26章 留学生 08
放課後はレアを連れて『総合武術同好会』へと顔を出した。
例の『定在型深淵窟』対応についても多少余裕がでてきたらしく、新良以外にも、青奥寺と双党も顔を出すことになっている。ただし中等部の2人は継続して不参加だ。絢斗の戦闘能力と『聖女さん』こと三留間さんの治癒能力は現場ではかなり重要なので仕方ない。もちろん大学生の雨乃嬢も『深淵窟』対応優先である。
というわけで道場には結局2年1組の3人娘+レアの4人で活動することになる。
「アオウジサン、ニイラサン、ソウトウサン、よろしくお願いしまぁす」
道着姿のレアが合掌をしながら礼をする。古い外国映画の怪しい日本人みたいだ。
「ハリソンさんもそれなりに格闘技の素養はあるようなので、3人はそれぞれ自分が学んでいる武術のさわりを教える感じでやって欲しい」
一応青奥寺にも新良にもレアのことは伝えてあるので、それぞれ怪しまれない程度に武術的な交流はできるはずだ。せっかくだから3人娘同士も互いが身につけている技術を教え合うのもいいだろう。
今日は新良が『新銀河流』を教えることになっていたので、新良がレアと青奥寺、双党相手にレクチャーをはじめた。このあたり何も指導しなくても勝手にやってくれるので本当に優秀な生徒たちである。
新良が身につけている『新銀河流』は、術理そのものは地球にある武術とほとんど同じである。感じとしてはキックボクシングに柔術を加えた感じだろうか。
「そう、『新銀河流』の回し蹴りは膝は真っすぐ出して、そこから回すように。うん、いいと思う」
「これはムエタイの蹴りに近い感じです?」
「そうかもしれない。それで……」
互いに経験者なので話が早いようだ。少し技を教えた後は反復練習に入るが、そういえば青奥寺が突きや蹴りをしているのは初めて見たな。青奥寺家の剣術は体術も一応学ぶようで、やはり明らかに素人ではない。
「アオウジサンの武術はなんですか? 空手とも違うみたいでぇすね」
「これは私の家に伝わる武術なの。中心は剣術なんだけど、一応無手での技も習うから」
「剣術? 剣道とは違うのですか?」
「うん。基本的に真剣を使うことが前提の武術だから。それに想定する相手も違うから、剣道とは全然違うかな」
「想定する相手が違う……人間相手ではないということでぇす?」
「ええと……まあそういうことになるかな。獣とか」
「ワオ、そんな剣術があるのですね。興味深いでぇす!」
青奥寺は異文化交流にはちょっと慣れていないようだ。マズそうな情報をぽろっともらしたりしてるし。
まあそんな感じで俺も教師として彼女たちの異文化交流を眺めていたり、ミット打ちの練習の補助をやったりしていたのだが、一通り反復練習が終わった後にレアと新良がやってきた。
「先生、ちょっと組手の相手をお願いできませんか? レアさんに体験をさせたいので」
「よろしくお願いしまぁす」
ええ、俺のことは一応隠すみたいな話を事前にしてたはずなんだけど……
まあ組手の相手くらいならちょっと格闘技のできる先生ってことで通せるか。むしろ顧問が経験者だとい方が自然かもしれないな。
「分かった、防具はつけてくれよ」
「もちろんです」
新良がいつものヘッドギアとグローブを渡してくる。もちろんレアにもだ。
防具をつけたレアは軽くステップを取りながらパンチやキックを出すが、その動きもやはり慣れた感じだ。問題は動くたびに激しく揺れることだが、もちろんそこは気づかぬフリをする。
正直青奥寺や新良もかなりあるからな。このあたりはもう慣れている、ということにしておきたい。
「じゃあ俺はそんなに攻撃はしないから、自由に打ってきていいよ」
「わかりました、いきまぁすね!」
新良に一応合図をしてもらって組手に入る。
ステップを刻んで間合いを測りながら、レアが探るように詰めてくる。
軽く左のジャブから右のフック、そしてローキックまで流れるようにつなげてくる。もちろん手加減は十分にしているようだ。まあ彼女は俺の力を知ってるわけじゃないからな。新良も一番初めはそうだった。
「アイバセンセイ、結構強いでぇすね!」
俺が多少できると分かるとレアの回転が上がってくる。彼女の出す技は自分の体勢を大きく崩さないものが多く、組技まで視野に入れた実戦的な技術を身につけていることがわかる。
打撃の強さもだんだんと遠慮がなくなってくるんだが……ここらへんで痛そうな顔でもしておいたほうがいいんだろうか?
「隙ありでぇす!」
俺が一瞬悩んでいたら、なんとレアは俺の腕を取って飛び上がりつつ両足を腕に絡めてきた。飛びつき腕十字って技なんだけどいきなりなにしてんのこの娘!?
正直片腕一本でレアを持ち上げるのは容易いんだが、それをするとさすがに常人じゃないことがバレてしまうので仕方なく倒れることにする。
レアはそのまま腕十字の体勢に入る。でもそんなに腕をひきつけられたら当たるんだよなあ、柔らかいモノに。
「ギブアップギブアップ」
俺がレアの足を叩いてタップすると、レアは「ムフーッ」とドヤ顔をして俺から離れた。
まあ可愛いからいいけど……ちょっと新良たちが睨んでるのはなんででしょうかね。
ちなみにその後なぜかレアが先生となって、俺に飛びつき腕十字をかける練習が始まった。百歩譲ってそれはいいのだが、3人とも妙に俺の腕を胸にくっつけようとしていた気がするんだが……いや気のせいだな気のせい。
そんなこと意識するだけで信頼関係が失われてしまう。無意識のうちに勇者をハメようとは、つくづく恐ろしい娘たちである。