26章 → 27章
―― アメリカ合衆国 西海岸某所
「ちょっとバルロ、それはないんじゃないかしら? そんな化物を放っておいて向こうの世界に戻るってのはどうかと思うわよ?」
「……そう言われてもあれは今の俺ではどうにもできん。想像よりあまりに上の男だった……」
「まさか貴方にそこまで言わせるとはねえ。まあ貴方がそこで退くのも驚きだけど。強者と戦って死ぬのが本望みたいな男だと思ってたわ」
「……俺も死にたがりというわけじゃない。それに今は……導師の目的の方が、俺個人の願いより重要だ……」
「まあそれはねえ。私だって導師の目的のために動いてるのは変わらないわ。でももしそんな男が攻めてきたら、こっちも尻尾巻いて逃げるしかないじゃない」
「……少なくとも下手に手を出すのはやめておけ。魔人衆が3人がかりでも倒せるかどうかという男だ。導師が力を取り戻せばあるいは……」
「でも少ししたら私たちの世界に来るっていってるんでしょ。その前に導師が力を取り戻すのは無理じゃない?」
「かもしれん……。その場合は魔人衆全員でかかるか、それとも……」
「導師の言う新天地にいったん退くか、ね。正直男一人のためにそこまで考えなきゃならないなんて業腹もいいところだけど」
「……仕方ない。俺たちはすでに導師という存在を知っている。それと同等の存在がこちらの世界にいても、それほど驚くことではない……」
「まったく貴方は、戦闘狂みたいな男のクセに妙にインテリなことを言うわよね。まあいいわ、こちらの国にもモンスターが出はじめて『アウトフォックス』もそちらに注意が移るだろうし、私はしばらくは大人しくしてるわ」
「……それがいい。クゼーロはそこを見誤ったのだろう。奴の犠牲を無駄にするわけにもいくまい……」
―― 惑星イエドプリオル フィーマクード総本部最上階 総統の間
「ボス、出撃の準備、すべて整いましたぜ」
「ようやくか。連邦のほうはどうなっている」
「議員と軍の幹部をつついて、少なくともひと月は連邦軍が動けないようにしてありやす。こっちが半分の船を出してもその隙をついてくることはできませんぜ」
「結構。ようやく『奴』に借りを返す時が来たようだな」
「へい。ところで『ウロボロス』はどうしやすか。正面から艦隊戦を仕掛ければ沈めるのはそう難しくはないと思いやすが」
「あれには金がかかっている。可能なら奪い返したいところだな」
「しかしさすがに『ウロボロス』を無傷で奪還するとなると、こちらにも相当な損害がでちまいますぜ」
「ふむ……。ギルメルト、例の兵士も配備は済んでいるのだな?」
「『ドラゴニュート』ですかい? ジェンゲットの尻を叩きましたんで、120体が調整済みで強襲揚陸艦に乗せる予定です」
「そいつらとアンドロイド兵に始末をさせるか。奴に餌をちらつかせれば白兵戦をさせることも可能だろう」
「どういうことですかい? 自分にはボスの考えていることが理解できないんでやすが……」
「ふふふ、奴からの通信を聞く限り、奴は相当な自信家のようだ。その性格と圧倒的な戦力差があれば、奴を単体でおびき出すことも可能ということだ。奴に関してはただ殺しただけでは飽きたりんからな。ギルメルト、『ドラゴニュート』は『ヴリトラ』に乗せろ。アンドロイド兵も1個大隊を乗せておけ。出撃は2日後だ」
「了解しやした。すぐに配置変換をしやす」
「さて、奴が本当にアンタッチャブルエンティティなのか、そこも知ってはおきたいところだな。未開惑星でそんなものを造っていたとなれば銀河連邦にとってもスキャンダルになるはずだが……むしろ欲しいのはその製造方法か。もしその情報を得ることができれば導師も喜ばれよう。ふふふ……」