表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
175/416

23章 二つの合宿  06

 昼食が終わって少し休みを取る間に、青奥寺と雨乃嬢、そして宇佐さんは分家の女性陣に呼ばれておしゃべりを始めた。


「相羽さんって勇者って言ってたけど本当なの……?」


「えっ、ネタじゃないんだ。なんか笑うところだったのかなって後で思ったんだけど……」


「甲型……特Ⅰ型? それも相手にならないって、そんなに強いんだ……」


「雨乃さんに指輪を……って、それってあれじゃない……」


「どうして美園ちゃんが必死に否定してるの? あ~もしかして……」


 勇者イヤーに聞こえてきてしまう声からすると、どうも俺をネタにして話をしているようだ。


 さっき俺を睨んでた少年も聞き耳を立てているが、特に青奥寺が話す言葉に敏感に反応している感じだ。うんうん、わかるぞ少年。


 さてそんな感じで昼休憩は終了、再び魔力感知のトレーニングを開始した。


 午後の部をはじめてから1時間程経つと、「あ……っ」とか「見える……」と言った声がぽつぽつと上がりはじめる。


 さすがにそれぞれ研鑽を積んでいる人たちだけあって青奥寺たちと遜色ないスピードで魔力感知を習得できるようだ。2時間経つ頃には6人全員が見えるようになった。


「この早さで魔力が見えるようになるのは皆さんさすがですね。さて、では魔力が見えるようになったところで、この魔力を吸引していただきます。吸引するのは簡単で、魔力を意識しながら口から息を吸うように吸い込むだけです。ただしその際にするどい痛みを伴いますので、はじめは小指の先ほどの量を吸い込むようにしてください」


 俺が次の説明をすると、先ほどのサッカー選手風少年が手をあげた。


「魔力を吸引するとどうなるんすか?」


「私の魔力が見えたのなら、へその下あたりから発生しているのが分かったと思います。魔力を吸引することで、同じ場所に『魔力発生器官』とでもいうようなものが作られます。ただしそのためにはかなりの魔力を吸引しないとなりません」


「『魔力発生器官』ができれば、さっき相羽さんがやったようなことができるようになるってことっすね」


「あれができるようになるまでには、『魔力発生器官』が作られてからさらに一月くらいは修練が必要でしょう。こちらの美園さんや雨乃さんもそれくらいかかっています」


 俺が「美園さん」と口にするところで少年がピクッと反応するのがなんとも微笑ましい。そんな関係じゃないから心配しなくて大丈夫だぞ少年。


「了解っす、ありがとうございます」


 というわけで早速『魔力吸引トレーニング』を開始した。もちろん青奥寺たちも継続参加である。


 やはり最初なのであちこちから「いたっ」とか「くっ」とか声が聞こえてくるが、こればかりは勇者でもどうにもならない。


 今日のところは30分を2セット行って終わりにする。身体に大きな負担がかかるため、1日でやるのはこれが限度だろう。


「とりあえず『魔力発生器官』が身につくまでこのトレーニングを続けます。身につくまでは2~3週間はかかりますのでそのつもりでいてください」


「あの、ずっとこの痛みは続くのでしょうか?」


 女性陣の1人が手をあげて質問する。俺が目配せをすると青奥寺が代わりに答えてくれた。


「痛み自体は慣れてくると弱くなってきます。『魔力発生器官』が身につくと痛みは完全になくなります。私も毎日やって3週間くらいかかりましたから覚悟をしてください」


「うわ~……頑張ります」


 それ以上の質問がないようだったので、俺は雨乃嬢にこの場の指導のバトンを渡すことにした。


 時間はまだ3時前である。この後は通常の剣技の鍛錬をすることになっているらしいのだが、そこは俺が関わらなくていいことになっていた。


 俺が宇佐さんと共に道場から去ろうとすると、青奥寺が慌てて見送りにきた。


「先生、今日はありがとうございました」


「全員魔力が見えるところまでできるようになってよかったな。明日も朝九時に間に合うように来るから」


「はい、よろしくお願いします。明日もお弁当を作っておきますから」


 と青奥寺が言うと、また宇佐さんとの間に見えないプレッシャー合戦が始まる。


「あ~、楽しみにしてるよ。明日も腹が減るだろうから、宇佐さんにもお願いできるとありがたいんですが」


「もちろんですご主人様。今日よりおいしいものを作って参ります」


「私も()()()食べてもらってるものよりさらに美味しいものを作りますね」


 青奥寺さん、そこで「いつも」とか言われるとちょっと俺の社会的なアレが危なくなるので自粛してくださいね。


 ほら、例の少年がなんか刺すような目でこっちを見てきてますから。


「また2人が寝取る宣言してる。正妻としてどうにかしなきゃ……。あ、でもここでなにかすると更なる寝取りのフラグ……?」


 俺たちのやりとりを遠くで見ている雨乃嬢もまた別の世界にトリップしてるし……


 トレーニング自体はきちんと進んでいるからいいんだけど、こういうのは指導者の雰囲気も大切だからなあ。指導のプロである教師としては、そのあたりのアドバイスをしておいてもいいのかもしれないな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 正妻気取るやら弁当作ろうぜ師匠! 弟子が師匠になって料理教える言うてたやんけ!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ