27章 宇宙艦隊大決戦 02
翌日土曜日、朝飯を食ったあと『ウロボロス』へと行くことにした。
例の宇宙犯罪組織『フィーマクード』が艦隊で攻めてきた時の『餌』の件を相談するためである。
もちろん新良とも打ち合わせが必要なので新良も呼んだ。青奥寺と双党は朝から『定在型深淵窟』対応なので呼べなかった。後で文句は言われるだろうが今回は仕方ない。
新良は俺とほぼ同時に『ウロボロス』に転送されてきた。
「新良、休みのところすまん」
「いえ、フィーマクードのことは私の管轄でもありますから。むしろ先生にすべてお願いをしないといけないのが申し訳ありません」
「べつに新良が悪いわけでもないだろ。フィーマクードの連中が勝手に攻めてくるだけなんだしな」
そんな話をしながら『統合指揮所』に入ると、いつものように銀髪猫耳美少女アンドロイド『ウロボちゃん』が出迎えてくれる。
『艦長おはようございまっす。本日はどのようなご用事でしょうか~』
「おうおはようさん。今日はフィーマクードの艦隊が攻めてくる件で相談がある」
『艦隊ですか~? それは困りますね~』
「ホントにな。それで直接地球に来られると大騒ぎになるから、なんとか地球から離れた場所でドンパチやりたいんだ。で、この『ウロボロス』自体を地球から離れたところに飛ばしておいてわざと向こうに捕捉させておびきよせたいんだが、可能か?」
俺が一気に言うと『ウロボちゃん』はちょっと首をかしげたあと、うなずく動作をして近くの制御盤に手を置いた。
地球を中心にした星系図みたいなものが表示され、恐らく艦隊が進んでくるであろうルートが矢印で表示される。その矢印の途中、地球から離れた場所に『ウロボロス』のアイコンが現れる。その近くにある星は火星……だろうか?
『地球の現有技術で観測できない場所となると、他の惑星の影ということになると思いまっす。そこに本艦を待機させラムダ空間内信号を発信し続ければ、フィーマクードの艦隊は気付くはずでっす』
「ふむ……。問題は向こうに捕捉されて『ウロボロス』が攻撃される時に、俺がこの船の中にいる状態にしたい。しかし俺は地球で仕事があって、敵が出てくるまで船の中でずっと待っているわけにもいかないんだ。そこで新良の『フォルトゥナ』と連携して上手くやれないかと思ってるんだが……」
『そうですね~……。『ウロボロス』が敵艦隊に捕捉され次第、『フォルトゥナ』に通信を送りまっす。その通信を受けてすぐに艦長が『フォルトゥナ』で駆けつけてくれれば大丈夫かもしれません』
「ほぼ新良が言った通りの感じか。新良、できるか?」
「それは問題ありません。ただその場合私もご一緒しないとなりません。プライベートな時間なら問題ありませんが、授業中だったりすると困ったことになるかもしれません」
「あ~、俺と新良が同時にいなくなったりしたらマズいよなあ。妙な噂が立ちそうだ」
「いっそのこと私は来週は公認欠席をとってずっと『フォルトゥナ』で待機しているというのはどうでしょうか?」
「なるほど。その方が対応も早くなっていいか」
「むしろ緊急事態なわけですから、そちらの方が当たり前かもしれませんね」
「だな。じゃあその形で頼む」
という感じで俺が仕事に穴を開けないための作戦はまとまった。
「それともう一つ。再来週にはまた『ウロボロス』を異世界に連れていくつもりなんだが、その間『深淵獣』対策ができなくなるのが少し怖い。なにかいい手はないか?」
『う~ん……さすがにそれは難しいでっす。もう一隻軍艦があればなんとかできますが、さすがに『ウロボロス』の工作システムでも作れませんね~』
「軍艦? それならフィーマクードから奪った強襲揚陸艦があるぞ。たぶん使えるのが3隻」
『本当ですか~? それならなんとかなるかもしれません』
「じゃあちょっと出してみるか」
というわけで、早速火星の影までラムダジャンプで移動、そこでフィーマクードの強襲揚陸艦3隻を『空間魔法』から取り出す。
見た目的には巨大戦艦『ウロボロス』の近くに、急に強襲揚陸艦3隻が出現した感じになる。
『艦長のその転送技術は何度見てもスゴイですね~。本艦もあの空間の中に入れられていたみたいですが、入った瞬間こちらの機能が停止するみたいなので分析できないんですよね~』
「空間内は時間が止まるみたいなんだが、入る方からすると機能が停止するような感じになるのか」
アンドロイドだからこそ体験できる『空間魔法』か。異世界と銀河連邦がコラボしたらさらに色々な技術が一気に進みそうだな。
『え~と……『カンザス』『ジンメル』『ドワルゴ』の3隻ですね。艦名はそのままでいいですか~?』
「新良、今の名前ってなにが元ネタだ?」
「たぶんどこかの星の衛星の名前だと思います。聞いたことがあります」
「それならそのままでいいか。『ウロボロス』、使えそうか?」
『システムインターセプト。全鑑動力系は異常なしでっす。外装と装備を一部修復すればもとの通り使えまっす。各艦ドローンを多く積んでいるので、むしろ『深淵獣』の監視には有用ですね~』
「最初から出してりゃよかったな。じゃあなんとか使えるようにしてくれ」
『了解でっす。さきほど言った宙域にとどまって作業をしまっす。もし敵艦隊に捕捉されたら防御に専念して艦長が来るのを待ちますね~』
「ああ、それで頼む。……ん? 新良どうした?」
どうやらいろいろ解決しそうでラッキーと思っていると、新良が光のない目でじとっと睨んでいるのに気づいた。
「いえ、先生に自重という言葉がないことを再確認していました」
「何度も言うが、使えるものは使うのが勇者流だからな。そういえば艦隊で攻めてくるならもう何隻か捕まえとくか。勇者艦隊でも作って宇宙の彼方に大航海に乗り出すのも面白いかもな」
「それはもう単なる侵略艦隊なのでは?」
「でももしかしたら銀河大魔王とかが現れて、宇宙の彼方から大艦隊が押し寄せてくるかもしれないぞ? そうなったときに必要だろう、勇者艦隊」
「先生が言うと冗談にならないのでやめてください」
「いや、さすがに今のは冗談にしかならないだろ……」
どうも新良の勇者に対する信頼感が別方向に高まっているようだ。
しかしいくら勇者の勘が鋭いとはいっても、冗談は冗談だからな。そこは区別をしてもらいたいものである。