23章 二つの合宿 01
「ご主人様、お帰りなさいませ」
「あ、今日もお疲れ様です」
宇宙から帰った次の日は通常通りに出勤であった。
日課を終えて放課後校長に報告をしてアパートに戻ると、メイド服姿の眼鏡美人、宇佐さんが出迎えてくれた。
俺の帰宅時間が不定期なこともあり彼女にはアパートの鍵を渡してある。
「合宿のほうはいかがでしたか?」
「ええ、おかげさまで特に問題もなく終わりました」
「それはよろしゅうございましたね。お食事の用意はできておりますので、一休みしたら召し上がってください」
「ありがとうございます。早速いただきます」
俺はネクタイを外してテーブルに着くと早速料理にとりかかった。なんかいつもより豪華な気がするが、もしかして合宿を引率した俺を労ってくれているんだろうか。気分的には宇宙旅行だったのでちょっとだけ良心がチクチクする。
しかし宇佐さんが来るようになって一週間以上になるが、すでにメイドさんのいる生活に慣れてきているのが怖い。これで宇佐さんがいなくなったら俺は一時的に生活不能状態に陥るんじゃないだろうか。
「ところでご主人様が不在の時に、リーララさんが一回、カーミラさんが一回いらっしゃいました。リーララさんは2時間ほどベッドで寝てお帰りになり、カーミラさんも同じように2時間ほどベッドで横になっていらっしゃいました」
「え? はあ……?」
んん? どういうことだろうか。
いや、言っていることは分かるんだが、それを知っているということは……
「もしかして自分がいないときも宇佐さんはこちらに来たんですか?」
「ええもちろんです。ご主人様がいないときでも部屋のお掃除等はありますので」
「それはありがとうございます。でも今後似たようなことがあった時はお休みでいいですよ。さすがに申し訳ありませんし」
「申し訳ないなどということはございません。しかしその、リーララさんたちに関してはよろしいのでしょうか?」
「リーララはまあ、ああ見えていろいろありますのでほっといてください。カーミラは追い出してもいいんですが、あれもああ見えて強いのでほうっておいて結構です」
「ご主人様が構わないというのならいいのですが……、その、リーララさんはともかくカーミラさんはベッドの上で怪しい雰囲気で……」
と言いながら、宇佐さんはちょっと恥ずかしそうに顔をそむけた。
えぇ、カーミラのやつ人のベッドの上でなにやってたんだ? でもこの感じだと聞いてはいけないことのような気がするな。仕方ない、後で直接本人に聞くか。
「それについては後で本人に言っておきます。あいつらに関しては宇佐さんはなにもしなくて大丈夫です」
「分かりました。ご主人様のお手を煩わせて申し訳ありません」
「いやいや、それは宇佐さんが謝ることじゃありませんよ。それより今日もお料理が美味しいですね。疲れが癒されて明日も働く気になりますよ」
最近ほめて伸ばすが板についてきて、自然と誉め言葉がでるようになった俺である。宇佐さんのような成人女性にそれを適用するのもどうかという気もするが、人間大人になっても褒められるのは嬉しいものだ。事実宇佐さんも頬を赤らめてにっこり微笑んでいるし。
「ありがとうございます。もしご主人様のお好みがあれば遠慮なくおっしゃってください。ご主人様のお口にあう料理を作れるようになりますので」
「いや、自分からしたらどれも美味しくて注文をつけるところがありませんよ」
「しかしいわゆる家庭の味というものもありますので。そうですね、一度ご主人様のお母様に料理を教わるのもいいかもしれません。そうすれば自然と好みの味を身につけられると思います」
ん? なんか宇佐さんの圧が急に強くなったような。眼鏡の奥の目も少し据わってきてないか?
「家には夏休みまでは帰らないですし、その前に宇佐さんは魔力を身につけられると思いますよ」
「それは問題ありません。ご主人様がお望みであれば一生お仕えいたしますので」
「それには及びませんから。約束の通りで大丈夫です」
そう言うと宇佐さんは露骨に悲しそうな顔をした。メイドとして必要とされることにプライドを持っているのはプロとして素晴らしいと思うが、やはりダメなものはダメである。
「ああ、そういえば来週も合宿が入りますので、また3日間宇佐さんのトレーニングはお休みになってしまいます。すみません跳び跳びになってしまって」
「……分かりました。また3日間もご主人様にお会いできないのは寂しく思います」
来週は総合武術部の校内合宿である。そういえば青奥寺家の分家のトレーニングもあるんだよな。そっちはどういう形式になるのか不明だが、やはり時間を取られることになるだろう。そこも事前に相談しておかないとだめだな。
「え~と、それと今やっている魔力トレーニングなんですが、今度青奥寺家の分家の方にも教えることになったんですよ。どういう形になるのかはまだ分からないんですが、多分どこか……青奥寺家の道場とかに集まってやることになると思うんです。それでどうしたものかと思ってるんですが……」
「ご主人様は本当に大変でいらっしゃいますね。しかし青奥寺家の分家の方ですか。宇佐家も交流がありますのでそちらに参加させていただいてもいいのですが、しかしご主人様と2人きりの時間がなくなるのも……」
「ああ、一緒にやるのはいいですね。青納寺さんも来ると思いますしちょうどいいんじゃないでしょうか」
宇佐さんと雨乃嬢は仲がいいみたいだし、こういう機会がないとそうそう話もできないからな。特に宇佐さんは時間がなさそうだし。
思った通り宇佐さんは眼鏡をキラリと光らせて反応した。
「雨乃がですか? 分かりました、是非ご一緒させていただきます。そう言えば青奥寺家の分家にも若い女性はいらっしゃいますね。それならなおのこと参加させていただいたほうがいいようです」
ああなるほど、確かに年齢の近い女性、それも裏で戦う人間同士で交流をもつのは大切なことである。さすが戦うプロメイド、常にそういったことを考えられるというのは勇者としても敬意を抱かざるをえない。これは俺としてもいいトレーニング会にしないといけないな。