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26章 留学生  05

 仕事を終えてアパートに帰ると、いつものとおり褐色ひねくれ娘のリーララが俺のベッドでスマホをいじっていた。


「おじさん先生お帰り」


「ああただいま。っていうかもうすっかり当たり前みたいにいるのなお前」


「今さらでしょ。それより今日はおじさん先生にちょっと聞きたいこととか相談があるんだけど」


「なにごとだ?」


 リーララが俺に相談なんて初めてじゃないだろうか。


 内心構えていると、ベッドの上に座り直したリーララは珍しく真面目な顔になった。


「おじさん先生はさ、結局あっちの世界のことはどうするつもりなの? なんか色々と調べて分かったこともあるんでしょ? それになんか戦争みたいのも始まりそうだし」


「ん~、どっちかって言うと分からないことが増えただけだった気もするんだけどな。とりあえず『魔導廃棄物』と、王国で内戦がはじまりそうなのは気にはなるな」


「じゃあなにかする気はあるんだ」


「今のところはなくはない、程度だな。っていうかなんだかんだ言ってやっぱりお前も気になってるんじゃないか」


「別にわたしのことはどうでもいいでしょ」


 口を突き出してよそ見をするひねくれ娘。


 しかしこいつはずっと「あっちの世界に未練はない」みたいなことを言っていたんだが、実際行ってみたらきちんとつながりのある人たちがいたんだよな。


 しかも仲が悪いどころかふつうに家族みたいな関係に見えた。なのに「どうでもいい」なんて態度を取っていたのはなんともリーララらしいというか……ああいや、そうじゃないのか。


「孤児院のことが気になるんだろ? もしかして他にも気になるやつとかもいるんじゃないか?」


「いないいない。孤児院だって別にそこまで気になってないし」


「俺に言えばいつでも戻れるんだ。無理に気にならないフリをする必要はないと思うぞ」


「はあ!? べ、別にそんなんじゃないし! 勝手にわたしを寂しがりやみたいに判断しないでくれる!?」


 飛び跳ねるように反応するから丸わかりだな。


 要するにこいつは戻れないと思ってたから「向こうの世界なんてどうでもいい」と自分に言い聞かせてたんだろう。まったく不器用というかあまのじゃくというか。でもそういうのは勇者的に急所なんだよなあ。


「ちょっ!? 急に優しい目になるのメッチャキモいんですけど! 勝手に同情されたりするの嫌いだからやめてよね!」


「嫌いならもっと同情してやる。お前も嫌なことされる辛さを思い知るがいい」


「なにそれマジキモっ! いまさら仕返ししようとかおじさん先生性格悪すぎだよねっ!」


「ククク、なにを言われようともお前への同情はやめん。それでどうして欲しいんだ? あの孤児院が内戦に巻き込まれないように侯爵とやらを叩いて欲しいのか? モンスターが出ないように『魔導廃棄物』をなんとかして欲しいのか? んん? 優しいリーララちゃん」


「むぐぐ……っ!」


 ベッドの上で立ち上がって、顔を真っ赤にして俺を睨むリーララ。


 まったく、素直になれば楽になれるのに、普段イキがってるからこういう時に折れることができなくなるんだと気づいて欲しいもんだ。


 ま、あまり追い込むのも大人げないのでここは退いてやろう。


「まあ冗談はこのへんにしといて、あっちの世界については前にも言ったとおり、夏休みに入ってからそれなりの対応はするさ。俺だってあの子たちがどうこうなるのはいい気分はしないしな」


 俺が力を抜いてそう言うと、リーララはどかっとベッドの上に座り直した。


「それでどこまで手を出すの? 侯爵とかはおじさん先生がぶっとばしちゃえば終わるだろうけど、『魔導廃棄物』はどうにもなんないでしょ」


「まあそうだな。ただそれについてはちょっと考えていることがある。そっちの流れ次第では解決が近づくかもしれん」


「ふぅん? まあおじさん先生がそう言うならなにかあるんだろうけど……あ、夏休みは私もまた一緒に行くからね」


「わかってる。もとからそのつもりだ」


「それならいいけど。あ、それと清音も連れてってね」


「は? もしかして清音ちゃんに話したのか? お前なあ……」


 俺が文句を言おうとすると、リーララはムッとした顔になった。


「だってしょうがないでしょ、わたしが違う世界から来たってことはもう言ってあるし。それに清音ってあんななのにすごく勘が鋭いの。月曜日会ったらすぐに『なにかあったの?』とか聞いてくるんだから」


「あ~まあ清音ちゃんは魔力にも敏感だしなあ……」


「ね、だからいっそのこと清音を魔法使いにしちゃわない? あの素質は放っておくにはもったいないと思うんだよね」


「いやいや、さすがにそれはマズいだろ。魔法を使えるようにするのはともかく、それをこっちの世界で知られたら清音ちゃんが面倒に巻き込まれるんだぞ」


「別にわたしとかおじさん先生がいれば問題ないでしょ。むしろ清音はいろいろ知っちゃってるし、魔法が使えるようになってたほうが良くない?」


「そりゃまあそうかもしれないけどな……」


 なんかいきなり面倒な話が持ち上がってきたな。


 断ればいいだけではあるんだが、俺個人としても彼女の素質はもったいない気はしないでもないんだよな。ただ日本で魔法が使えても役に立つかというと……少なくとも表の世界では使えないからなあ。


「とりあえず魔力トレーニングだけはわたしの方でしとくから。清音が夏休みまでに魔力が使えるようになったら考えてあげてくれない?」


「……まあ一応話としては聞いとく」


 清音ちゃんの魔力の素質については以前山城先生にも話はしたから、魔力トレーニングくらいは別に問題はないけど……娘さんを異世界に連れて行って魔法を使えるようにしてきます、なんてどう考えても許してくれるはずないよなあ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 大丈夫 生涯に責任持てば 山城先生も許してくれるよ
[一言] 魔法使い第一号(?)は清音ちゃんか!? 是非お母様の山城先生も一緒に魔法使いになって、魔女と魔女っ子の母子に… …山城先生が魔女っ子になってもいいのよ?
[一言] 精々娘とか妹扱いだから強力なライバルだけど援軍にもなる清音ちゃん喚ばなきゃね☆彡
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