強クトモ勝テル道理ハナイ!』
大した自信だが、惑星ファーマクーンで戦った『ドラゴニュート』はたしかにそこそこは強かった。相手が俺じゃなければかなりの脅威ではある。
「オーケー、じゃあ始めてくれ」
『ソノ余裕ガドコマデモツカ、楽シマセテモラウトシヨウ。オ前タチ、ヤツヲヒネリ潰セ!』
半魚人男……ジェンゲットの指示により、トカゲ男たちが一斉に注射器のようなものを取り出して自分の首筋に当てた。