22 勇者式強奪 02
「まあ、そんなことがあったのねえ。相羽先生も色々と大変だけど、ちゃんと約束を守るのは偉いわね」
山城先生はそう言うとニッコリと微笑んだ。特に意味ありげな雰囲気でもないので、どうやら事情は分かっていただけたようだ。
ちなみに今いるのは百貨店内にある喫茶店である。ボックス席に座っているのだが、横には俺の腕をつかんで離さない清音ちゃんがいる。正面にふくれっ面のリーララがいて、天然サキュバ……山城先生は対角線である。
「それにしても清音ちゃんはすごいですね。俺の魔法はそんなに簡単には破れないはずなんですけど」
「まさかそんな才能があるなんて私も知らなかったわねぇ。これも相羽先生のおかげなのかしら?」
「いや、最初から感覚が強かったみたいですよ。リーララもそう言ってましたし」
ちらとリーララを見ると、仏頂面でストローをくわえジュースにぶくぶく空気をおくりこんでる。「リーララちゃんはさっき腕を組んでたから今度は私の番」と言われて俺のとなりの席を取られたのがそんなに悔しかったのだろうか。
「えへへ~、お兄ちゃんに褒められるのは嬉しいです」
反対に満面の笑顔の清音ちゃんは、もはや俺の腕にしがみついてる感じだ。というか山城先生の前で「お兄ちゃん」呼びはちょっと困るんですが……
「もう清音ったら、お兄ちゃんじゃなくて先生でしょ。ごめんなさいね相羽先生、なんかすっかり甘えちゃって。この間泊めてもらった後もまた泊まりにいくんだってずっと言ってるの」
「お兄ちゃん次はいつがいいですか? できれば夏休み前がいいです」
「それはお母さんと相談してね。お母さんがオッケーなら俺は大丈夫だから。あ、でも今度は清音ちゃんが作った料理を食べたいかな」
本当は俺が断ればいいんだろうが、清音ちゃんはリーララが何度も泊ってるの知ってるからなあ。それを持ち出されると断れないんだよな。料理の話を出したのは少しでも先延ばししようという姑息な考えの結果である。
「あっ、わかりました。じゃあお料理を覚えていきますね。お母さん、今日からお料理教えて!」
「あら、それはいいことね。相羽先生、これからも清音にいろいろ注文してあげてくれないかしら」
「え……? いやそれはさすがに……どうなんでしょう」
「お兄ちゃんがしてほしいことは頑張ります。なんでも言ってください」
ニコニコ顔を向けてくる清音ちゃん。でもなんかちょっと目が怖い気が……。いやいや、純粋な子どもの目が怖いのはきっと俺が汚れた人間だからである。
そんなことやりとりを見て、リーララがふくれながら半目になる。
「おじさん先生ってホントにヘンタイでしょ。初等部の女の子を自分好みに育てていただこうとか思ってそう」
「思ってないしそういう品のない話で人をハメようとするな」
「でもわたしのことだって結構自分の好みにしようとかしてるよね。後ろから無理矢理あんなことして言うこと聞かせにきたし」
「相羽先生、神崎さんに乱暴したの?」
山城先生普通の顔でなにをおっしゃってるんでしょうか。いや乱暴って言っても普通に折檻とかそういう意味なんだろうけど、山城先生が言うとちょっとこう……
「後ろからこめかみをこうグリグリとですね。なにしろ人の言うことを聞かないもので」
「女の子にそういうのはダメよ。神崎さんだって言えば分かる子なんだから」
「そうそう、ダメだと思うよ~。わたしだって話せばわかるんだからね~」
「お前は絶対分からないタイプだろ。何度も言うが清音ちゃんを見習え」
「そうだよリーララちゃん。お兄ちゃんを困らせるのはダメなんだからね」
「清音を見習うのもちょっと危ないと思うんだけどね~」
とかなんとか話をしているうちに、その後普通に1時間ほど楽しく喫茶店で過ごしてしまった。
しかしおかげで結局リーララにはなにも買わずに終わったのでラッキーだった。
「はあ? 買い物してないんだからやり直しに決まってるでしょ。また来週付き合ってね。買い物にすると今日みたいなことがあるかもしれないから今度は遊園地とかがいいかな~」
「じゃあ今すぐ買いに戻るぞ」
「今日は用事があるからまたね~」
というわけでまた来週も付き合わされるらしい。まあ暇なのよりはマシなのかもしれないが……今度はカーミラも一緒に付き合わせてみるか? 同郷同士仲良くすることも大切だろうしな。