21章 → 22章
―― 惑星イエドプリオル フィーマクード総本部最上階 総統の間
「『ウロボロス』が味方艦隊を攻撃、その後の航路は追跡不能か。信じられん報告だな。しかしこの記録も確かなようだ。いったいなにがあった、ギルメルト」
「へい。確かなのは『ウロボロス』が反乱を起こしたってことだけで。ガーニッシュの野郎が『ウロボロス』を任されたのを勘違いしてバカやったか、あの通信のように本当に何者かに乗っ取られたか、それすらも分かりやせん」
「通信の声はガーニッシュのものではなかったのだな?」
「へい、AI音声だと思ったんですが、妙にふざけた話し方で、生身の人間の声にも聞こえやした」
「その声については検証はしたのだろうな」
「ウチの手下どものデータと一致するものはありやせんでした」
「ふうむ。ちょっと聞かせてみろ」
「少々お待ちを……こいつでさ」
「……ふむ、確かにふざけたセリフだ。……だがこの話し方と声は聞いたことがあるな」
「本当ですかい!?」
「うむ、どこでだったか……。チッ、思い出したぞ、いまいましい!」
「ボス?」
「これはあの『協力者』の声だ。ファーマクーンの時に通信で聞いたものとよく似ている」
「な……っ、まさかこっちの動きを察知して待ち構えていたってことで!?」
「そういうことになるな。あの星からはラムダ航行でも相当に時間がかかる。エルクルドとの交戦が始まったタイミングで来られるはずがない」
「ということは……もしや情報が洩れてるってことですかい?」
「そう考えるのが適当だろうな。連邦捜査局のネズミでも紛れ込んだか……ギルメルト、すぐに全構成員を再精査しろ。情報システムについても同様だ」
「分かりやした。それとエルクルドの『アビス』は消滅しちまったようです。先ほど連絡が入りやした」
「何だと……? それも奴の仕業か。返す返すもいまいましい」
「こうなるとやはりあの未開惑星に行くしかないってことになりやすかね」
「どうあっても奴らは潰さねばならんようだ。再精査が終わり次第、未開惑星攻略の準備もはじめろ」
「へい。さっそくかかりやす」
「……しかし奴は何者だ。『アンタッチャブルエンティティ』などと言っていたが、まさか未開惑星で連邦がそんなものを育成していたとでも言うのか。くだらん妄想だと思っていたが、一度『導師』に聞いてみる必要があるか……」
―― とある生徒たちのSNS
加賀「いやあ、宇宙旅行楽しかったね! 帰りは『ウロボロス』にも乗ってこられたし、『ウロボちゃん』も可愛くってもう大満足って感じ!」
みそ「加賀は能天気すぎ。私たち普通に考えたらとんでもない経験してきたんだから、もっと真剣に受け止めないと」
加賀「真剣にって言われてね~。リリの星の食事も美味しかったよね。味は地球のものとあんまり変わらなかったし」
リリ「私も地球に来たときは似てると思った。文明はともかく、文化的にはそんなに隔たりはないと思う」
みそ「リリのご両親も話しやすかったし、街も少し未来的なだけで違和感はなかった気がする」
加賀「そうだね~。でもまさかリリの実家にお邪魔するとは思ってなかったね。あれはちょっとした奇襲攻撃だよねっ」
リリ「別に誰も攻撃はしてないけど」
加賀「え~、だって先生を両親にいきなり紹介するとかどう見ても奇襲攻撃でしょ~。それとも電撃作戦ってやつ?」
みそ「加賀はそうやってリリを煽らないの。私だって先生は家に来てもらったことあるし、家庭訪問だと思えばそんなに変でもないでしょ」
加賀「あっ、みそちょっと焦ってる感じ? 今回でアドバンテージ潰されちゃったもんね」
リリ「私は別にみそのなにかを潰したつもりはないけど。いったいなんの話?」
加賀「相手は難攻不落の超絶鈍感要塞だから3人で協力していかないとだめだよって話。ところで先生って今度は総合武術部の合宿やるんだよね。合気道の早記もちょっと怪しい動きしてるって気付いてる?」
みそ「それは大丈夫でしょう。先生はそういうのは絶対なにもないと思う」
リリ「同感」
加賀「まあそうなんだけどね。じゃあ九神のお嬢が怪しい動きしてるのは? なんか最近ちょくちょく先生に話しかけてるみたいなんだよね~」
みそ「それ初耳なんだけど」
みそ「だいたい世海は先生のことをバカにしてたし、そんなことはないと思う」
みそ「あの世海が男の人と仲良くするなんて思えないし」
みそ「そもそもあの2人じゃ似合わないと思う」
加賀「あ~みそステイステイ!」
みそ「加賀がありえないこと言うから」
加賀「いくら九神お嬢の話だからって反応しすぎ。強敵なのはわかるけどね」
みそ「でも先生はお金とか権力とか気にする人じゃないしなにもないでしょ」
リリ「同感」
加賀「そんなこと言ってると後塵を拝することになると思うけどね~。とにかくこっちも積極的に先生には絡みにいかないとダメだよってことで」
みそ「先生には今度分家のほうにも魔力トレーニングを教えてもらうことになったから、私はそれで何度か会えるかな」
加賀「なんだ、みそも結構やる気あるんだ。でもみその家の分家ってことは、そっちにも若い女の人いっぱいいるよね?」
みそ「」
加賀「あれ、みそが黙っちゃった」
リリ「多分新たな危機に気付いたんだと思う」
加賀「まあみそと雨乃姉がいれば大丈夫だとは思うけどね~。むしろ分家の男の人の方がダメージ受けそうな気がする」