24章 再訪1日目 14
「どうやら特Ⅱ型以外は対応できそうですね。問題は特Ⅱ型ですが……」
特撮映画さながらの映像を見ていたラミーエル女王陛下がつぶやく。
見ている間に、再び飛んできた攻撃機が特Ⅱ型の『クラーケンもどき』に集中攻撃を始めた。両翼の懸架装置につながれた筒のようなものから火の槍が連続で射出され、巨大イカの足や本体に突き刺さる。巨大怪獣に攻撃を加える自衛隊みたいな絵面だが、怪獣映画と違ってきちんと攻撃は通用しているようだ。
『クラーケンもどき』も数十発の『水流撃』を放って反撃をする。2機の攻撃機が回避できずに撃墜されていたが、乗組員が脱出したのが見える。こっちもパラシュートがあるんだな。
一方で『クラーケンもどき』は足を次々と失い、本体も穴だらけにされて、最後は倒れて黒い霧になって消えていった。
「さすがに被害なしで倒すことは難しいですか……。それでもあの大群に加えて特Ⅱ型を少ない被害で倒せたのは朗報ですね。アイバさんのおかげで早期発見できたのも大きかったと思います。ありがとうございました」
ずっと緊張気味の女王陛下だったが、勝利の映像を見てホッとしたように俺に頭を下げた。
「自分が勇者をやっていた時代とはやはり全然違いますね。あの手のモンスターの氾濫は何度も経験がありますが、あそこまで一方的に討伐する場面は見たことがありません」
「そうですか。しかし何度も経験されたということは、当時はあのような大量発生が頻繁に起こったということですか?」
「多い時は月一でありましたね。最後は国の軍もボロボロで、勇者パーティ4人だけで5千匹くらい相手にしたときもあります」
「は、はあ……」
女王陛下が首をひねるのも仕方ないだろう。アレは自分でもアホだったと思う。
そんなやりとりをしているとカーミラが俺の腕をつついてきた。
「ねえ先生、それじゃさっきのモンスターの大量発生は今後も起こる可能性があるってこと?」
「どうだろうな。『ウロボロス』、さっきの現象は今後起こる可能性はありそうか?」
『シミュレーションしてみますね~。え~と……今後30日以内に起こる可能性は83%ですね~。60日以内になると99.9%でっす』
その答えを聞いて真っ青な顔になったのはもちろん女王陛下だ。いやまあそりゃそうだろう。月一で軍を動かしていたらそれだけあっというまに国の財政は火の車だ。もちろん人的被害も出るだろう。
『あっ。艦長、さっきと同じ現象がまた起きるみたいですよ~。今度は西側20キロ地点ですね~。近くに小さな町があるみたいです』
「発生が早くないか?」
『ちょっと不自然かもしれません~。人為的な操作が加わっている可能性もありますね~』
『ウロボちゃん』の言葉に女王陛下の眉が厳しく寄る。「人為的な操作」という情報は、確かに重大な意味を持つはずだ。
画像が切り替わり、今度は一面に畑の広がる風景が映し出された。新たな『スタンピード』の発生予定場所だろう。
カメラがズームアウトすると、画面の端に100棟くらいの建物が並ぶ街が映る。距離は1キロもない感じだ。『スタンピード』が発生したらちょっとマズいな。
畑の真ん中に先程と同じ穴が開いたのを見て、女王陛下があわてて執務机に向かう。が、恐らく今から軍を出しても間に合わないだろう。
「先生、これはさすがに放っておけないんじゃないかしら」
カーミラが俺を見る眼差しは普段と違って真剣だった。なんだ、結構普通の感性も持ってるんだなこいつ。
「あ~、女王陛下、ここは俺がやりますよ。ただし後でお礼はいただきますね」
「え……っ!? しかし……」
「ラミィ、今は勇者様に頼っておいた方がいいわよぉ。大丈夫、法外なものを寄越せとかは言わないはずだから」
カーミラが女王陛下をなだめてるのを横目に、俺は『ウロボロス』に命じて映像用の端末を転送させた。様子は見てもらったほうがいいだろう。
「『ウロボロス』、現場の上空100メートルのところに転送してくれ」
『了解でっす。転送しまっす』
俺が『機動』魔法を発動すると同時に、ラムダ転送の光が俺を包んだ。
俺は今上空100メートルにいる。
眼下には広大な畑が広がり、真下には開いたばかりの大穴がある。
見る間にコールタールのような『魔導廃棄物』が穴の底からせりあがってきて、地上に達するとあふれて広がっていく。
あふれた『魔導廃棄物』は次々とモンスターに変化していくが、そのモンスターどもは思った通り近くの街に向かって行進をはじめた。
「ザコは魔法でいいか。めんどくさいし」
『並列処理』で魔法陣を瞬時に100以上展開、光の矢による絨毯爆撃を開始する。
あわれなモンスターたちは、なにが起こったのかも分からないうちに、雨のように降り注ぐ光の矢に次々貫かれて消えていく。甲型までは一撃、特Ⅰ型も2~3発で消滅する。やはりこの『ライトアロー』は燃費がいい魔法だ。
アホみたいに湧き出てくるモンスターを全滅させると、最後に残った『魔導廃棄物』が集まり『特Ⅱ型』が出現した。
今度はクラーケンではなく、地球の『深淵窟』で見た三つ首の超大型ドラゴンだった。
俺は『魔剣ディアブラ』を取り出して突っ込んでいく。一度戦った相手なのでお遊びはなしだ。斬撃を飛ばして三つの頭を瞬時に斬り落とす。うむ、『ディアブラ』も喜んでるな。
俺が特Ⅱ型の『深淵の雫』を回収しているとリストバンドに着信。
『艦長、また違う場所で『魔導廃棄物』が出てくるみたいですよ~』
「マジか。『ウロボロス』、その場所になにか変なものが設置されたりしてないか?」
『発生予想地点の地下1メートルのところになにか反応がありまっす』
「そこに転送してくれ」
『了解でっす』
転送先は荒野だった。周囲は赤茶けた大地と遠くに見える岩山しかない。
「この真下か?」
『場所を光で示しますね~』
リストバンドからレーザー光が伸び、地面に赤い点を示した。
俺はその地面に対して『掘削』魔法を発動する。
1メートルほど掘ると、確かに銀色をした円筒形の魔道具が埋まっていた。見た感じまだ新しいので設置されたばかりのように見える。
とはいえこれが何なのかを詮索するのは後だ。俺はそれを拾いあげて『空間魔法』に放り込んだ。
『艦長、そろそろその場所に穴が開きますよ~』
「了解。それと『ウロボロス』、お前の兵装がモンスターに通じるか見ておこう。上空まで来てくれるか」
『了解でっす。1分でいきますね~』
俺が『機動』魔法で飛び上がると、ほぼ同時に地面が陥没して大穴が開いた。
例によって『魔導廃棄物』があふれてモンスターが大量出現する。
『艦長、到着しました~。地上を攻撃できる兵装としては、パルスラムダキャノンとレールガンがお勧めでっす』
「両方試そう。まずはパルスなんとかからだ」
『攻撃時は光学迷彩シールドは解除になりますが大丈夫ですか~?』
「あ~、まあいいだろ、やってくれ」
『了解でっす』
俺の頭上、いきなり全長600メートルの赤黒い巨大宇宙戦艦が現れる。やっぱり近くで見ると大迫力だ。
『ウロボロス』の船体のあちこちにある半球状の砲塔が動いて、地上のモンスターの群にむかって射撃をはじめた。
パルスラムダキャノンというのは要するにレーザーを連射する兵器のようだ。パパパッと20本以上の光線が同時に閃いて地上のモンスターに突き刺さる。
通常兵器は効きづらいという話だったが、やはり艦載兵器となるとレベルが違うようだ。俺が放った『ライトアロー』と同程度の効果はあるようで、あっという間に数千はいたはずのモンスターが半分になる。
『次はレールガンいきますね~。対象が多いので散弾を使用しまっす』
今度は船体の各所にある長い砲身を持った砲塔が旋回、地上に向けて射撃を開始する。
レールガンというの電磁的な力で実体弾を飛ばす兵器だったはずだ。散弾というのは小さな弾を少し拡散させながら飛ばすもので、着弾すると無数の弾丸によって地面が直径5メートルくらいの円形に抉れる。もちろんモンスターがそれを食らうと一撃でバラバラだ。いやこれはエグい。
最後に『特Ⅱ型』のクラーケンもどきが出てきた。足を入れると全長100メートルくらいになるクラーケンもどきだが、『ウロボロス』と比べると子どもに見える。
クラーケンもどきは『ウロボロス』を認識して、威嚇のポーズをとりつつ上空に向かって水流撃を放った。だが『ウロボロス』のシールドは破れないようだ。水の槍は表面でなにかにぶつかったように弾け飛ぶ。
『大型の危険生物を確認。レールガンを徹甲弾に変更しまっす。射撃開始~』
6基のレールガンから一斉に放たれた徹甲弾がクラーケンもどきの本体に着弾。最初の一斉射には耐えたクラーケンもどきだが、さらに斉射されると力を失って消えた。
『特Ⅱ型』って四天王に近い力があるんだけど、二回の攻撃で倒せるのはかなりヤバいな『ウロボロス』。まあクラーケンもどきは物理耐性が低そうだったし、防御魔法を使ってなかったから仕方ないか。
『う~ん、想定より与えるダメージが小さかった気がしますね~。観測できない力場を持った生物だったようです』
「それを力押しで倒せるんだから大したもんだ。ところでこれで終わりか?」
『今のところ異常が起きそうな場所はなさそうですね~』
「そうか。まあ俺がいなければ3箇所でもそれなりの被害は出てたはずだな。しかし人為的だったとして、本気で王都を落とそうって感じでもないか。警告とかそんな感じか?」
『さきほどの装置を調べるとなにか分かるんじゃないでしょうか~』
「あ~そうだな。よし、女王陛下の部屋に転送してくれ。『ウロボロス』はさっきまでと同じく地上の観測を続行」
『了解でっす。転送しまっす』
さて、ちょっと異世界に戻っただけでいろいろと巻き込まれた感じだが、鬼が出るか蛇が出るか。どちらにしても美人の女王陛下の眉間にしわができそうだな。