24章 再訪1日目 05
「うわ最低。おじさん先生こんな女の子を宇宙船に監禁してるとかあり得ないし」
「本当ねえ。見たことない娘だけど、もしかして皆に秘密にしてた女の子かしらぁ。先生はやっぱりこれくらいの娘が好みなのぉ?」
「だからこいつはこの船のAIが作ったアンドロイドなんだっての。中身は機械なの」
さすがに冤罪なのできちっと説明をすると2人は一応納得してくれた。と言っても俺の言葉によってというより、アンドロイド『ウロボちゃん』が自分の機械の部分を見せたりしたからだが。
「しかしアンドロイドを作るとは聞いてたが、その姿にするとは聞いてなかったな」
『せっかくなのでコミュニケーション用のインターフェースとして製造してみましたっ。あっ、でもこの見た目はお気に召しませんか? いつでも艦長の好みに作り替えますけどっ』
と言いつつ目をウルウルさせて悲しそうな顔をする『ウロボちゃん』。銀河連邦のアンドロイドは芸が細かいな。
「いやそのままでいい。そういえば他の乗組員も同じ見た目にしてるのか?」
『今のところ他のクルー用アンドロイドはここまで作り込んでいません。こんな感じですねっ』
モニターに艦内通路を歩いているアンドロイドの姿が映し出される。
それはのっぺりしたデッサン用人形みたいな見た目だった。機能的ではあるんだろうが、なんかちょっと不気味だな。
「とりあえず数を揃えて、その後余裕ができたら見た目にも気を使ってやってくれ」
『わかりました~。艦長にいただいた材料はいっぱいあるで大丈夫でっす。あっ、それから未知の素材がいくつかみつかったのですが、そちらも使用して大丈夫でしょうか~?』
「未知の素材?」
そんなものはないはずだが……と思ったが、よく考えたらミスリルとかオリハルコンとかアダマンタイトとかヒヒイロカネとか竜の鱗とかファンタジー素材が混じってるのか。
「それって使えるのか?」
『素材の特性は解析済みなので使えまっす。非常に優れた素材なので、アンドロイドや兵装の耐久性を上げたり、色々と使うことができると思います~』
「そりゃすごいな。適当に使ってくれ。足りなければまだまだあるから」
『了解でっす。補充もお願いします~』
しかし未知の素材までリサイクル可能とは未来の技術はすごいもんだな。新良のアームドスーツをオリハルコン製にするとかもアリかもしれない。忘れなかったら提案してみよう。
「あ~、で、さっきの話だが、ここが異世界のはずだ。ただ今いる場所が分からない。周辺の地形を調べて地図を作ってくれ」
『了解しました~。ただしそのためには30キロほど上昇しますけどよろしいですか~?』
「ああ任せる」
そう言うとアンドロイド『ウロボちゃん』は直立不動の姿勢になった。どうやら船体を制御している時は動きが止まるらしい。
船外を映しているモニターを見ると、すごい速度で上昇しているのが分かる。それでもエレベーターのような重力加速度の変化を感じないのだからやはり重力を制御しているのだろうか。重力魔法とか一度作ろうと思ったんだが上手くいかなかったんだよな。
「あんな巨大なものが宙に浮いて、しかもこんなふうに自在に動くなんて信じられないわねぇ。でも戦艦って言っていたけど、武装とかも強力なのかしらぁ」
『統合指揮所』内を一通り見て回っていたカーミラが、俺のところに戻ってくる。
「そうだな。バーゼルトリア王国の首都がどれほどのものかは分からないが、日本の東京23区くらいの広さなら一発で更地になるらしい」
「ちょっとそれってとんでもない話じゃないのぉ。もしかして先生はこっちの世界を征服するつもりなのかしらぁ」
「興味もないわ。それに今のはなんの防御もしなかった場合の話だ。防御魔法を展開されればそこまでの威力にはならないだろ」
「ふぅん。まあ先生がその気になれば一人で首都くらい簡単に落とせる気もするし、この船があってもあまり変わらないかしらねぇ」
「だからそんなのに興味はないっての。俺を魔王扱いすんな」
「ふふふっ。魔王と勇者なんて持っている力そのものはあまり変わらないのかもしれないわねぇ。でもその力を人を助けるために使う先生は立派だと思うわぁ」
「なんだ急に気持ち悪い」
とか言っている間に、モニターに地図が表示され始めた。今映っているのは北海道をそのまま大きくしたような形の大陸だ。確か俺を召喚した王家に、近い形のものが描かれていた地図があったはず。とすれば今いる大陸がバーゼルトリア王国のある大陸で間違いないだろう。
その大陸上に、20か所ほどの大小の点が表示される。表示によるとそこが人口の密集地域、すなわち都市らしい。
大陸の中央やや北寄りにある一際大きな点を指差しながら、俺はカーミラに聞いた。
「ここがバーゼルトリア王国の王都か?」
「ええ、そこが王都バゼラートよぉ」
「じゃあそこに行ってみるか。さっきみたいに転送で移動するつもりだが、なにか注意することはあるか?」
「いえ、特にはないかしらねぇ。よそ者が3人くらい紛れこんでも誰も気にはしないと思うわ。この服でもそんなには目立たないと思うし」
「了解。リーララもいいか?」
声をかけると、『ウロボちゃん』をじろじろ見ていたリーララがやってくる。
「わたしは大丈夫。バゼラートに戻るなんて思ってもみなかったけどね」
「会いたい奴とかいるか?」
「いないいない。一緒に訓練してた子たちもどっかに行っちゃってるしね。訓練所の教官とかは絶対会いたくないし」
「そうか。じゃあとりあえず街に下りてみて様子を探るか」
そう言うと、カーミラが首をかしげた。
「様子を見るのはいいけど、ただ街を歩いただけじゃ情報は集まらないわよぉ?」
「そこは『ウロボロス』にやってもらうさ。俺が知りたいのは『魔導廃棄物』の排出状況がどうなってるかだから、それを上空から調べてもらう。俺自身はこっちの世界がどの程度進歩してるのかを見るくらいしかできないだろうな」
「まあちょっと街に繰り出しても見えるモノなんて限られているしねぇ。でも『魔導廃棄物』の状況が知りたいなら、情報が集まる場所に出向いて聞くのが一番じゃないかしらぁ」
「まあそうなんだけどな。勇者時代なら王様に直接聞くこともできたんだが」
なんだかんだいって勇者って普通に国のトップと話すことはできたし、かなり大した扱いをされていたんだよな。とちょっと昔を思い出していると、カーミラが思わせぶりな笑顔を見せた。
「ふふふっ、それなら今日も王様に直接聞いてみる? 多分執務室に直接転移できれば話はできると思うわよぉ」
「は? さすがにそれは大騒ぎになるだろ」
「多分ワタシがいれば大丈夫よぉ。だって王様……じゃなくて今の国のトップとはお友達同士だったからねぇ」