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26章 留学生  06

 明けて土曜日の朝、リーララを追い出した俺は、そのまま九神邸に向かった。


 さすがに執事の中太刀氏に迎えに来てもらうのは申し訳ないので、姿を隠しつつ飛んでいく。


 すでに慣れた感のある九神家の応接間にて、九神世海(せかい)の父であるさわやか美形紳士の仁真(じんま)氏と対面する。一見するとさわやかな感じのビジネスマンだが、グループ社員1万5千人を擁する『九神商事』の社長さんである。


 ソファには金髪縦ロールお嬢様の九神世海本人も座っていて、その後ろにはメイドの宇佐さんが控えていてる。


「今日はお忙しいところ時間を頂戴(ちょうだい)して申し訳ありません。どうしても相談したいことがあってお伺いしました」


 俺が頭をさげると、仁真氏は軽く手をあげてそれを止める仕草をした。


「いえいえ、相羽先生からの頼みとあれば是非もありません。こちらでなにかご恩返しができるのであれば、なんなりとご相談ください」


「ありがとうございます。例の『深淵窟』の対処も大変なところだと思いますが、そちらは九神家の方ではなにか問題のようなものはでていますか?」


「いえ、今のところは宇佐からはなにも上がってはきていません。先生にいただいたりお借りしたりしている武器もありまして、特に被害もないと聞いております。あと彼女……三留間(みるま)さんでしたか。彼女の治癒能力も大きいようですね。彼女についても相羽先生のご助力があったとか」


 三留間さんは明蘭学園中等部の生徒で、強力な治癒能力をもった『聖女さん』である。『定在型深淵窟』での対処において彼女の能力は非常に大きな意味をもつ。回復役(ヒーラー)の有無は部隊の継戦能力を大きく左右するからだ。


「宇佐家の方々は格闘戦が主体のようですから、三留間さんのような能力をもった人間の存在は重要でしょうね。ええと、それで今日伺った理由なのですが、実はその『深淵窟』の根本的な問題に関しての相談をしたかったからなのです」


「ほう、『深淵窟』の問題、ですか。もちろんそれは九神としても聞いておかなければいけない話ですね」


「はい。ただ少しだけ突拍子もない話になりますのでご了承ください。まずそもそも、『深淵窟』がなぜ現れたかということなのですが――」


 俺は仁真氏と、身を乗り出してきた九神世海を相手に、『深淵窟』発生に関する仮説を一通り説明した。


『魔導廃棄物』という物質が『深淵窟』と『深淵獣』を生み出していること。その『魔導廃棄物』というのは、異世界で生み出され『次元環』を通ってこちらに流れてきているとこと。その『魔導廃棄物』は、異世界の文明的活動によって生み出されていること。


 すべて話すのに、質疑応答もあって30分以上かかっただろうか。話が一段落すると、仁真氏は腕を組んでソファにもたれかかり、九神世海は少し呆れたような顔で俺を眺め、宇佐さんはなぜかうっとりした顔で俺をみつめるようになった。


 一通り脳内で情報を整理したのか、仁真氏が口を開く。


「……なるほど、確かに突飛ではありますが、相羽先生がおっしゃるのですからすべて事実なのでしょうね。その異世界で『魔導廃棄物』というものが発生しているというのも、地球での公害のようなものと考えれば納得がいきます。それが次元を超えて……というのは想像を絶するところではありますが」


「それが当然だと思います」


「問題は、その『魔導廃棄物』の排出が続いたらどうなるのかということでしょうが、先生としてはどうお考えなのですか? やはり『深淵窟』が今以上に発生するようになると?」


「その可能性は高いと思います。向こうの世界でもモンスター……深淵獣が数千体あふれ出てくる現象が起きています。こちらでも似たような現象が今後起きてもおかしくはありません」


「数千体の深淵獣とは……。下手をすると都市がまるごと消滅するレベルですね。九神は『深淵の雫』を扱う家ではありますが、さすがにそれは座視できることではありません」


 確かに九神家は深淵獣から取れる『深淵の雫』を扱うことで商売をしたり権力者と渡りをつけているようだから、『深淵獣』が出現すること自体は彼らにとってマイナスではないんだよな。たださすがにそれも程度問題、というのは九神家も理解はしているということだろう。


「それで先生は、我々になにを相談にいらっしゃったのでしょうか? 今のお話ですと、協力できることがありそうにも思えないのですが」


「実はさきほどから話題になる『魔導廃棄物』なのですが、これは向こうの世界で『深淵の雫』を加工して、道具を作るときに発生しているものなのです。そこで質問なのですが、九神家の技術で雫を加工する時に、『魔導廃棄物』のようなものは発生しているのでしょうか?」


 俺の質問に、仁真氏は九神世海をちらりと見て、それから首を横に振った。


「いえ、我々が雫を扱うかぎりにおいては、そのようなものが発生するということはありません。また過去にそのようなものが発生したという話も聞いたことがありません」


「そうですか。お答えいただきありがとうございます」


 なるほど、それなら異世界の『魔導廃棄物』排出の問題を根本的に解決することができるかもしれない。


 まあこれは完全に素人考えではあるが、やってみる価値はあるだろう。だた問題は、九神家の協力が得られるかどうかだが……


「でしたらさらに相談があるのですが、九神家の加工技術を、向こうの世界に伝えていただくことは可能でしょうか。もし向こうの世界の『深淵の雫』の加工技術が向上すれば、『魔導廃棄物』は減少させられると思うのです。あちらの世界の女王陛下も、その技術があれば対応してくれると思うのですが――」

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― 新着の感想 ―
アメリカのようなこちらの世界の日本を除く他の国々では、シードを加工する時廃棄物は出ないのですか?
[良い点] 九神の技術自体、元は向こうから伝えられたものだったはずですよね。 向こうの内乱で技術が正しく伝わらなかったのか、それとも九神が独自に改良したのか。 ……向こうの“魔王の意思”とやらが技術を…
[一言] さて、先生と駆け引きできる内容が有ってよかった言うべきか?
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