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3章 青奥寺と九神  02

 放課後部活動を見に武道場に行くと、そこには道着姿の新良と、なぜか袴姿の青奥寺がいた。


 木刀を2本携えているところから見てもただ見学に来たわけではなさそうだ。


「なんで青奥寺がいるんだ?」


「先生、私も総合武術同好会の会員なんですけど」


「へ?」


 青奥寺の鋭い目が(とが)めるような光を帯びる。いや多分そこまで強い感じではないのだろうけど、いかんせん目つきがなあ……。


「ちなみにかがり……双党さんも会員です。今まではほとんど幽霊会員でしたが」


「あ~、名簿はちらっと見ただけだったから忘れてたよ。それで青奥寺がここにいるということは、練習がしたいってことか?」


「はい、新良さんが稽古をつけてもらっているというので、私もお願いできないかと思いまして」


「それは構わないが……やるのは剣術だよな」


「もちろんです」


 う~ん、青奥寺の格好を見る限り、特に防具もつけないで木刀で打ち合うみたいなことを想定してるんだろうか。


 さすがにそれを学校の同好会でやるのは怒られそうな気がするんだが……俺が打ち込まなければセーフか?


「わかった。ちょっとだけやってみようか」


 ただその前に、扉のところに集まってる他の女子部員をなんとかしとこう。さすがに木刀でガンガンやりあってるのを見せるのはマズい気がする。


「あ~、君たちは自分の練習に戻るように」


「え~、先生、少しだけ見学させてください」


「青奥寺さんが剣術やってるって知らなかったので、見てみたいんです」


「そうです、結構謎女子なので」


 あれ、新良璃々緒(りりお)ファンクラブ(?)かと思ってたんだけど、一応青奥寺も見学対象なのか。というか「謎女子」って……わかるけど。


「いいから。見世物じゃないんだし、散った散った」


「そうですけど……先生私たちの部活あんまり見てくれないじゃないですか」


 と痛い所をついてきたのは合気道部の部長だ。確か主藤早記(さき)という名前だったか。こちらも袴姿のポニーテール女子だ。


「そうは言ってもそっちは教えられないしなあ」


「だったら見てるだけでも。あ、じゃあ一緒に合気道やりませんか? 先生ならすぐ身につくと思うんですけど」


「そうだなあ。時々になるけど、教えてもらうかな」


「あっ、じゃあ剣道も」


「柔道もやりませんか?」


「いや柔道はまずくないか……」


 思えばこういうことは初めて言われた気がするな。


 というかもしかしたら皆今まで我慢していたのかもしれない。そういえば研修で「女子はきちんと見てあげることが大切です」と言われた気がするな。こういうことだったのかと反省する。


「今日のところはこっちを見るから、皆自分の部活に戻るように」


「は~い」


 ともあれ聞き分けがいいのは助かる。俺がふうと息を吐いて振り返ると、そこには冷たい目をした青奥寺と新良が……いや、この二人はいつもこの目つきか。


「じゃあちょっとやってみるか。青奥寺、木刀を一本貸してくれ」


「はい、お願いします」


「次は私の相手もお願いしますので」


 木刀を受け取って、道場の真ん中で青奥寺と向かい合う。新良は端に立って腕を組んで見る姿勢だ。


「いつでもいいぞ」


「参ります!」


 声と同時に来る。観客が新良だけだからといって、いきなり『疾歩(しっぽ)』を使うのはどうかと思うんだけどね……。


 胴を狙った攻撃を受け止め、そのまま受け流す。青奥寺は流れるように後ろに抜け、振り返りざまに連続で攻撃を仕掛けてくる。


 袈裟斬り、突き、(すね)うち、横()ぎ……時折『疾歩』を交えて打ち込まれる木刀には一切の手加減がない。


 完全に俺を格上だと信じてるということなんだろうけど……ちょっと殺気がこもってないですかね。


 俺は道場を円を描くように動きながら、すべての攻撃を受け止めてやる。もろに受け止めると木刀が折れそうなので、そこは勇者スキルで威力を逃がすのも忘れない。


 しばらく受けに回っていたが、青奥寺が物足りなそうな顔をするので、時折隙を見て反撃を行うことにする。


 青奥寺がぎりぎり反応できるように手加減をしつつ、大きな隙があった場合は寸止めで打ち込んで指摘してやる。


 20分ほど行ったが、スキルも使って全力で打ち込んできたことを考えれば十分なスタミナだろう。普通の人間ならそもそも『疾歩』すら使えないのだから。


「ここまでにしよう。『疾歩』と同時の攻撃はだいぶモノになってるな。できれば『疾歩』の予備動作をもっと小さくしよう」


「はい……分かりました。ありがとうございました……」


 青奥寺は肩を上下させながら、一礼して道場の端へ移動した。


 代わりに新良が出てきて防具を渡してくる。


「俺に休憩はないの?」


「必要ですか?」


 光のない目を向けてくる銀河連邦独立判事さん。なんかやっぱり殺気だってませんか。


 まあ相手が勇者だからな。それくらいの気合で来てもらったほうが鍛錬にはなるだろう。




 部活の指導を終え、その後職員室に戻って授業の用意をしていると9時を過ぎてしまった。


 まだ職員室には数名の先生が残っているが、俺は「お先に失礼します」と言って帰りの途についた。


 校門を出て坂道を下っていると、耳の後ろあたりにチリ……ッという感覚。また何かの前兆だろう。


 俺は『空間魔法』から手のひら大の水晶球を取り出した。『感知』スキルの能力を増幅する『龍の目』という魔道具だ。どこかの暗殺者集団のアジトにあったのをそのままパク……有効利用させてもらっている。


 『龍の目』を通してスキルを発動する。感知できたのは微小な魔力の渦、かなりの遠方だ。


「これはダンジョン……じゃなくて深淵窟か。小さいからでき始めっぽいな」


 聞いたところ青奥寺たちも何らかの方法で『深淵窟』の発生を感知しているらしいが、大きくならないと感知できないらしい。


 この『深淵窟』発生の情報を教えてもいいのだが…… 


「う~ん、先日のこともあるし、一応俺が見ておくか」


 先週潜った『深淵窟』が人為的に発生させられたものであるならば、今出現しようとしている『深淵窟』もそうである可能性が高い。そもそも『深淵窟』はそうそう発生するものではないらしいのだ。


 もちろん俺が積極的に関わる理由はないと言えばないのだが、まあでも勇者だしなあ……こういうのを見逃すと逆にストレスになるんだよな。職業病というやつだろうか。


 というわけで、俺はスキルで姿を消しつつ『風魔法』で空に舞い上がった。

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