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23章 二つの合宿  10

 廃棄された遊園地を模した『深淵窟』なので、観覧車やジェットコースターのコースやメリーゴーラウンドなどの遊具の間を歩いていくことになる。


 10分ほど歩いていくと、売店らしき建物の向こう側から物音が聞こえてきた。


「丁型3体丙型2体」と雨乃嬢が言うと、分家の男性2人が前に出て青奥寺たちと並んだ。いいところを見せよう、という感じだろうか。


 戦闘自体は一瞬で片が付いた。青奥寺たちにとって丙型以下はもう完全なザコである。青平寺少年ともう一人の青年もかなりの腕で、どちらも『疾歩』と刀の一振りで倒していた。


「やっぱり美園さんは強いね。今のは魔力を使ったの?」


「いえ、今のは刀の力だけ。といってもこの刀自体特別なものだけど」


「その刀って、東源さんのところのものとは違う……よね」


「これは先生からいただいたものなの」


「ふぅん……」


 と少年と青奥寺がやりとりをしているのがなんとも微笑ましい。


 そのまま次の場所へと移動をする。


 しばらく歩くと同様に6体の『深淵獣』が出現、今度は分家の女性陣が中心になって討伐をする。彼女らもかなりの使い手だが、青奥寺や雨乃嬢には二歩ぐらい及んでいない感じではある。


 さて、出現ポイントは3か所ということで次が最後だ。さらに歩いて行くと前方に噴水を中心とした広場が見えてくる。20体ほどの『深淵獣』がたむろしているところからして、ここが一番規模の大きい出現ポイントということになる。


「丁型9、丙型6、乙型3。乙は私と美園ちゃん、それと美花姉で対応するから他はお願いします」


 と雨乃嬢が青年に伝えると、青年は「心得た」と答えた。


 雨乃嬢たち3人は丁型芋虫、丙型トラの間を抜けて乙型の4本鼻ゾウのところへ駆けてゆく。


 そちらを追おうとした丁型丙型は、後から駆けてきた分家の6人に次々と斬り捨てられていく。


 雨乃嬢たちも一人一体を相手に余裕で戦っている。というか雨乃嬢と青奥寺は魔力の刃を完全に使いこなしていて、刃を伸ばして乙型ゾウの胴体を真っ二つにできるようになっている。美花女史はさすがにそうはいかないが、本家の女性だけあって危なげはない。もっとも彼女の刀『覇鐘(はがね)』が強化されているのも大きいが。


 『深淵獣』が全滅すると、青平寺少年が青奥寺のところにすかさず近寄って話しかける。


「乙を一人で相手にできるのはすごいね。魔力を使えれば俺も同じように戦えるようになるのかな?」


「戦えるようになると思う。けど、それとは別に剣術の研鑽(けんさん)も必要だから」


「確かに。そこも負けないようにするよ」


 少年を見ていると、なるほど女性を射止めるにはやっぱり努力が必要なんだと思わずにはいられない。


 それはともかくこれでいったん『深淵獣』は全滅したはずだ。ただ勇者の勘がまだなにかあると首筋に知らせてくる。さっきの美花女史の話もあるし、そろそろデカい奴が来そうだな……と思っていると、


「……っ!?」


 そこにいた全員が、広場の向こうを振り返った。強力ななにかが30メートルほど先に現れようとしている。


「あれはこの間の特Ⅰ型、しかも2体って……」


 青奥寺が表情を引き締めると、雨乃嬢も愛刀『早乱(さみだれ)』を構え直した。


 ただし美花女史は目を見開いて驚きの表情、分家の6人はそれにプラスして顔が青くなっている。


 大型のドラゴン型『深淵獣』が二体も現れたらそうもなるだろう。しかも頭部は十字に裂けた口に牙がびっしりとかいうかなりショッキングな見た目である。


「なんだよあれ……、あんなの相手に戦えるのかよ……」


 青平寺少年のつぶやきは分家6人全員の気持ちを代弁している感じだろうか。まあ『甲型』をすっとばしていきなり『特Ⅰ型』の、それも上位タイプを見たらそう感じるのは仕方ない。


 ドラゴン型2体はギャアアアッ! と天に向かって吠えると、蝙蝠(こうもり)の翼みたいな羽を一振りして空中に飛び上がった。


「飛ぶの!?」と小さく叫びながら、青奥寺が俺の方を振り返った。


「先生、あれはさすがに私たちだけでは難しいです」


「とりあえず落としてやるから一体は青奥寺と青納寺さんで対応してくれ。くれぐれもブレスに注意すること。一体は俺がやるから気にしなくていい」


「ありがとうございます。師匠、行きましょう。口から火を吐いてくるので、横に避けるか真下に入り込むかして回避してください」


「了解美園ちゃん。美園ちゃんが一回戦ったって奴よね」


「はい。今度こそ首を落とします」


「美花さんは分家のみなさんを下がらせてください。さすがにまだ早い相手ですから」


 俺が言うと、美花女史は「分かりました、お任せします」と言って、分家の6人に指示をして下がっていった。少年は一瞬だけ躊躇をしたが、青奥寺の後姿を見てから去っていった。


 そうしている間に、ドラゴン型は近くまで飛んできている。放っておけばそのままブレスを吐いてくるだろう。


 俺は両手を伸ばして火属性中級魔法『ファイアランス』を4発射出、炎の槍はドラゴン型2体の羽を吹きとばす。巨体が地上に墜落しデカい音を立てるが、すぐに立ち上がったのでダメージはそれほどなさそうだ。


「師匠、行きましょう!」


「ちょっと首から先がミミズっぽいけど我慢我慢!」


 青奥寺と雨乃嬢が一体に向かって『疾駆』で接近していく。


 俺は魔剣『ディアブラ』を取り出し『機動』魔法で高速飛行しもう一体に空中から迫る。そいつはブレスを吐こうと首を反らしたが、吐く前に真正面から唐竹割りにする。巨体が縦に真っ二つになって左右に倒れながら消えていく。


 青奥寺と雨乃嬢はと見ると、左右に別れて連携しながら戦っている。片方が攻撃を受ければ片方がその隙に脚を切り裂き、ドラゴン型がそちらに気を取られれば反対側が今度は攻撃を、という感じだ。ドラゴン型は苦し紛れに尻尾を振り回したが、その負荷に半ば切断されていた脚が耐えきれず転倒する。最後は青奥寺が気合の一閃で太い首を見事に切断、勝負ありとなった。


 いやこの2人は完全に特Ⅰ型も相手できるようになってるな。『あの世界』でもトップランカー冒険者間違いなしだ。


 美花女史らの方に目をやると、美花女史は我が娘たちの上達ぶりに目を細めている。一方で分家の6人は目を見開いて驚愕の表情。特に少年と青年は少し青い顔をしているな。まあ気になっている女の子が自分よりはるかに強いとなったらそうもなるか。


 青奥寺と雨乃嬢が頬を緩めながら戻ってくる。が、その嬉しそうな顔は瞬時に引きつった。


 彼女らの背後にいきなり強大な魔力のうねりが発生、地面から黒い靄が爆発的に広がった。どうやらもう一体残っていたらしい。


 しかもこの感じは……青奥寺家的には初めて見ることになる『特Ⅱ型』だな。

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― 新着の感想 ―
[一言] 出来立ては弱く段々強くなって、一月ごとくらいの波でも強くなるらしいが…これ普段の管理も無理では?
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