24章 再訪1日目 02
その夜『フォルトゥナ』に転送された俺は、宇宙空間に『ウロボロス』を出した。
黒鉄の城とでも言いたくなるような巨大戦艦だが、『統合指揮所』で俺と新良を迎えてくれたのは、アニメっぽいキラキラ声の艦載AI『ウロボちゃん』である。
『艦長こんにちはでっす。しばらくは出番がないって言ってませんでしたっけ~?』
モニターに映った『ウロボちゃん』のパーソナルキャラクター、猫耳アクセサリを着けた銀髪美少女がにこにこと笑う。
「ああ、『空間魔法』内だと時間が止まってるから分からないか。前回『ウロボロス』を下りてから2週間経ってるんだ」
『ええっ、そうなんですか? 艦長は不思議能力をお持ちなんですね~。それで今回はなにをしましょうか』
「実はな……」
俺は異世界に行くこと、そこで『ウロボロス』に探査をしてもらうこと、その後は宇宙に待機して俺のサポートをしてもらうことなどを伝えた。
『異世界というのはデータベースにはありませんが、地球と同じような環境と考えていいんですかぁ?』
「重力とか大気の組成とかは多分同じだと思う。俺が行って普通に生活できるし、向こうの人間もこっちで普通に生きていけるからな」
『それなら本艦の活動は可能ですね~。それと艦長のサポートも了解でっす。ただそうすると本艦にはクルーが必要になりますよ~』
「あ~、確かにそうだよなあ」
もともとは1200人で稼働させる戦艦である。短時間航行させるくらいならAIで出来てしまうが、長時間運用となると確かに乗組員は必要だ。
『もし艦長の許可がいただけるならクルーはこちらで製造しまっす』
「クルーを製造? ロボットでも作るのか?」
『はいっ。本艦には汎用工作システムが複数ありますから、人間型アンドロイドを必要数製造しまっす』
「人間型アンドロイド……新良、それって大丈夫な奴か?」
俺が振り返って聞くと、新良は眉を寄せて少しだけ難しい顔をした。
「そうですね……銀河連邦では無許可の人間型アンドロイド製造はかなり厳しく禁じられていますが、ここは連邦の統治域ではないので……」
「グレーゾーンってところか。無許可製造を禁じられてるのは犯罪防止とかそんな理由か?」
「はい。人間型アンドロイドを使用した犯罪が多発して、厳しく管理されるようになったと聞いています」
「ならこの船の中だけで活動させるなら問題はないな。『ウロボロス』、製造を許可する。材料は必要か?」
『現在積載している材料で製造は可能でっす。ただし量が少ないので、補給してもらえると助かります」
「材料と言ってもな……。規格とかあるんだろ?」
『いえ、適当な物質を運んでもらえれば、こちらで必要なものを選別して精製しまっす。どんなガラクタでも大丈夫です~』
え、なにそれすごい。さすが超科学技術、リサイクルもバッチリなのか。
と感心していたら、新良がつぶやくように言った。
「リードベルム級に搭載された大型ラムダドライブの無尽蔵なエネルギーあってこその力技ですね。地球のエネルギー技術ではコストがかかりすぎて実用にはなりません」
「そりゃ残念。だけどガラクタなら俺の『空間魔法』内に腐るほどあるから助かるな。処分しないで入れておくのも気持ち悪かったし」
「それは本当にガラクタなんですか? 先生にとってガラクタでも、他の人にとっては重要なものだったりしませんか?」
新良が光のない瞳で俺をじっと見る。うむ、勇者のおかしさをよく分かってるじゃないか。だが残念ながら本当にガラクタなんだよな。
「魔王軍が持ってた武具が大量に入ってるんだ。もちろん全部壊れてて役には立たないし、直しても新良にあげた剣のような力もない。完全にガラクタさ」
「それならいいのですが」
「よし『ウロボロス』、ガラクタ置き場に案内してくれ。週末に異世界に行くから、それまでは宇宙で待機。アンドロイドの製造に当たってくれ」
『了解しました~。艦長のためにめいっぱい働きますね~』
よし、とりあえずこれで『あの世界』に行って手ぶらで帰ってくるということはなくなりそうだ。
それにしても手に入れたアイテムを使ってイベントを攻略するなんて、勇者やってたときを思い出すな。あんな生活はもうこりごりだったはずなんだが、ちょっと楽しいと思ってしまうのは……俺が完全に勇者ホリックだからなんだろうなあ。