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22 勇者式強奪  03

 翌日は朝からスマホに着信があった。


 双党からなんだが、まさかもうクリムゾントワイライトの別支部が出張(でば)ってきたんだろうか。


「どうした?」


『先生おはようございます! 今日はちょっとお願いというか提案というかがありまして』


「緊急事態ではないんだな?」


『あっ、違います。そういえば先生に電話をかける時はいつも緊急事態でしたね』


「そうだな。しばらくはないことを祈ってる。それで今日はなんだ?」


『実はずっと忘れてたんですが、そろそろアレを見せてもらいたいな~って』


「なんだアレって」


『宇宙戦艦ですよ。強襲揚陸艦でしたっけ? フィーマクードの兵隊が下りてきたやつ。先生まだ持ってますよね?』


「ああ、確か4隻ほど『空間魔法』に入ったままだな。見せるのはいいが新良の許可が必要だぞ」


『許可は取りましたっ。璃々緒(りりお)も新しく拿捕(だほ)したものに関しては調査が必要かもって言ってました』


「そういえばそうか。なんか忙しくて俺も完全に忘れてたわ。ただアレを出すのは相当広い所じゃないとなあ」


『璃々緒の宇宙船でちょっと遠くまで行って、宇宙空間で出したらどうかって言ってましたよ』


「そりゃすごい話だな。分かった、なら転送するように新良に言ってくれ。青奥寺(あおうじ)は誘うのか?」


『もちろんです。じゃあ少ししたら転送すると思いますのでよろしくお願いします』


 スマホの通話が切れると、数分で俺の身体は光に包まれた。


 転送先はいつもの『フォルトゥナ』の客室である。すでに青奥寺と双党もいて、俺の姿を認めると双党が嬉しそうに近寄ってきて胸をすりすりし始めた。筋肉フェチ仕草も久しぶりな気がするな。


「璃々緒はすぐに船を動かすって言ってました。10分くらいでいい場所に行けるそうです」


「いい場所ね。近所に車で買い物に行く感覚だな」


「ホントにすごいですよね。地球の科学力はいつになったらこのレベルに達するんだろうって思っちゃいます」


「達するとも限らないんじゃないか。今の文明の延長に必ずしも同じ文明が来るとは限らないしな」


 例えば『あっちの世界』は、どれだけ文明が進んでも地球と同じにはならない気がする。なにしろ魔法とかいう意味不明な原理が存在するのである。


 もっともそういう意味では、同じ自然法則にしたがってる限り地球はいつか銀河連邦と同じ技術を作り出すということにはなるが。


「あっ、先生がなんか難しそうなこと言ってる」


「先生だから当たり前だ。それよりいつまで触ってるんだ?」


「だって最近触れてなかったので。そういえばこの間の魔法もすごかったですよね。やっぱりこの筋肉が強い魔力を生み出す感じですか?」


 俺が目配せすると青奥寺が溜息をつきながら席を立ち、双党の肩をがしっとつかみそのまま席に引きずっていった。


 少しして新良が客室に入ってくる。


「地球から少し離れたので船を出しても大丈夫だと思います。先生は宇宙服で外に出る必要がありますか?」


「いや、多分大丈夫。外を見られる窓みたいのはあるか?」


「船底にあります。では移動しましょう」


 新良に案内されて『フォルトゥナ』の中を歩いて船底の方に向かう。そう言えば船内に当たり前のように重力があるんだが、これだけでも超科学なんだよな。


 船底には円形の部屋があり、新良が操作すると周囲の壁の一部が透明化して外を360度見渡せるようになった。床も中央部あたりがぽっかりと透明になって、宇宙に落ちるんじゃないかという錯覚にとらわれる。


「こんな部屋があるんだな」


「実際に肉眼で見るのが重要なことも多いですから。それよりこれで大丈夫ですか?」


「ああ、この真下に船を出そう」


 しきりに外を見て目を輝かせている青奥寺と双党を放っておいて、俺は透明な床ごしに『空間魔法』を発動した。


 ほとんど見えないが、宇宙空間に直径50メートルほどの黒い穴が開いて、それがずずずっと200メートルほど移動をするとそこに黒い外装の船が現れた。宇宙犯罪組織フィーマクードの強襲揚陸艦である。


 全長は200メートルほどで、この『フォルトゥナ』より1.5倍くらい大きい。本体は緩やかな楔形(くさびがた)をした直方体で、部分部分が出っ張ったり引っ込んだりしている。基本的にはSF映画に出てくるような武骨な軍艦スタイルの宇宙船だ。


「おお~、これが軍用の宇宙船なんだ。カッコいい……」


 黒い宇宙船を見下ろす双党の目はかなりトリップしてる感じだ。まあ好きな人間にはたまらないよなあ。


 いっぽう青奥寺はそこまで宇宙船の外観には興味がないらしく、ちらと見ただけで俺の方に目を向けた。


「先生、あの船に入って調べるんですか?」


「そういうことになるな」


「あの『深淵獣』がいたりするんでしょうか?」


「それは大丈夫だ、全部倒しておいたからな。ただ敵兵の死体がごろごろしてるからまずはそれを掃除してからだな。新良、できるか?」


「大丈夫ですが、まずは接舷して制御システムを押さえましょう。いったんブリッジに戻ります」


 新良だけ操縦室へと戻り、俺たちはその場で宇宙を眺めていることにした。


 少しすると、外の黒い船が近づいてくるのが見えた。もちろん『フォルトゥナ』が移動しているのである。


 ある程度接近すると、『フォルトゥナ』から4本の(いかり)のようなものが発射され、強襲揚陸艦の表面に突き刺さるように吸着した。さらにしばらくすると強襲揚陸艦のあちこちのライトが点灯し始める。どうやら向こうのコンピュータを乗っ取って制御をしているようだ。


 さらにしばらくすると新良が戻って来た。


「向こうの艦内環境を人間が行動可能な状態に調整しました。死体類はラムダ転送装置ですべて排出させました。転送装置をリンクさせましたので、向こうの船に転送が可能です」


「じゃあ行くか」


 俺がそう言うと、新良の「転送します」の声ともに全員の身体が光に包まれた。

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