21章 勇者の日常 07
翌週からは生徒たちも含めて通常通りの生活に戻った。
青奥寺、新良、双党はもちろん朝から元気な顔を見せていたし、三留間さんと絢斗も登校しているところが見えた。清音ちゃんも朝挨拶をしてくれたが、リーララが少し不機嫌だったのは結局買い物に行けなかったからか。
仕事としては授業のほか、合気道部剣道部柔道部合同の校内合宿の準備を少し進めた。合気道部部長の主藤早記が「楽しみにしてますね」と念押しに来るのが微笑ましい。
放課後の『総合武術同好会』では雨乃嬢も来て同じように同好会活動を行った。双党と絢斗に関しては仇のクゼーロが倒れてモチベーションが下がるかと思われたのだが、そのような様子も見られなかった。
そこはちょっと気になったので、練習の合間に双党に探りを入れてみる。
「なあ双党、『クリムゾントワイライト』の日本支部が潰れた後、『白狐』はどうなるんだ?」
「まだ海外に支部がありますから。代わりにどこかが日本に手を出して来るんじゃないかって所長は考えてるみたいです」
「あ~、やっぱりそういう話はでてくるか。そうなったらまた面倒だな」
「だから私も絢斗も気は抜けないんです。もっと強くなっておかないと先生に頼りっきりになっちゃいますから」
なかなか健気なことを言う小動物系女子だが、その目はちょっとだけ笑ってる気もする。もしかしたら健気さを見せておいて俺に頼ろうとか……というのはさすがにうがち過ぎか。
「そういえば今回日本支部を潰したことで、海外の対クリムゾントワイライト機関から問い合わせがきてるみたいですよ。どうやってあの化物を倒したのかって」
「東風原所長は俺の話をしたりしてるのかな」
「う~ん、そこはぼかしていると思います。先生もあちこちから手伝えって言われたら困りますよね?」
「こっちもまだ色々ありそうだしな。そのうち宇宙艦隊も来るし、『深淵獣』もさらに強くなりそうだし」
「カーミラさんの依頼の話はないんですか?」
「まだきちんとした話はないな。あれはあれでまだ俺との距離をはかってる感じなんだろう」
「頼まれたら聞くんですよね?」
「内容によるな。正直あまり関わりたくはないが、一度は自分が救ったはずの世界だからなあ。場合によっては気持ちが動く可能性はある」
「自分が救ったとか言っちゃうのが先生のすごいところですよね~」
「そういえば双党たちは俺が勇者だって信じてなかったんじゃなかったか?」
そう言うと、双党はぷっと吹き出しながら俺の胸を叩いた。
「もう、そんなのはとっくに考えが変わってますよ。あれだけの力を見せられたら世界を救ったのだって信じるしかないじゃないですかぁ」
「あ、そうなの。ならいいけど」
「ところで先生、もしそっちの世界に行く時は連れて行ってくださいねっ。先生が救った世界を見てみたいので」
「単にお前が行ってみたいってだけだろ」
小突いてやると、双党は「えへへ」とか笑って誤魔化した。
するとそのやり取りを見ていた青奥寺と新良が近づいてきた。というかそれを見て絢斗も三留間さんも雨乃嬢までやってくる。
「先生、かがりとどこに行くんですか?」
「あっ、正妻イヤーに入っちゃったか~」
青奥寺は舌を出す双党をキッと睨んでから俺に視線を戻した。
「俺が勇者をやっていた世界に行く可能性もあるって話をしてたんだ」
「それは例のカーミラさんの関係で?」
「行くとしたらそうだな。俺もさすがに自分から好きで行くつもりはない」
「そうですか。もしその時は私も行きます。先生が強くなった秘密を知りたいですから」
「俺がいた時とはだいぶ違うみたいだからあまり意味はないと思うが……まあご両親が許可したら連れて行くよ」
「では私もお願いします」
新良がずいっと顔を寄せてくる。絢斗も三留間さんも、雨乃嬢まで同じことをいいたそうな顔である。まあ剣と魔法の異世界があるなら、そりゃ一度は行ってみたいとは思うよな。俺はそこで地獄を見てきたんだけど。
「その時がきたら一応声はかけるよ。だけどなにがあるか分からないから今より強くなるのは必須ということで」
「分かりました。この間の『特Ⅰ型』の首が落とせるようにくらいにはなります」
青奥寺が気合を入れ直したようにトレーニングを再開すると、皆それにならってそれぞれの鍛錬を始めた。
彼女らの身体から発せられる魔力の鋭さを見ていると、どうもこの武道場が勇者パーティ養成所になったように感じる。実際この子たちを俺がいた異世界に連れていってもかなり強力な冒険者パーティになるだろう。ただあっちの世界はもうモンスターはいないって話だし、俺たちが行っても場違いな気もしなくはないんだよな。