26章 魔人衆バルロ 02
さすがすっかり暗くなった屋上でそれ以上の話はできないので、近くのファミレスに移動をすることにした。
美少女留学生と担任が夜の食事なんてのは見とがめられると大変なので、『隠形』魔法で欺瞞をし、『防音魔法』で声も聞こえないようにする。
そういえば青奥寺と新良の弁当によって食生活が充実しているおかげで、ファミレスに来るのも久しぶりだ。ちなみにかなりバチ当たりなことを言っている自覚はある。
「それでなにが聞きたい?」
「本音を言うと、なにを聞いていいのかもわからないのでぇすが……。まずはアイバセンセイから見て、クゼーロはどの程度の力を持っていたかを聞きたいでぇす。たとえば軍隊でいえば、どの程度の戦力をぶつければ勝てるか、とかでぇすね」
「ふむ……。クゼーロで言えば、基本的に普通の武器は通じない。銃はもちろん、ミサイルとか爆弾とかも普通に当てただけじゃすべて防がれる」
「そんなことができるのでぇすか?」
「物理的な力をほぼ完全に遮断できる魔法……能力を持っているんだ。もちろん無限に使えるわけじゃないから、その限界を超えて攻撃を続ければ倒せる」
「その限界はどのくらいなんでしょうか?」
「たぶん丸一日、24時間はぶっ続けで耐えるんじゃないかな。もちろん毒とかもだめだ。ああでも酸素がなければいけるか……?」
自分に置き換えるとどうだろうか。俺は酸素なしで活動できるかというと……たぶんできるんだよな。なにしろ魔法で空気が作り出せるからな。
「すまん、多分ダメだ。BC兵器も通じないはずだ」
「ん~、そうでぇすね。それは実はもう試していまぁす。これは秘密でぇすが」
レアが人差し指を口の前に当てるポーズをする。なんか普通に可愛いから困るな。こんなところ今『深淵窟』で戦ってる誰かに見られたら……首筋に刃物が突きつけられた感覚が走る。
「まあそういうわけだ。もちろん強力な攻撃を与えれば消耗は激しくなるし、向こうだって攻撃してくるからその分防御に回せる力が減って、もっと早くダメージは与えられるようになるはずだけどな」
「そうなんでぇすね……。話を聞いただけで気が遠くなりそうでぇす。でもそれなら物量で攻めればなんとかなるということでぇすね」
「基本的にはな。ただ向こうだって動き回るだろうし攻撃もしてくるし、そのうえ手下もいるだろうから、実際正面からやりあったらこっちもボロボロになるぞ。下手するとそれだけで国が傾く」
「う~、やっぱりそのレベルなんでぇすね……。それで、アイバセンセイはそんな相手をどうやって倒したんでぇすか?」
探るような目を向けてくるが、レアにとってはそこが一番重要な情報だろうな。さてどうしたものか。といってもここまできたら隠す意味もないんだよな。結局俺の自爆である。
「普通に正面から戦って倒した感じだな。もちろん『白狐』とかの支援込みでだけど」
「ということは、アイバセンセイはクゼーロと同じくらい強いということなんでぇすよね」
「ん~、まあそうなる……かな」
俺が認めると、レアは急にぽけ~っとした顔になった。
「認めちゃうんでぇすか? センセイはそのことを隠そうとしていまぁしたよね?」
「まあ、ちょっとしたいたずら心ってやつだ。こっちから言いふらすことでもないしな」
「知られるとメンドウとか、そういうことではないのでぇすか」
「隠す方が面倒だしな。どうせ隠してもハリソンさんみたいな人はさらに来るだろ?」
「まあそうでぇすね。ステーツとしても、クリムゾントワイライトについては国の威信がかかっている問題でぇすので、解決の糸口があるならそこは集中的に調べると思いまぁす」
まあそうだよなぁ……と思いつつ、俺は一旦会話を打ち切って、運ばれてきた料理を食べ始めた。
事態が大きく動いたのはその翌日だった。
といっても俺の周辺で起きたわけではない。テレビ画面の向こうでその事態は起きていた。
『アメリカ、デトロイト近郊で多くの住人が謎の野生動物に襲われるという事件が、現地時間の5日午後に起きました。今のところ死者は確認されてはいないものの、被害者は相当数に上り、州警察は付近一帯を封鎖して対応にあたっているとのことです。こちらはスマートフォン撮影による映像ですが、大きな芋虫のような生物がうごめいているのが確認できます……」
そのニュースを俺は夜アパートで見ていたのだが、テレビ画面にどこかで見た芋虫型の『丁型深淵獣』が映っているのを見て新良の弁当を少し吹き出してしまった。
「あ~、ついに日本以外にもでちまったかあ。まあそりゃそうだよなあ……」
ニュースを見る限り深淵獣は2~3体のようで、まだ丁型なので辛うじて被害は少ない感じだが、もし丙型以上が出てきたらちょっと笑えないことになりそうだ。
そのニュースから10分後に俺のスマホに電話がかかってきた。相手は青奥寺だ。
「おうどうした?」
『先生、さきほどのニュースは御覧になりましたか?』
「アメリカに深淵獣がでたってやつか?」
『そうです。やっぱり先生も深淵獣だと思いますよね』
「ほかにいないしな、あんなモンスターは」
『もしこの後も深淵獣の出現が増えるとしたら、先生はどうしたらいいと思いますか?』
「まあ現地の人に頑張ってもらうしかないとは思うけどな。青奥寺の家の方に話が行くことはあるのか?」
『うちは国の方ともつながりがあるので、そちらから協力を打診されることはあるかもしれません。ただこちらも人数は足りていないので、対応できるかといわれると無理だという気はします』
「だよなあ。まあしかし、犠牲が出るのを見過ごすのもちょっと気持ちが悪いといえば悪いんだよな。事情を知っている身としては」
『ふふっ、先生ならそうおっしゃると思ってました』
「しかしどうするかな……。ああ、ウロボロスで調べてみりゃいいのか。すまん青奥寺、とりあえずこっちで調べてみるわ。一度切るぞ」
『あっ先生、もしウロボロスに行くなら私も。情報は知っておきたいです』
「そうか? じゃあ転送するから部屋にいといてくれ」
『はい! 待ってます!』
俺は端末ブレスレットからウロボロスに指示を出し、第二の自宅へと赴いた。