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22 勇者式強奪  12

「協力感謝する。君たちが来てくれなければ我々の損耗は大きなものになっていただろう。データの収集に関しても申し出てくれて助かった」


「お役に立てたのなら結構です」


 本部テントの中でレーナオン中佐と握手をする。


「しかしミスターアイバ、貴方の話だとあの空間は再び出現する可能性があるとのことだがそれは本当か?」


「はい、可能性は高いと思います。我々の星では日常的に出現していて、彼女たちのようなスペシャリストが常に対応に追われています」


「恐ろしい話だ。あの空間が複数現れたらそれだけで我々の軍事リソースは大きく消費されてしまう。データを解析して急ぎ対策を立てねばな」


 中佐はそう言って苦い顔をした。


『深淵窟』と『深淵獣』の危険性を上層部に認めさせ、予算と人員を確保させる。そんなことを考えただけで頭が痛くなろうというものだ。ご愁傷さまとしか言いようがない。


「では我々はこれで撤収をいたします。お世話になりました」


「うむ、こちらこそ世話になった。まだ色々と聞きたいこともあるが、どうやらそれは許されないようだ。貴方たちの協力を無駄にせぬようこちらも努力する」


 中佐が胸に手をあてる敬礼をすると、後ろの中尉や他の兵士たちもそれにならった。


 俺も真似をして胸に手をあてる。


「転送します」


 新良の声と共に光が全身を包む。


 光が消えるとそこは『フォルトゥナ』の客室……かと思ったら、どこか別の部屋だった。


 少し未来的なマテリアルで囲まれてはいるが、ベッドや机があり、全体としては普通の部屋だ。窓の外には広い庭が広がっているのでどうやら一戸建ての一階の部屋のようである。


「えっ、ここどこ?」


 双党がきょろきょろと周囲を見回すと、新良がすこし恥ずかしそうな顔をして言った。


「ここは私の家、私の部屋。悪いとは思ったけど、どうしても家族に会いたくて転送した」


「あ、な~んだ。そんなのは別に悪くないよっ。でも私たちまで来ちゃってよかったの?」


「もちろん。家族に友達を紹介したいし、先生も紹介したい」


「ふ~ん。まあ私たちを紹介するのはいいけど、先生はちょっと問題にならない?」


「なぜ?」


「なぜって、それは……」


「ほらそういうのはいいから。ここで話をしてても変でしょ。璃々緒もはやく家族に会いたいだろうし」


 慌てたように青奥寺が遮ると、双党は「そんなに焦らなくてもよくない?」とか言って意地の悪そうな笑みを浮かべた。


 新良はそれを不思議そうに眺めてから、俺の方に向き直った。


「先生もよろしいでしょうか? 両親に会っていただけると嬉しいのですが」


「ああ、なんか急な話だけど家庭訪問だと思えば問題ないな。むしろご両親の方は大丈夫なのか?」


「いつも帰る時は突然なので大丈夫です」


 それは大丈夫というより諦めてるだけじゃないか? と思ったが口には出さない。親子間でうまくいっているなら他人がとやかく言うことじゃないしな。




 新良を先頭にして部屋をでる。廊下は家としては結構広い。というか家全体がかなり大きいようだ。窓の外は広い農園のようなものが広がっていて、どうも大農場の中にある一軒家のようだ。新良はいいところのお嬢さんだったのか。


 広いリビングのようなところに入ると、そこには30前後くらいに見える男女がいてソファでくつろいでいた。


「ただいま父さん母さん」


 と新良が声をかけると男女は驚いた顔で振り返り、そしてすぐに笑顔になった。


「リリオネイト、帰る時は連絡しろといつも言ってるだろう」


「ふふっ、リリオネイトお帰りなさい。そちらの方たちはもしかしてお友達?」


「そう。私の勤務地での友人たち。そして私が通っている学校の先生」


 新良の紹介を受けて俺たちは頭をさげる。いきなり他人様の家に上がり込んで礼もなにもないものだが。


「青奥寺美園です。璃々緒さんにはいつもお世話になっています」


「双党かがりですっ。璃々緒とは仲良くやってます。お世話になったりしたりしてます」


「相羽走です。新良……え~と、アルマーダさんが通う学校で担任教師をしています。急な来訪をお詫び申し上げます」


 挨拶をすると2人はニコニコと笑った。


「ザッタネイト・アルマーダです。娘がお世話になっているようでお礼を申し上げます。ようこそ我が家に、皆さんを歓迎いたします」


 新良父は背の高い、青い髪のインテリ風イケメンだ。


「ケーラネイトです。リリオネイトから時々お話は聞いています。リリオは少し常識がないところがあるので大変でしょうけどよろしくお願いしますね」


 一方で新良母は、黒髪をセミロングにした、おっとりした感じの美人である。


 俺たちは夫妻に促されソファに腰かけた。すぐに飲み物とお菓子が目の前に用意されるが、よく考えたら飲み食いして大丈夫なんだろうか。


「なあ新良、他の星にいってものを食べるのは問題ないのか?」


「星によります。地球とエルクルドは非常に環境が近いので問題ありません。私も地球の食べ物を食べてなにかあったことはありません」


「まあそりゃそうか」


 納得して頷いていると、早速双党がお菓子を一つ口に放り込んで「あ、美味しい」とか言っている。


 それを見て目を細めながら、新良父のザッタネイト氏が新良に話しかけた。


「ところで数日前から正体不明の艦隊が接近してきていて、今日宙軍が撃退したという話があったが、それは大丈夫だったのか?」


「大丈夫。というかその艦隊を撃退する手助けもした。やったのは相羽先生だけど」


「手助け? 独立判事に与えられる船は高性能だとは聞いてるが、背後から奇襲攻撃でもしたのか?」


「さすがに艦隊相手に戦う兵装はない。相手の旗艦に接舷して乗り込んで相羽先生が制圧した」


「ええ、そんな無茶なことをしたのか? 本当ですかアイバさん」


「は……ええと、そうですね。自分が乗り込んで戦艦を制圧しました。でも戦艦のシステムの掌握などはリリオさんがやってくれたので私はただ暴れただけですが」


 正直に答えていいのか一瞬迷ったが、新良が話をしているから大丈夫なんだろう。


 そう判断して答えると、ザッタネイト氏だけでなく新良母のケーラネイト女史までがポカンとした顔をした。


「ええと、それはご冗談とかではないのですよね? リリオもそういう冗談は言わない娘ですし」


「全部本当ですね。ああ、でも危険はありませんでしたので心配はなさらないでください」


「はあ……?」


 さすがに勇者の魔法の前では宇宙戦艦も無力です、と言っても信じてはくれないだろうなあ。でも娘の担任が危険なことをさせてると思われるのも困るのは確かである。


 俺がご両親の反応をうかがっていると、新良が再び話しはじめた。


「相羽先生は多分銀河連邦の全軍より強い。だから戦艦一隻を拿捕(だほ)するくらいなんの問題もない」


「リリオがアイバさんのことを信頼しているのは今までの話でも聞いて知ってるけど、さすがにそれは言いすぎじゃないの?」


 ケーラネイト女史があきれたような、それでいて少しからかうような調子で言う。ザッタネイト氏も頷いているがこちらは少し心配顔だ。


「言い過ぎじゃない。今回の艦隊もその気になれば一人で全滅できた」


「それじゃまるで『アンタッチャブルエンティティ』じゃない。まさかリリオが言いたいのはそういうこと?」


 おっと前にも聞いたな『アンタッチャブルエンティティ』。あの後新良に聞いたら、銀河連邦で都市伝説的に語られている超人のことらしい。科学が進歩してもそういう話は残るんだなとちょっと面白く感じた次第である。


「違う、先生は先生。でも強いし、いつも助けてくれる。今回も無理を言って来てもらった」


「う~ん、よく分からないけどリリオはアイバさんのことを信頼してるのね。きっと本当にすごい人なんでしょうね」


「そう、すごい。すごすぎてよく分からないくらい」


 と言いながら新良は意味ありげに俺を見る。とはいえそんな目をされても今以上に説明をするものもないのだが。


 新良が視線をこっちに向けたままで止まってしまったので、ザッタネイト氏が肩をすくめながら言った。


「ところでリリオはそちらの惑星……地球ではどのような様子なんでしょう。独立判事としては務めを果たしているとは思うのですが、普段の生活はきちんと送れているんでしょうか。話だと学校に通っているということでしたが」


「真面目で勉強も運動も成績優秀ですから担任としては言うことはありませんね」


「友達としても面白くて一緒にいて楽しいですっ」


「私も同じです。それに勉強の相談もできるので助かっています」


 俺が答えると、双党と青奥寺もそんなことを付け加えた。


 同世代の友人たちの答えを聞いてご両親も満足そうに微笑んだ。


「それならいいのですが。なにしろ小さい頃から独立判事になるんだと言ってずっと勉強とトレーニングばかりしてまして。友達らしい友達もいなかったようなのでお話を聞いて安心しました」


「本当にそうなんです。独立判事になって他の星に行くという話になってますます1人になるんじゃないかと心配していたんですよ。でもこっちにいた時より楽しそうで本当によかったです。気になる人もできたみたいで、ね?」


「母さん、それはいいから」


 いきなり慌てだす新良。


 なるほど新良もやはり女の子というわけか。だが銀河連邦に所属していない星の人間とお付き合いをするのは大丈夫なんだろうか。他人事ながら少し心配だな。


 青奥寺と双党がなにか言いたそうな顔で俺を見ているのもきっと同じ心配をしているからだろう。正直かなり確認しづらいことだが、ここは大人である俺が聞くしかないか。


「ところでその、リリオさんがもし地球で誰かとお付き合いするとかそんなことになっても大丈夫なんでしょうか? 地球は銀河連邦には属していないのですが」


「あら、ええ、大丈夫だと聞いてます。独立判事はその星に永住することも多いので、むしろ現地の方と一緒になることの方が多いそうですよ」


 ケーラネイト女史がニコニコしながら答える。ザッタネイト氏は苦い顔をしているが、まあ父親としては年頃の娘が誰かと付き合うなんて話になったらそうなるよな。


「そうですか。あ、済みません、変なことを聞きました」


「いえいえ、確認するのは大切な事だと思います。ねえリリオ?」


「私は知ってることだから別に」


 横を向く新良の頬が少し赤みを帯びている。うむ、やはり新良にもそういうところはあったんだな。


 俺が腕を組んで頷いていると、青奥寺が久しぶりに冷気を感じる目で睨んでいるのに気づいた。


「先生、どうして今確認をしたんですか?」


「どうしてって……青奥寺や双党も気になってたんだろ?」


「はい? 私たちは関係ないと思いますけど。それより確認したということは、先生には付き合うつもりがあるということですか?」


「なんの話だ? 俺は新良のために確認をしただけだぞ」


 俺が首をかしげていると双党が青奥寺の肩をポンと叩いた。


「美園、先生はいつものアレだから深読みするだけ無駄だって。それより今は別の星に来たことを楽しんだ方がいいと思うよ。ねえ璃々緒、少しだけ街とかに行くこともできるよねっ」


「大丈夫。父さん母さん、せっかくだからいつもの店に行きたい」


「あらいいわね。じゃあ皆で行って食事をしましょうか。アイバさんにもこっちの星のことを知っていただかないといけないしね」


 ケーラネイト女史が含みのある顔で提案をすると、ザッタネイト氏は複雑な表情で「そうだな」と言って席を立った。


 う~ん、一連の流れの意味がよく分からないが、ともかく異星の美味しいものが食べられるのはありがたいな。せっかくだから多めに頼んで『空間魔法』に入れておくか。地球まではまた長旅になるしな。

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― 新着の感想 ―
[一言] このとーへんぼくめ!
[一言] クソボケ勇者ムーブ! というか先生、異世勇者時代の徹底的な日本倫理守るムーブの延長で、生徒との男女関係を無意識レベルで考えないマインドになってるのでは…… 卒業してからアプローチしたら割…
[気になる点] 新良の両親の目も光が無いんだろうか…? [一言] 自ら深みに嵌まりに行く…流石勇者。 だが今回の言葉のチョイスは、『そう』取られても全く弁解ができないぞ!! つーか両親にご挨拶だぞ!!…
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